黒い悪夢1 おっぱい密度

リリーとらーめんを食べて部屋に戻ったら。

お嬢様とルイーズとシスターに激しく怒られた。


確かに俺も悪いと思う部分があったから。

彼女達の言い分を素直に聞いて、反省した。


そして『せいざ』と呼ばれる異世界姿勢で彼女達の叱咤を受け。

『どげざ』と呼ばれる最上級謝罪姿勢で、お嬢様に踏まれた辺りで。

……なんとか、許された。


先頭で憤慨していたお嬢様は、ガウンを羽織ってはいたが。

暴れるたびに透けたネグリジェから、おっぱいが見えちゃってたし。


恍惚とした顔で、レースのパンツをチラチラさせ。

俺を踏んで喜んでいた姿は、妙な色気があって……


もう、お金を払いたいレベルだった。

――なんか足から良い匂いもしてきたし。


その辺りで他の2人がドン引きして、事なきを得たが。

危うく開いてはいけない、新たな己の扉が開くんじゃないかと。



かなり真剣に……

――俺は、恐怖を感じた。



++ ++ ++ ++ ++



また…… 眠りの中で。

これが夢だと自覚している。


場所は学び舎の奥の、セーテンの庵のあった山の中。


そこには。

秘湯と呼んで良い、出湯が数カ所あった。

俺達は稽古が終わると、その湯で汗を落としていたが。


「よし、これから山中にて修行だ!」


ジャスミン先生との武術練習が終わると。

良くセーテン老師が話しかけてきた。


「また、ジャスミン先生に怒られますよ」

レイヴン兄さんはそう言って、その修行に参加しなかった。


彼は稽古の後、フレッド先生と勉強することが多く。

多くの書籍を読破し、医学や薬学……

化学などの分野で多くの研究成果を出していた。


俺はいつも性懲りも無く、その山中修行に出かけていた。


夢の中で、俺の手足の長さは今とほとんど変わらない。

ああ、これは…… 俺が14歳の頃の夢だろう。


黒き森人の血をひくレイヴン兄さんと、見た目や背格好はほぼ同じ。


ジャスミン先生も、長命の山猫族だったから。

出会った頃とあまり変わらず、若々しい姿だった。


切り立った岩々を命がけで駆けあがり。

樹齢数百年の樹を、特殊な技術を駆使して登った先には。


秘湯に浸かるジャスミン先生の美しい姿があった。


「うーむ、あの胸の張りと形! ディーンよく見ておけ。

――あれが美だ!」


「はい、老師! しかと目に焼き付けています!

しかし…… 大きなおっぱいと言うのは、湯に浮くものなんですね」


「ディーンよ、さすがだ! 良い所に注目しておる。

ふむ、浮力についてもう少し学ぼうか!」


セーテン老師は、空中に指で。

p = p0 + ρhg


と書きだし。


「前に圧力の話しはしただろう。

水や空気に存在する、物を締め付ける力だ」


俺が頷くと。


「おっぱいの上面を押す圧力: p1 = p0 + ρh1g

おっぱいの下面を押す圧力: p2 = p0 + ρh2g

その差が、おっぱいの浮く力…… 浮力になる」


「て事は……」

俺がその続きを空中に書き出す。


F = p2×S - p1×S

   = { p2 - p1 }×S

   = {(p0 + ρh2g) - (p0 + ρh1g)}×S ……


「えーっと」

途中で分からなくなるが。


「あっ!」

……いつも、なんとなく答えが見える。


俺が空中に F = ρVg

そう書くと。


「はっはっは! ディーンは勘が良いが、途中の構築が苦手だな。

しかし、そのひらめきは宝だ! 大切にせい。

学び、記憶し、構築するレイヴンとは正反対じゃが。

――どっちが良いと言うものでもない」


俺達はそれから、ジャスミン先生のおっぱいを観察しながら。

おっぱい密度や、おっぱい体積について語り合った。


今考えれば、ひと所でじっとして学ぶことが苦手だった俺に。

セーテンが特別な授業をしてくれていた訳だが……


大きなおっぱいが好きになった理由も、その辺にあったのかもしれない。



その場所は、賢者会の女性も利用する場所だったから。

物理的な罠や、魔法を駆使したトラップがひしめいていたが。


その頃には老師の教えにより、罠を楽々回避し。

魔法トラップを解呪する事が出来るようになっていた。


「……老師、誰か入ってきましたよ」


「うーむ、あれは薬師専科のベッキーじゃないか?

どれどれ、どのぐらい成長したか。

――わしが、しかと確認してやろう!」


その言葉に、俺は思わず。

「あっ、こんなところに蜂が」

老師を突き落とし。


「うおーっ、ディーン! な、に、を、すー、るー」

絶壁の岩場に転落する老師を確認して。


「あの程度じゃ、ケガひとつしないからなー」

一息ついた。


タオルを巻いたベッキーが、湯船に浸かるために……

それを外す瞬間まで確認して。 ――俺はそっと、樹を降りた。



ベッキーはセーテンの弟子ではなかったが。

その頃俺達の、妹のような存在だった。


賢者会の学び舎には『専科』と呼ばれる専門技術を学ぶ場所がある。

『建築士』や『薬師』と言った免許を交付する場所で。

賢者会のお墨付きがもらえれば、独立して仕事をする事が出来た。


ベッキーはその専科の『薬師』の生徒だったが。

森で薬草を採取中に魔物に襲われ、それを俺が助けたのがきっかけで。

ちょくちょく庵に顔を出すようになった。



ベッキーが食事等の家事を手伝ってくれるから……

――俺達は、家族のように付き合っていた。



++ ++ ++ ++ ++



翌日、ベッキーの薬草採取に付き合って森を歩いていると。


「ねえ、ディーン兄さん。

昨日またお風呂覗いてなかった? ジャスミン先生が……

老師様の叫び声が聞こえたような気がするって、言ってたんだけど」


頬を膨らませながら薬草を摘むベッキーに、俺はしらを切る。

「さあ、気のせいじゃないのか」


1歳年下だったベッキーは、当時13歳。

やや痩せた体躯に、腰までの赤髪ストレート。

ツリ目の大きな瞳には、まだ幼さが残っていた。


彼女が森で作業をする時は、長袖長ズボンのブカブカな作業着だし。

普段はローブを羽織っていたから気付かなかったが。


――胸は少し膨らみ始めていた。


ほんの一瞬だけ見た、それを思い出しながら。

作業着姿の胸をついつい見ると。


「……もう、バカ!」

俺の目線に気付いたベッキーが。

持っていたカマを、フルスイングで投げてくる。


「危ないな、普通の奴だったら大ケガだ!」

左手でカマを受け取り、抗議すると。


「や、やっぱり見たんでしょ」


ベッキーは肩で息をしながら、真っ赤な顔で睨んで……

背負っていた薬草カゴを投げつける。


「うわっ!」

避けるか受けるかの判断が遅れ、そのままカゴにぶつかり。

大量に散らばる薬草にまみれ、尻もちをつくと。


「いい気味よ、少しはレイヴン兄さんを見習ったら!」

ベッキーは、そう言ってそっぽを向く。


レイヴン兄さんはその頃、庵で修行と研究を行いながら。

学び舎で幾つかの授業をしていた。


薬師専科もそのひとつで。

ベッキーの話によると、彼は生徒たちの憧れと尊敬の的だそうだ。


「なら薬草狩りの護衛も、レイヴン兄さんに頼めばいい」

不貞腐れて、俺がそう言うと。


「レイヴン兄さんは、ディーン兄さんと違って忙しいのよ。

――そんな事、頼めないわ。いつも遊んでばかりで……

なんでもできちゃう天才とは、あたし達は違うの」


ベッキーは落ちた薬草を拾い集めて、怒ってひとりで歩いて行く。

俺は何か言おうとしたけど…… 上手く言葉が出なくて。


ただ彼女が魔物に襲われないよう、距離を取って追いかけるだけだった。


森の出口近くで、もう安心だと思い。

いちど立ち止まって、樹の上に話しかける。


「ジャスミン先生、いつからつけてたんですか?」

「あれ、バレてた?」

「気配をほとんど消して無かったじゃないですか……」


俺がため息交じりにそう言ったら。

ジャスミン先生は、樹からヒョイと飛び降り。


「でも普通、気付けるもんじゃないんだけどね」

俺の前に立って、ニヤリと笑った。


「覗きなんて…… 趣味が悪いですよ」

「うーん、ディーンには言われたくないなー」


やっぱり、風呂を覗いてるのがバレてるんだろうか?


完全に気配を消して、あの距離から。

ジャスミン先生の能力は、やっぱり凄い……


俺が誤魔化そうとそっぽを向くと。

――突然抱きしめられた。


「あんた程じゃないけど、あたしも似たようなもんでさ。

努力が見えにくいタイプなんだよね。


『天を見て、地を感じ、森を知ることで真実に至る者。

書を読み、人に教えを請い、学ぶことで事実を知る者。

共に探究者なれば、その差無し』


……ってね。

でもまあ、なかなか理解されないんだな。これが」



ジャスミン先生の呟きは。

初代大賢者ドーンが弟子たちに伝えた言葉のひとつだ。


その言葉と、大きな胸がムニュっと当たるのが恥ずかしくて。

「先生…… もう俺14なんですよ」


ジャスミン先生を振り解く。

……たぶん俺の顔は、真っ赤だったんだろう。


「あらあら! ディーンも、もうお年頃だもんね」

悪戯っぽく笑うその顔は。


猫耳に、ライトブラウンの腰までの長髪。

同じライトブラウンの切れ長の眼は、妖艶で。

大人の色気に溢れていた。


チューブトップに詰め込まれた大きな胸や。

ホットパンツから延びる美しい太ももに、目が行くと。


「お風呂なんか覗かなくても。

い、つ、で、も、見せてあげるから!」


ジャスミン先生はウインクしながら腰に手を当て、髪をかき上げた。

俺の顔がさらに赤くなると。


「もう、可愛いー!」

そう叫びながら、また抱き着いて来る。


浮くのが不思議なぐらい、密度の高そうなおっぱいの弾力と。

ジャスミン先生の汗ばんだ香りが、俺の脳をグラグラさせた。



今思えば、尻尾や耳や女性の匂いが好きになったのも……

――この影響なのかもしれない。

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