あ、そう言うのじゃないからっ!
「そんなに怒んなくてもっ!
ほら、見た目はそんなに変わんないんだし……
ルウルちゃんも見られたって、言ってたじゃない」
ラララは『とりもち』を解除してやると。
乱れた服を直しながら、笑ってそう言った。
「そー言う問題じゃねーし。
あたいが怒ってんのは、勇者の件だ。
なんであいつらとまだ付き合ってんだ!」
大きな胸をチューブトップに詰め込むと。
堂々とそれを、引っ張ったり持ち上げたりしながら調整する。
……見ようによっては、それはそれでエロいんだが。
「お前もお前だ! なに鼻の下伸ばして見てんだよ」
ルウルが大声を出す。
「まーまー、落ち着いてよっ。
ちゃんと順序だてて話すからさっ!
……ああ、それからコレ。ばれたら渡しといてって。
預かったんだけど」
俺はラララから、一通の手紙を受け取った。
宛名は俺。
送り主の名はクライ・ブルーム。
そして封筒には、奴が好んで使っていた魔法陣が描かれている。
俺以外の者が開封すれば、その場で起爆し。
俺が読んでも、一定時間で燃えて無くなる仕組みだ。
その魔法陣に、自分の魔力を通し……
――封筒から手紙を取り出した。
++ ++ ++ ++ ++
・・・・・・・・・・
親愛なるディーンへ
この手紙を開封し、目を通しているのなら。
既にお前は、ラズロットと会話をした後だろう。
ラララは俺達と同じく。
皇帝陛下と今代の勇者キドヤマ・リューイチの命で動いている。
今回の俺達の一番の目的は、『聖者』候補の選定。
伯爵家の事件も、駅の事件も。
真相は、この聖者復活を阻止したい連中の画策だ。
イザベラ・プレセディアは、俺達がマークしていた聖者候補のひとりだし。
リリー・グランドの復活は、事実であれば連中の大きな脅威になる。
しかし、今回の件でノーマークだったお前が聖者候補の最有力になった。
まったくお前らしすぎて、笑うに笑えんが。
らーめんレストランで話した俺の探し物は。
どうやらこの連中と絡んでいるか。同一人物だ。
一度足を突っ込んじまった以上、お前の事だ。
どうせ聖国まで行くつもりだろう。
通信魔法板は、盗聴の危険性がある。
途中、帝都まで足を運べ。
美味しい『チャーシュー麺』をおごってやる。
クライ・ブルーム
・・・・・・・・・・
読み終わった手紙を放り投げると、真っ赤に燃え上がり。
一瞬で灰ひとつ残らずに消えて行った。
相変わらず、クライの魔法は細かい所まで余念がない。
――あの几帳面な性格を反映している。
「なにが書いてあったんだ?」
ルウルが心配そうに聞いてきた。
俺が、凄く嫌そうな顔をしてたからだろう。
「あのケチなクライが、らーめんをおごると言ってる。
……いよいよホントに、世界が危ういようだ」
俺がため息交じりにそう言ったら。
ルウルは、不思議そうにまばたきしたが。
ラララは。
「そんな…… 信じらんない」
そう呟いて、とても驚いた顔をした。
なあ、クライ……
――お前いったい、なにやってんだ?
ラララとルウルの話を総合すると。
勇者パーティは、各地で迫害・殺害されていた4神族の探索と、保護を行っていたらしい。
「あたしらの村が黒使徒に襲われたときに。
救ってくれたのは…… 勇者様だったんだっ」
しかし、勇者が帝国と組んで動いていることに不信感を抱いたルウルは。
「あたい達に仲間になれって言ってきたけど。断ったんだ!
だって、そもそもあたい達を迫害してるのは帝国なんだ。
そんな二枚舌ヤローを信用するわけにはいかねー!」
その申し出を断ったそうだ。
しかし帝都で宝物庫を襲撃した際に、ラララがドジを踏む。
「今回と同じでさっ、宝物庫の改修工事で設計士として侵入して。
図面を盗んだり、進入路の確保をしたんだ。
でっ、工事が終わってからルウルと2人で襲撃したんだけどっ……
どーも、帝国の情報部にマークされてたみたいで」
捕まったラララは、クライに説得され。
勇者パーティと共同で動いている、クライの部隊の情報員を始めた。
「なんであたいに黙ってたんだ?」
「ほら、ルウルちゃん曲がった事が嫌いでしょ。
今回もそうだけど。リリーちゃんをわざと誘拐させて様子を見たり。
竜族の動きを試したり。
向いてないって言うか…… まあ、いつかは話そうとは思ってたけどっ」
ルウルが、ラララの少し言い訳めいたしゃべり方と。
およいだ目を見て、「うーん」と唸った。
「なあ、ディーン…… ひょっとして、そのクライって奴。
痩せた感じの色男か?」
「ケチでぶっきらぼうで神経質な奴だが……
そうだな、顔は悪くない。筋肉質だが痩せて見えるし。
――昔から女にもてた」
俺の言葉にルウルが深くため息をつく。
「そーゆー事か。 ……ラララの好みの男だな」
「えっ? あ、そう言うのじゃないからっ!」
照れてように笑うラララの顔は……
――間違いなく、嘘をついていた。
++ ++ ++ ++ ++
ラララの話では、帝国が設計したこの路線は。
「そもそもラズロットの封印を強めて。
滅びの扉を開かないようにするのも、目的のひとつだったんだっ。
けど、その仕組みを逆手に取って、連中が何かしようとしてるって。
情報部がつかんだみたいで。
その捜査もしてるんだけど……
――どうしてこうなったのかまでは、良く分かってないみたい」
そう言う問題を含んでいたようだ。
結局はこの謎を解いて、犯人をあぶり出すしかない。
司祭室に戻って、資料を再確認していると。
「ねえ、今大丈夫?
明日の事で少し打ち合わせしたいのよ」
お嬢様が扉をノックした。
「大丈夫だ、入ってくれ」
明日は教区長が聖国から訪ねてくるから、その件だろう。
最近は公の場で会うことが多かったため、豪華なドレス姿ばかりだった。
そのせいか、春らしい淡いピンクのワンピースは新鮮に見える。
「教区長さんは、夕方にお見えになるんでしょう?
晩餐会を開く予定なんだけど。その際の出席者で。
伯母様…… バリオッデ宰相殿下も顔を出したいって言ってるの。
どうしたら良いかと思って」
ヒラリと扉をすり抜けて、入ってくる。
そしてソファーに腰かけ、優雅に足を組んだ。
「俺は構わないが……
帝国として、転神教会と親密になるのは不味いんじゃないのか?」
「その辺はアレよ。
親戚として、偶然その席に居合わせたって、言い訳ね。
お父様の話だと、教会との外交の糸口はひとつでも多い方が良いから。
その為じゃないかって」
俺が正面のソファーに座り直すと。
お嬢様が、もう一度足を組み替えた。
つるりとした膝小僧と、その奥の太ももが、とても眩しい。
「なら、こちらも問題ない。
教区長には、シスターから連絡を入れるよ。
喜ぶことはあっても、断ることは有り得んだろう」
「じゃあ、伯母様にはそう伝えとくわ」
「それから、正確な日時はまだ決めてないが。
近々聖国へ行こうと思っている。
その間、教会を留守にするが……」
「教区長がわざわざ来るのに、どうして?」
お嬢様は、可愛らしく首を捻る。
「野暮用でね」
「そう…… じゃあ、シスターとリリーはお留守番?」
リリーはもちろん聖国に行くが。
シスターも体調の件や石の事も含め。
フェーク公爵と会って、3人で話が出来ればそれに越したことはない。
「多分2人もつれて行く事になるだろう。
そうすればここは、もぬけの殻だ。
申し訳ないが、その間の管理を頼みたい」
お嬢様は、人差し指を顎に当て。
もう一度可愛らしく首を捻りながら…… 脚を組み替えた。
今回は、少し大きく動いたせいか。
太ももの奥にあるレースのパンツまで、チラリと見える。
――ワンピースと同じ、淡いピンクでした。
「ねえ、それって……
リリーがさらわれた件と関係あるの?」
「いや、関係ない」
忘れていたが…… お嬢様はやたら勘が良かったな。
ついて来ると言われたら困るので、白を切ると。
もう一度人差し指を顎に当てて。
「ねえ、さっきあたしの下着見たでしょ」
ニヤリと笑う。
「なにを言ってる」
俺がとぼけたら。
「ねえ、直した方が良いわよ。 ――それ」
お嬢様は、ちょんちょんと自分の顎をつつく。
「なんの事だ?」
「ウソつくときに、顎を触る癖…… 交渉事には不利だから」
俺は、自分の顎に当てていた手を慌てて引いた。
「それから、そうやって慌てるのも。
白状してるのと同じだから」
そう言って、楽しそうに笑う。
こんなガキでも、女なんだと。
今更認識して……
――俺は、深いため息を漏らした。
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