モンスターハウス・ルール take oath

「ダーリン! あの蜘蛛の急所は赤く輝く眉間の魔法石だよ」

「ご主人様シールドを展開しますが、あの糸にからまれると厄介です! どうか自力で回避してください」


ガロウとアイギスの声が脳内でこだまする。

俺は蜘蛛が吐く糸をステップでかわしながら、ガロウを蜘蛛の眉間に突き立てた。


「ギャー!」

ガロウが魔力を喰らうと同時に、干からびるように蜘蛛が縮み。

ドロドロと溶けながら、床に吸い込まれてゆく。


ドクンと鼓動のように屋敷全体が揺れ、廊下がかるく波打つ。


「やはり…… この屋敷全体がモンスターなんだろうか」

ガロウとアイギスに問いかけると。


「んー、ダーリンその辺はマーガに聞いた方が早いかも」

「そうですねご主人様…… 今ならもう、彼と直接話もできますし」

2人の声に、俺は改めてマーガを認識する。


ゆっくりと左目に聖力ホーリーを集めながら。

「マーガ、お前なら状況が理解できるのか?」

そう、脳内で問いかけると。


「ディーンちゃん、あたーしも完全に分かるわけじゃーないけど。そーねー、あなたが思うようにどこかにズレがありそうよ。も~少し状況が分かれば……」

マーガの声が聞こえてきた。


「じゃあ、屋敷全体がモンスターの可能性は低いのか」

もういちど確認すると。


「ゼロじゃないけど…… もしそうだとしたら、あまりにも効率が悪いのよ」

どうやらマーガも俺と同じような考えらしい。


俺はケガが回復したシスターや、リリーたちを確認しながら。



このズレの正体に……

――思考を巡らせた。



++ ++ ++ ++ ++



少しでも迷ったら確認。

これは冒険者時代のパーティーでも、その後の放浪時代の仕事でも同じだった。

チーム内の意思疎通や情報共有は、生死をわけるポイントになることが多い。


「リリー、これをどう見る?」


回復したシスターたちに、リリーはどこかの部屋から持ち出したシーツやカーテンの布を割いて、破れた修道服の上に羽織らせていた。


「うむ、下僕よ…… 確かにこの屋敷全体に妙な魔力を感じるが。

我はそれより、主が何に悩んでおるのか。

――そっちの方が気になるんじゃが」


俺はさっきから気になっていた既視感について、考えをまとめてみる。

「なぜかこの屋敷に何度も来たような気がしてならないんだ。今の会話も…… もう何度も繰り返しているような。

――大切なことを忘れて、どうしても思い出せない。そんな気がするんだ」

俺がそう言うと、リリーは首をかしげた。


破れた修道服の応急処置が終わったシスターが2人近付いてきて。

「なんて言ったらいいか…… と、とにかく助かったよ」


モジモジと内股をこすり合わせながら上目使いでそう言った。

泣きボクロがセクシーなこの女性は……


以前ウチの教会を襲撃に来た、紫パンツさんだ。その後ろで、意識を取り戻した赤髪ストレートの切れ長瞳の美少女さんが。


「バーニィ隊長、ここは協力を仰いでもいいのでは?」

同じように内股をモジモジしながら、紫パンツさんに耳打ちした。


なんとか肝心な部分は布で覆い隠してるけど。2人とも太ももは全開だし、破れた修道服の隙間からもいろいろ見えちゃってて。


――なんだろう? この太ももとその奥でチラリと見える2人のパンツが、やけに見覚えがあるような。


「そうだな、ここは一時協定を結んで情報を共有するべきか……」

バーニィ隊長と呼ばれた紫パンツさんは、赤髪のルージュちゃんにそう言って。


「我々はこのような状態だ…… 今までの事を考えると、これが一方的でわがままな申し入れなことは十分承知しているが。

恥を忍んで協力を願いたい。条件はあるか?」

そう言って、俺の目線を追うような仕草をすると。


「そ、そうか…… あたしで良ければ、その条件を飲もう。但しルージュや他の隊員には手出し無用だ!」

さらに顔を赤らめながら、ゆっくりと胸に巻いていた白い布を外し。修道服の破れた個所を少し引っ張り上げた。

片方の膨らみが完全に露出してポロンとこぼれるように弾んだら、赤髪の少女が後ろからガシッとそれをつかみ上げ。


「た、隊長! その役はあたしがしますのでご安心ください」


ああ、やっぱり。この一連のセリフや、バーニィ隊長のツンと尖った美しいおっぱいも。知っているような気がしてならない。


「ちょっと待ってくれ! 俺はただ聞きたいことがあるだけだ。そんなことしなくても協力は惜しまない」

俺がそう言うと、なぜか赤髪の少女…… ルージュちゃんが、「ちっ!」と舌打ちしたが。また襲い来る頭痛と戦いながら、俺はもう一度思考を巡らせ。


「ああ、そうだ…… 俺の考えを聞いてくれないか?」

破れた修道服で絡み合う2人の美女と、子ブタに乗って首を傾げたリリーを。



俺は呼び寄せて……

――この違和感を破るための作戦会議に入った。



++ ++ ++ ++ ++



「つまり下僕は、この屋敷とモンスターに同時攻撃を仕掛けて。

まずこの状況の謎を解明したいと言うのじゃな?」


リリーがそう言うと、子ブタはブヒブヒと頷き。

バーニィ隊長は栗色の髪をふわっと揺らして、不思議そうに首を傾げた。


「ディーンさん、この屋敷の正体とやらを探りたいのは分かるんですが。

それなら別々に攻撃した方が確実で安全なんじゃないかと」


「バーニィ隊長の言う通りだが…… それじゃあこの屋敷の本当の姿を知ることができない気がするんだ」

俺が蜘蛛がいた場所を指さすと、全員が跡形もなくキレイになった廊下を見た。


「屋敷全体にまだ魔力は感じるが、蜘蛛が消える瞬間のように、廊下が波打つわけでも屋敷全体から鼓動が感じられるわけでもない。

――危険かもしれないが、やはり同時に探るのが確実だろう」


真夜中の福音のメンバーも理解してくれたようで、俺の言葉に頷いてくれた。

後はこの何度も同じことを繰り返している気がする既視感と、バーニィ隊長たちから感じる違和感だが。

これは直接彼女たちに聞いてみるべきだろう。


ここで情報共有をおこたって、ミスをしたくなかったし。

――この既視感が、そうしろと俺に告げている気がしてならない。


「バーニィ隊長、真夜中の福音のメンバーは財団と神学院が作った『半人造人間』だとジェシカから話を聞いた。

どうやら俺は、その人造部分の魔力的な波動を感じることができる。しかし今、バーニィ隊長たちからその波動を感じないんだ」

俺がそう言うと、バーニィ隊長とルージュちゃんの2人が近付いてきた。


えーっと、2人とも距離が近すぎるし。その、白い布がズレてヨコ乳や太ももが見えちゃってますが……


俺が慌ててるとバーニィ隊長を遮るように、ルージュちゃんがさらに前に出て、俺の手を取った。

「あたしたちは特殊な魔力回路を移植されてますから、それを感じ取れる魔術師がいてもおかしくありませんが。それを今どうして確認したいのでしょうか?」


ルージュちゃんはちょっと上目使いに照れたような感じで、切れ長の瞳を俺に向けた。リリーとバーニィ隊長が何故かにらんできたから。


「この屋敷全体の違和感の正体が、そこにあるかもしれない。この一連の出来事の背景には、人造生命体の何かが絡んでいるのは間違いないからな。エマやジュリーもそうだし。このタイミングで拘束されていたジェシカの事も気になる」


シスター・ケイトと陛下の波動の件は、とりあえず伏せておいたが。エマとジュリーとジェシカの3人は、間違いなくこの事件の渦中にある。


「それじゃあ、あたしの魔術回路を確認してみますか?」

ルージュちゃんの申し出に。


「助かるよ、それでひとつ謎が解ける。

あー、リリー。そう言うわけだから、これは決して変な意図はない」

にらむリリーに念押しをしてから、俺はマーガに脳内で語りかけた。


「マーガ、彼女の魔術回路を確認したい。どうすればいい?」


「そーねー、あたしがサポートに入るから。

いつもの回復の祭辞のように、彼女に聖力ホーリーを送り込んでちょうだいな。

できれば回路に近い場所に直接触れて……

――それが一番確実だから」


マーガの言葉に俺は少々戸惑ったが。


「魔術回路の近い場所に直接触れるが、大丈夫か?」

ルージュちゃんにそう言うと。


「あっ、はい。えーっと、あたしは右足が人造です。だからその、魔術回路はここになりますが……」

握っていた俺の右手を、彼女は引き込むように自分の太ももに持って行った。


破れた修道服をおおう白い布がはらりと落ち。若々しい太ももと、大人っぽい彼女に不似合いな花柄パンツが見えた。

俺の手がその内側に添えられると、温かさと張りのあるムッチリとした弾力が伝わってきて。思わず、おどろいて手を引きかけたら。


「その…… やっぱり人造の身体なんて、気持ち悪いですか?」

赤いストレートヘアをサラリと揺らしながら、ルージュちゃんは少し悲しそうにそう呟いた。


「そんなことはない、ただ女性の脚に手を触れるのが、その…… 失礼なような気がして。気持ち悪いなんてことは、みじんも無い。嬉しいぐらいだ! そ、そうだな。キミはとてもきれいだし」

俺がしどろもどろでそう答えると。


「噂とは少し違うんですね。その…… 美女をたくさん引きつれてて、あっちも凄いって聞いてたんですが」

少しからかうように微笑み。嬉しそうに、そのスレンダーな身体を俺に寄せる。


なんだか周りの視線が、さらにとげとげしくなった。


俺は急いでマーガに確認する。

「おい! やっぱりお前の能力に、変な催淫効果があるんじゃないのか? 回復の祭辞をのべる毎に、変な事が起きやすくなった気がするんだが」


「ディーンちゃん、前にも言ったでしょ! この手の魔術は術者の心が直接流れ込みやすいから。彼女たちは、ディーンちゃんの気持ちに反応してるだけよ。

あたしの能力はそれの補強だから、こっちに責任はないわ。

まあ確かにディーンちゃんのアレは、百の口説き文句より効果的かもねえ……

あんな優しい聖力ホーリーは、ラズロットちゃんですら出せなかったもの」


「俺は、女たらしでも有名だったラズロット以上の変人だと?」


「そーゆーことじゃなくて。

ただ単に、ディーンちゃんがモテるってことなんだけどねえ」

どうもマーガの話に納得がいかないが。


俺は空いた左腕でルージュちゃんを抱き留め。

「これから回復術の要領で聖力ホーリーを送る。力を抜いて、リラックスしてくれ」

そう言うと。


「その…… あたし。今まで幾度も神に祈りを捧げ、この部隊に入ってからも闇族や魔族を倒す使命を全うしてきましたが。先ほどの回復術で感じた包まれるような安心感は初めてでした。

――ディーン様はやっぱり、聖人様なのですか?」

彼女は小声でそう聞いてくる。


「俺はただの成りたての司祭だよ。

けど安心してくれ。この事件が解決できたら、必ずキミは幸せになれる」

そう答えると、ルージュちゃんは少し不思議そうな顔をして俺を見上げた。

だから俺は。


「少女ってのはただそれだけで、幸せになれる権利を持ってるのさ」

俺はクールにそう呟いて。

彼女に世界の真理のひとつを教えてやった。



そう、それは。たとえ神がはばかろうとも……

――曲げてはいけない男の欲望なのだから。

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