なんだここは…… エロ魔境なのか!

翌朝、司祭室で魔法陣解析のための準備を行った。


列車で移動を行うとしても、途中帝都に寄って、聖国まで行き。

そこから問題を解決して戻ってくるとなると。


――早くて数週間だ。


持って行けるものも限られるので、今やれる準備は出来るだけしておきたい。


ルウルとラララ、それからルイーズにもお願いして。

状況の確認と、解析を手伝ってもらうことにした。



「この箱と鍵は、レコンキャスタの同士が証として持つものだ。

奴らは各地に散らばっていた『遺跡』を研究して。

応用魔法を利用しながら、その秘儀を解き明かしていたからな」


ルイーズが、以前リリーを閉じ込めた箱を見ながら説明する。

今日もスーツと呼ばれる異世界服を着こなし。

ブラウスのボタンは上3つ全開だ。


――そんなに近付いて覗き込んだら、何かが見えそうなんだが。


ルウルがルイーズを睨みながら、その箱を取り上げる。


今日も女子力満載のフリフリ・パステル色の服に身を包んでいるが……

既に言動が「素」の状態だ。


「封印箱と情報記録石がセットで『証』って事は。

それを使って、情報共有でもしてたのか?」


鼻息荒く叫ぶルウルを見ながら、ラララはのんびりとお茶を飲んでた。


「でもその情報記録石の内容ってさ。

ダミーか何かなのっ? まったく意味不明でしょ」

ラララの質問に、ルイーズが答える。


「情報記録石の解読には、決められた暗号が必要だ。

あたしが所属していた時の階級では、読める範囲が限られてくるが」


ルイーズがルウルから箱を取り上げ、魔力を通すと。

情報記録石が輝き、幾つかの図面と文字が空中にあらわれた。


俺がそれを読む。


「同士よ集え、宰相を暗殺せんと……」

その下には、魔法陣と建物の設計図らしきものがある。


「ねえ、ルウルちゃん! これってさ。

ペンタゴニアに似てないかなっ?」


ラララがテーブルにお茶をおいて、乗り出してきた。

指をさしたのは、その中央にある建物設計図だ。


「ん? ペンタゴニアって、聖国の本城だろ。

あー、あそこの宝物殿も狙おうかって、情報集めてたもんな。

確かに似てるって言えば、 ……そーだな」


聖国の本城「ペンタゴニア」は、5角城の異名を持つ異形の建築物だ。


「ラララ、ルウル! その資料はまだあるか!?

そうか、バリオッデ宰相の来領ですっかり勘違いしていたが。

――狙いは初めから聖国。

宰相は、聖国のテイラー・ロックウッドの事だ!」


俺が慌てて立ち上がると。3人は顔を見合わせ。


「資料なら、あたい達のアパートにあるが……

どうする、これから持ってこようか?」


「それならルウルちゃん、司祭様に来てもらったらっ?

どれが必要か判断できるだろうし、それほど遠い場所じゃないしっ!」


「そうか、それなら頼めるか?」

俺がそう聞いたら。


「えっ? あ、うん」



ルウルが困ったように頷き……

――ラララが楽しそうに、ニヤリと微笑んだ。



++ ++ ++ ++ ++



教会から徒歩でそれほど時間がかからない場所に、その建物はあった。

最近人気の集合住宅らしく。

応用魔法が取り入れられた警備システムまで導入されていた。


「あたし、自分の部屋にいるから。

あとはルウルちゃんお願いねっ!」


リビング兼アトリエになっている部屋に通されると。

ラララは、そう言って出て行き。

俺とルウルだけが残された。


「お、お茶でも飲むか?」

「ああ、ありがとう。それより資料を早く見たい」

「そ、そうだな…… 分かった。今持ってくるから」


なぜか落ち着かないルウルは。

手書きの羊用紙や、幾つかの情報魔法石を持ってくると。


「先に目を通しててくれ。

――いま、お茶を入れてくる」


そう言って、リビングを出て行った。


羊用紙の資料は、ペンタゴニアの古い設計図の写しだった。

どうやって入手したのか聞きたいほど、詳細の書き込みがある。


情報魔法石も、通信魔法板で確認すると。


ここ最近の改修工事や、新規導入した応用魔法具の情報が開示される。

中には、警備体制の情報まで存在した。


『オルトロス』の盗みの凄さは、2人の身体能力だけではなく。

この事前の徹底した準備と。

建築や美術、魔法などの専門知識の高さにあるのだろう。


俺が『箱』の情報魔法石の設計図と、それらの資料を見比べていると。


「やっぱり、そいつはペンタゴニアだな」

ルウルがお茶を持って来てくれた。


部屋着に着替えてきたようで。

胸の開いた、ゆったりとしたシャツに。

柔らかそうな生地のホットパンツを穿いている。


「凄いな…… こんな情報どうやって仕入れるんだ?」

衰退したとはいえ、これは聖国の国家機密だろう。


「それは言えないな! 職業上の秘密ってやつだ」

ルウルは俺が座っている同じソファーに、滑り込むように腰かけた。


「箱にあった情報と照らし合わせると……

レコンキャスタの狙いは、この辺り。

――やはり、宰相の執務室や官邸がある場所になる」


資料を指さすと。

ルウルが俺に身体を寄せて、覗き込んできた。


「そーなると、やっぱり『宰相暗殺』ってのは。

――聖国の宰相の事だったんだ。

だったら、あの『黒使徒』が、あっさり手を引いたのも頷けるな。

ここでなにかの準備をしてて……

リリーの件は、おまけだったって考えた方が、スッキリする」


俺の腕に押し潰される形で、ルウルの大きな胸が揺れた。

うーん…… 部屋着って、下着をつけないものなんだろうか?


「この資料を借りても良いか?

――俺達は近々聖国に行く。

その時に、これがあれば助かるんだが」


ルウルが、上目遣いに俺を見る。

……妙に顔が近いんですが。


「条件がある。

あたい達も聖国に連れてってほしい。

そもそもこの情報を集めたのは、聖国の宝物庫を狙ってたからだ」


「危険な旅になるぞ」

俺が釘を刺そうとしたら、ルウルはさらに詰め寄ってきた。


「なら、尚の事だ!

あたい達がディーンを助ける。

きっと狼族の能力や、あたい達の知識が役に立つはずだ。

代わりに、宝物庫襲撃の手助けをしてほしい。

騒ぎがあるんなら、それに便乗した方が成功の確率もグンと上がるしな」


俺は部屋を見回した。

ここの家賃だって安くはないだろうし、調度品も高級なものがそろっている。


2人の設計士や修復士としての腕は悪くない。

相当な稼ぎがあるはずだ。


「なあ、ルウル。前から聞きたかったんだが……

なぜ危険な盗賊稼業を続けてるんだ?」


「あたい達は、失われた『狼族の秘宝』を探してんだ。

その昔、転神教会に奪われ、戦中と戦後の混乱で。

どこに行ったか分かんなくなってて……

帝都の宝物庫や、その手の金持ちの蒐集家を襲ってるのも、それが理由。

あの教会にも、何かヒントがないかって。

それで、もぐり込んだんだ」


ルウルが俺の目を、力強く見つめている。

その秘宝がいったい何なのか…… 分からないが。

彼女達にとって、きっと大切なものなんだろう。


「分かった、だが危険な旅なのは間違いない。

手伝ってくれるのは嬉しいが。

――無理はしないでくれ」


そう言って俺が立ち上がると。

支えを失ったルウルが、ソファーの上でコロンと転がった。


どこかからラララの深いため息が聞こえた気がしたが。



俺は必要そうな資料をまとめ……

――そのアパートを後にした。



++ ++ ++ ++ ++



ラララとルウルも、もう一度教会へ戻りたいと言うので。

3人で帰ることにした。


ルウルはめんどくさいからと言って。

部屋着のまま、ラララのジャケットを羽織っている。


歩くたびに揺れるルウルの胸元に、ついつい目が行ってしまう……


「それなら紹介したい人がいる。

細かい説明は、彼女を交えてするが。

ナタリー司教と言って、『真贋の巫女』の能力を持っている」


俺がそう言っても、ルウルはブツブツ呟きながら、上の空だ。


「なんだろう? 攻め方が不味いのかな……

いや、あの目線から方向性は間違っちゃいねーと思うし。

あの男女の胸元も、チラチラ見てたし。

エロシスター程じゃねーけど。

うーん、やっぱこれで押すべきなんだろーか……」


俺が不審そうにルウルを見ていたら。


「あのっ! 司祭様。

ルウルちゃんの事は、今はそっとしといてあげて。

『真贋の巫女』様ねっ。お会いした事ないから、楽しみだなっ」


ラララが何かをごまかすように、元気よくそう答える。


こんなんで、大丈夫なんだろうか?

――不安になってきたが。


教会に戻ると、ちょうどナタリー司教とシスター・ケイトが出迎えてくれた。


「ディーン司祭、出かけてらしたんですか?

そうそう、相談があるんですが。

伯爵からお借りした給仕服は、どうもサイズが合いませんでしたし。

今シスターからお借りした、この修道服は、その…… なんと言うか。

――それに私は死亡した事になってるんですよね。

ならいっそ、違う服の方が」


ナタリー司教は、モジモジとしながら。

大きく胸元の開いた修道服で、短いスカートの丈を引っ張ったり。

困ったように笑ったりしている。


「でもナタリー司教様、とってもお似合いですよ!

……ちょっと若く見えますし」


無邪気なシスターのセリフに。

ナタリー司教の口の端がヒクヒクと引きつったが。


2人の美女の巨乳が、ボインボインしてるのは。

とても爽快な眺めだった。


「ああ、なんだここは…… エロ魔境なのか!」

同じようにそれを見ていたルウルが、突然崩れ落ちた。


「ルウルちゃん、確りしてっ。

大丈夫よっ! 見た目の若さじゃ、あの2人に負けてないからっ!!」

ラララが慌てて駆け寄り、ルウルの肩を抱く。


「ええっと、ディーン司祭。

――そこの失礼なお2人は、どちら様ですか?」


そう呟いた、悪魔のような形相のナタリー司教と。

微妙に目元が引きつっているシスター・ケイトを見て。



魔境と言うのも頷けるな、と……

――俺は心の中で、クールに呟いた。

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