第3話<2/7> 学校図書室予算事情

古城ミアキ


 月末の放課後休館日は月1回開催の選書会議の日だ。図書委員は全員揃う機会はあまりないんだけど、この日は大抵全員が揃う。

 私達1年生は誰か当番の時、掛け持ちの部活がなければ図書準備室に来るようにしていた。そんなある日、連休明けぐらいだったか選書会議について音田先生と秋葉先輩からレクチャーを受けた


「修羅場だけど楽しく意見をぶつけ合いましょう。スケジュールは空けてい置いてね。来なくてもいいけどその月、その人の購入希望の意見は入らなくなる事は了承してね」

なんてことを和やかにいう音田先生。

 秋葉先輩からは「まあ、一度出てみないとあの面白さは分からないんじゃないかな」と笑顔で言われた。


 そして私達が初めての選書会議の洗礼を浴びたのは5月末の事だった。


 私は会議前に準備室に寄ってねって音田先生に呼び出されていた。授業が終わって飛んでいくとちょうど淹れたとかいうコーヒーを片手にコナリーの晩年期に入ったボッシュシリーズの最新作の原著を電子書籍で買ったとか言われて自慢されてしまった。うーん。音田先生に負けるなあと思うのは原著まで手を出すところ。あの執念は凄い。翻訳者の人、早く訳してくれるといいんだけど。

 そうそう、コーヒーは美味しかった。なんと2杯目まで勧められた。普段は先生の私物って言われていて手を出す事は厳禁だったのでちょっと驚きだった。

「ミアキちゃん、空き教室、先に行ってくれる?雑用片付けてすぐ行くから」

そう音田先生に言われたので先に会議に使っている隣の空き教室へ行った。

 中央校舎1階の空き教室を借りて図書委員会メンバー3年3名、2年2名、1年3名と顧問の音田先生を入れて9名が三々五々集合した。

机はみんなで口型に並べた。そして前にはこの教室に放置された電子黒板を移動させておいた。

 リクエストについては手書きの分は毎日当番の委員がサーバーのリクエストフォームに書き込んでいた。もっとも大抵の生徒はタブレットやPC、スマートデバイスでリクエストをサーバーに登録してくるので音田先生がリクエスト申請者のクラス、氏名を隠した上で表計算ファイルに書き出して電子メールで図書委員に送ってくれていた。


 音田おんだ先生と秋葉あきば先輩が猛獣同士甘噛みし合いながら入ってきた。

音田おんだ先生、ああいうの趣味じゃないですよね。どうするんですか?」

秋葉あきばちゃん。私が趣味で決めるなんてする訳がないじゃない。公平に学校と生徒のために決めます。ちゃんとどうするか考えてあるからね」

 始まる前から音田おんだ先生と秋葉あきば先輩はハイテンション。戦う気満々。そりゃあ、お金を使う話だから盛り上がっているのだろうと思っていた。


 ここで私達は県立高等学校図書室の実態を知った。

音田おんだ先生が電子黒板にいきなり数字を書き始めた。

「図書購入費 校費20万円+生徒・保護者徴収費100万円

 生徒一人あたり 2,666円」


 音田おんだ先生は言った。

「真面目な話をしておくね。私がここに通っていた頃はもう少し予算がありました。150万円ぐらいだったかな。それが生徒総数削減があって120万円に削減されました。それでも授業料以外で徴収されているその他教材費から図書購入費の大半が出てますが生徒数減少による金額削減幅は特別な配慮で最小限に押えてくれてます。私達はこれを適正に使って図書室の資料を入れ替えて行かなきゃならない。今回から1年生3人が参加割いてくれる訳だけど、思ってなかった金額だと思うけど、それでもここの本が頼りの子は多いと思っているから真剣勝負でお願いします」


 私達3人はお互いに顔を見合わせた上で『はい』と答えた。

この金額だと単純平均で10万円/月になる。お小遣いで買う事を考えたら当然大きな金額だけど学校図書室としては思っていたより少ない。

 ここを頼りにしている生徒も多い。真剣にやらなきゃと気合いが入った。そして闘争の場になるというのは納得できた。平均単価2,500円として1ヶ月あたり40冊程度しか買えない。これを部員と顧問の計9人で決める。学校側で必要な枠もあるのでこれはと推して購入して欲しい本を通すのは大変な激戦なのだ。


「じゃ、悪いけどまずは私のリストから見てね。最初の私のリストは授業など必須書で最新版収蔵必須のものと傷んで入れ替えが必要なものを載せているので悪いけどこれは通させてね」

という展開が来ていきなり10冊分の枠が消えた。残りはあと30冊。

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