Season 1 epilogue 【自称伝説の古龍はお年頃】

・・・ イザベラ ・・・



やっと…… サイクロンに帰ってこれた。

聖国までの道のりも長かった気がしたけど。

――帰りも大変だった。


ディーンって、アレでトラブルメーカーと言うか。

なんかいろんなものを寄せ付ける何かがあるんだと思う。

そして、それをことごとく解決してくから。まあ、かっこいいんだけど。


……正直、今回はちょっと疲れたわ。



それから聖国では通信魔法板で仲良くなった「ていらあ」さんの正体が。

テイラー宰相だとわかって、あせったけど。


「これからも宜しく」と、笑顔でこたえてくれて……

今でも通信友達だ。


行方不明になったフェーク公爵が「ふぇい」さんのようで。

あたしが心配していたら。


「彼女のことだ…… 間違っても死ぬことは無いし。

いたずら好きのはねっかえりだから、そのうちひょっこり顔を出すだろう。心配しなきゃいけない事は、次は何をやらかしてるのか。

――そっちの方だから」

だそうだ。


それから、ディーンの賢者会時代の兄…… 血はつながってないそうだけど、そう呼んでる。

レイヴンって言うヤツと。

黒使徒と呼ばれてる幼女を捕まえたけど。


幼女は、ペンタゴニアの魔術が発動してしばらくすると。

ミイラのように干からびて死んでしまい。

レイヴンは……

賢者会時代からの記憶をすべて失った状態で、意識を戻した。


テイラーさんの話では、その後の聖国と帝国の連合調査でも。

「黒使徒は、移転などの魔法で逃げたのではなく。

ディーンとリリーの手によって殺されかけた『闇の王』によって。

エネルギーとして利用され命を失い。

レイヴンもその時の影響で、幾分の生命力を奪われ。

――この状態になった」と、結論付けられたそうだ。


ディーンも心配していたけど。


「レイヴンは今後私が親となり、育ててゆくよ」

テイラーさんがそう言うと、安心したように微笑んだ。


移動中も何度かテイラーさんと通信魔法板でやり取りした。

ディーンのことをもっと知りたいって伝えたら。

子供時代の話をいろいろしてくれて。


――負けず嫌いで、できないことがあると夜も寝ないで勉強したり。毎日訓練したり。『ぴいまん』という苦い野菜が嫌いで、それが料理に出るとこっそりと残して怒られたり。


たぶん落ち込んだあたしを、テイラーさんは気遣ってくれて。そんなことを教えてくれたんだろう。何かと気が付く人だ。


あたしを悩ませている原因は、リリーだ。


ディーンとリリーの関係がどうも怪しい。なんだか2人の間に割り込めない空気みたいなものが漂うことがある。


彼女の姿が急に15~16歳ぐらいに成長したせいで、そう思うようになったのか? いやでも、たまに無言で見つめ合ったり。

ディーンがなにかを言いかけて、リリーがそれを照れたように無視したり。

あの雰囲気に、女の感が危険信号を出してるのよね。



考え事をしてたら、お父様に話しかけられた。

「うむ、イザベラ…… 今日は勇者殿の結婚式なんだろう?

そんな派手なドレスで、花嫁殿に失礼にはならんのかね」


「ええ問題ないわ! 花嫁様は黒森人の血の混じった絶世の美女ですし。

なんでも『きもーの』と言われる異世界ドレスを着るそうですから」


だからこの辺で、挽回が必要な気がしてならない。

今まで最大のライバルはケイトだと確信してたけど。そこに標準を絞ってて、ダークホースに持ってかれたんじゃ、目も当てらんないから。



あたしは鏡を睨んで……

――グッと気合を入れた。



・・・ ケイト ・・・



今日は教会で結婚式が行われる。


聖国でディーン様が仲良くなった勇者様と。

そのお付き? の魔術師アオイ様との挙式だ。


聖国か帝都で盛大に…… と言うお話もあったようですが。

「そーだねぇ、今更ってとこもあるし。

どこの教会で挙げても、問題が起きそうだから。

内輪でひっそりと、ディーンさんの所でお願いできないかな?」

勇者様がそうおっしゃったら。


「勧めた手前もあるし。うちで良ければ、いつでも」

ディーン様が、かるく引き受けてしまいました。


おかげでサイクロンに戻ってからこの数日、てんやわんやで。


今も気持ちよく晴れた教会の中庭では、ご招待されたお歴々が……

お酒を召しあがって、とんでもないことになっています。


「そこで吾輩の『無殺の惨殺剣』が火を噴いて!」

テーブルにのって演説をはじめちゃった、残念な感じのポッチャリした魔人さん。


「よっ、大統領! 待ってました」

それに合いの手を討つ鳥族の魔人さんや、そのお付きの人たち。


警護に付き添ってきたライアンさんの話だと。

「おしのびなので身元は言えないが、まあ、それなりの人たちなんだ」

だそうです。


確かにあのポッチャリ魔人さんからは、とんでもない強さの陰が浮かんで見える。

皆さんに「大統領」って呼ばれてるけど。

その呼び方に『ウソ』が感じられないし…… うん、深く考えるのはやめよう。


少し離れたテーブルでは、帰り道に帝都で仲良くなったミリオンさんが。

「だーかーらー! たまにはハメを外したって、いーでしょー!」

おしのびで来られたバリオッデ宰相殿下にからんでる。


ミリオンさんは「あたしはただの街娘よ」と言ってたけど。

宰相殿下がおろおろしながら、「陛下、そのへんで……」と、小声で呟いた。

うん、こっちも聞かなかったことにしよう。


あたしがお酒や食べ物をテーブルに運んでたら。

「みんな久しぶりに集まったからさー、嬉しくって仕方ないのよ。

勘弁してあげて!」

給仕を手伝ってくれてるローラ様が声をかけてくれた。


「そんな! せっかくのお祝いの席ですし、それにお手伝いいただいて、こちらの方が申し訳ないです」

あたしが慌てると。


「いーよいーよ、あたしは奴隷だったこともあるし。クラリスは貧乏教会でシスターしてたんだ、こうゆうの慣れてるからね」

ローラ様の横で同じように手伝ってくれてるクラリス様が微笑みました。


この御方は真円シンエン教会の聖女様だ。

彼女が勇者様にお供して、魔族軍と戦ったのは有名なお話です。


「あたしの出身はサイクロンなのよ。久々に帰れて、楽しいわー。

ねえケイトさん、これから仲良くしましょう!

お互い情報交換できると、なにかと便利そうだし」

なんの含みもなく嬉しそうにそうおっしゃって。

通信魔法板を差し出してきました。


あたしも慌てて通信魔法板を取り出します。

ディーン様に買ってもらって、もうずいぶん経つけど。今だに操作が苦手で…… 戸惑ってたら、クラリス様がササッと操作してくれました。


「これでキドとアオイも一段落したし…… 勇者の冒険も一段落なのかなー? うーん、あたしも再就職考えよーか」

ローラ様が、ふと、そうおっしゃいました。


聖国からの帰り、いろいろあって。それからどうもローラ様の態度がおかしいです。今も教会から出てきたディーン様を見て、嬉しそうに目を輝かせていますし。

恋心に近い輝きが頭上に浮かぶのも…… 危険です。


人族で、お歳は30を少し過ぎていると聞いてますが。

お顔は20代にしか見えないし、お肌は10代でも通用しそうな美しさです。

胸も、あたしと変わらないぐらい大きく…… 危険です。


「あ、見て! アオイが来たわよ」

ローラ様の声に、あたしがチャペルに目をやると。

「うわー、キレイ! あんな衣装初めて見たわ」

クラリス様も歓声を上げました。


「あのっ、では仕事に戻りますから!」

あたしは急いで、その後ろに立つディーン様に駆け寄り。


『しろむく』と言う衣装を着られたアオイ様と、『もんつき』と呼ばれる衣装を着られた勇者様を、チャペルの中央までご案内した。


お2人のお姿では、違う様式でご結婚の儀を行うそうですが。

「形式は任せるよ」と、勇者様がおっしゃったので。

今回は転神教会の作法で行います。


ディーン様がお2人の間に立ち、祝辞を述べ始めました。


聖典を引用したお言葉を、相変わらずなにかを見る訳ではなく。

優しい声で語りかけます。


初夏特有の柔らかい風が、中庭にそよぎ。

騒いでいたみな様が、静かに2人を祝福しています。


ディーン様の頭上に、淡い光がともります。

あたしだけが見える不思議な光。


あの色は…… 強く、未来への幸せを願っているのでしょう。

それは「切望」の輝きでした。


ポッチャリした魔人さんも悪酔いしていたミリオンさんも。

その光に気付いたようにディーン様を見つめて、驚きの表情を浮かべた後……

自然と祈りを捧げました。


そして真円シンエン教会の聖女クラリス様まで。

まるで神に祈るように、ディーン様に頭を下げます。



ディーン様は、今なにを考えているのでしょう。

少しずつですが、最近は昔のことをお話してくれます。


帝都では、過去ご結婚されていたことや冒険者時代のお話を聞きました。

2人を祝福するディーン様の強い心に。


――あたしの胸が締め付けられます。



ああ神よ、どうかディーン様にも祝福を……

――あたしはもういちど深く、祈りを捧げました。



・・・ リリー ・・・



バカ騒ぎしておった来賓の連中にも雑じらず。かといって、下僕やエロシスターの手伝いをするわけでもなく。

珍しく端っこでいじけておった、お嬢様に声をかけると。


「なによ!」

反抗的な目で睨まれてしまった。

……心配してやっておるのに、まったく無礼なやつじゃ!


「どうしてあやつらの中に入って行かんのじゃ?」

念の為聞いてやると。


「ちょっと出席者に気後れしたってゆうか…… なんで皇帝陛下までいるの?

って言うか、陛下がなんでディーンに色目使ってるの?

それに、ケイトを手伝おうにも。聖女様や、あの巨乳剣士が邪魔で……

って言うか、あの女剣士は勇者の女じゃないの! フラれたから、ディーンに乗り換えようっての?」

ぐちぐちと、怒りを吐き出しよった。


まあ、気持ちは分からんでもない。

最近よーくわかったが、下僕はバカでも女たらしでもなく。

――天然の大バカじゃった。


ラズロットのように、あっちにホイホイこっちにホイホイ女をつくりよって。

しかもその女たちに手を出さないという離れ業を成し遂げとる。

真のバカじゃ。


「本当に、困ったヤツじゃ……」

我がため息をついたら。


「そもそもあなたが。 ――いや、もういいわ。

それが問題じゃないって、今わかったから」

お嬢様がそう言って、そっぽを向いた。



我の胸中に、ふつふつと怒りがこもる。

この怒りの矛先は、お嬢様でも下僕でもなく。

行方をくらましておる我が妹…… テルマへのものじゃ。


下僕のやつが我に、せ、せ、接吻した後……

「これが、この石に込められた『おまけ』だったのか」

そう言うものじゃから、慌てて石の術式を探ったら。

――変なものが見付かった。


「テルマー! うぬは、何を考えとるんじゃ!」

気配を探ると、どうも部屋の外でのぞき見をしておったようじゃから。

こん身のブレスを叩き込んでやると。


「きゃー! ねーさん、ごめーん」

笑いながら爆走して逃げよった。


龍力を全開にして、2刻ほど追いかけまわしたが……

姿を見失ってから、サッパリ音沙汰が無い。


聖国でもやつがいなくなって混乱しとるそうじゃが。

――見つかったら、今度こそ息の根を止めようと思っておる。



さらに困ったことに。

下僕なりに気を使って話しかけてくれるのじゃが……

時折、何かが胸を締め付けることがあって上手く会話ができん。


ペンタゴニアの龍力を浴びて、フルパワーの姿になってから。

いつも通り元の姿に戻ると思ったんじゃが、少し成長し。


下僕とせ、せ、接吻してから。

さらに数歳成長したようで、今では人族で言えば15~16歳ぐらいの姿じゃ。

この身体の異変も、下僕と上手く話せん原因かもしれん。



チャペルの鐘が響き。

下僕が祭壇から降りて、隅っこでむくれていた我らに気付くと。

こちらに向かって歩いてきた。


「リリーありがとう、お嬢様の面倒を見てくれて」

すれ違いざま我に小声でそう言って、下僕はお嬢様に話しかけた。


「なによ!」

相変わらずのお嬢様に、下僕は苦笑いしながら。


「壁の花には派手で美し過ぎる。

最近元気がなかったみたいだが…… 今日は祝いの席だ。

――皆で楽しもう」

そう言ってお嬢様の手を取った。


お嬢様もまんざらじゃないようで、ぱあっと笑顔になる。

……実に単純じゃ!


まったく、この天然の大バカ者をどうしたら良いのか。

またチクリと痛んだ胸に戸惑いながら。



我は人知れず……

――小さくため息を漏らした。





End of the season 1

Self-name legend dragon is just a girl

to be continued.

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