その目はエロすぎる

聖国へ向かうと決めたが。

まだここで、やらなくてはいけない事がある。


はやる気持ちを落ち着かせながら、俺はルウルに相談を持ち掛けていた。


「地下構造物と、教会……

特に5つの塔の設計と、そこに描かれた呪文を正確に知りたい」


朝一の呼び出しにも、なんの文句も言わず来てくれたのは嬉しいが。

「そんな事かよ」


要件を伝えると、いきなり不機嫌になった。


「教会の設計図は、ラララから受け取ってるだろ。

地下は…… 実際に歩いて確かめるしかねーけど。

塔の設計と呪文? そっちもラララに聞けばいーんじゃねーのか?

測量士どもがデータを取って、ラララに渡してたからな」


「いや、俺が欲しいのは盗賊と修復士としての知識と勘だ。

この建物に呪術的な仕掛けがあるとしたら……

――今俺に、ルウルの力が必要なんだ」


あの男に聞く手も考えたが……

とても素直に話してくれるとは思えないし。

正確な情報かどうかも分からない。


やはり実際に自分で探るのが一番だ。そして、見落としや危険を避ける意味でも。

『オルトロス』の名をとどろかせた実力と。狼族のルウルの耳は頼りになる。


……他に、気になることもあるしな。


「頼めないか?」

俺がルウルに聞くと。


「あたいが必要なんだな!」

なぜだか急に機嫌が戻り、ニコニコと顔を近付けてきた。


「ああ、そ、そうだが」

その迫力に押されて、身を引いたら。


「そうか、そんなにあたいが必要なら仕方ないな!

じゃあ特別にこのルウル様が、手伝ってやろうじゃないか!」


またグイグイと迫ってきて。

今朝からコツコツと書き溜めた、紙の束に足を乗せた。


「ふぎゃー! な、なんだ、これ」

「ルウルに反応したか…… それは『とりもち』って言う。

エサを付けて、ネズミなんかを取る魔法陣だ」


「うげっ! なんかネチネチして取れない」

「今外すから待っててくれ、変に動くとよけいに絡まる仕組みだ」

俺が解呪を唱えると、あっさりと紙が落ちる。


……どうやら使えそうだ。


「こんなのなんに使うんだ!」

ルウルが抗議の目を向けてきた。


仕方がないから、ルウルに教えておく。



「教会に大きなネズミがいるから……

――捕まえておこうと思ってな」



++ ++ ++ ++ ++



大浴場の隠し扉から、地下の回廊に入る。

ルウルの手持ちの暗器で、マップを作成する事にした。


どうやら歩くだけでマークキングが出来るようで。

暇だった俺は、屋根や壁の隙間に『とりもち』魔法陣を仕込ませておいた。


「エサも付けないでどうすんだ?」

ルウルは不思議そうに笑っていたが……



5つの塔の下で描かれた呪文を確認し。

ひととおり探索した後、中央の5枚扉の部屋で通信魔法板を開くと。

そこに詳細な地図があらわれた。


「これは便利だな……」

「ディーンは使ってないのか?

今どきの冒険者なら、必須の応用魔法道具だ」


冒険者を引退して10年以上。

技術の発展が目覚し過ぎて、ちょっとした感動を覚える。


「これに、ラララが作成した教会の設計図を重ねると……」

ルウルが通信魔法板を操作して、マップと設計図を合わせる。


「以前手書きで作った、2重五芒星ペンタグラムとほぼ一緒だな」

通信魔法板をのぞき込むと、俺の想像通りの図柄が浮かんでいた。


「はじめは、この捻じれを利用した起点操作で……

この教会を逆五芒星デビルスターにしていると考えてたが。

――やっぱり違うな。

この捻じれ方じゃあ、完全に方角をズラすのは無理だ」


俺は昨夜作成した、帝国全土に広がる。

『路線図』と『龍脈』と『山脈』の五芒星ペンタグラムの地図を、ルウルに見せた。


「これは…… なんだい?」

「今回の事件の根本さ。

線路を利用して、ラズロットの魔法陣を書き直してる。

箱と同じで、五芒星ペンタグラムは3重構造だったんだ。

問題は、捻じれを大きくして。


力の収束場所をこの五芒星ペンタグラムの外に出している事だ」



3つの五芒星ペンタグラムが重なり合い。

力を増幅して聖国の中央にぶつかるように、この魔法陣は描かれている。


「5つの塔はそれぞれ、上から。


真上  <陽> に、 「龍」これは大浴場のリリー像だ。

右上  <助陽>に、 「竜」

左上  <闇> が、破壊されていて不明。 

右下  <動> に、 「虎」

左下  <助動>に、 「狼」


それぞれの塔に聖なる獣の守護が描かれていた」


『陽、助陽、闇、動、助動』の5門は、ラズロットの魔法陣の基礎だが。

それぞれに守護獣が描かれるのは珍しい。


「神龍が『陽』に描かれるのはよく見るけど……

残りの魔族の『闇族』『竜族』

亜人の『虎族』『狼族』

4神族を全部描いてあるのは、あたいも初めて見たよ。


――だいたい、4神族の教えは賢者会のもんだろ?


教会は魔族を『神族』と認めてないし。

亜人は差別の対象だ。


それに『闇族』は…… 完全に敵対してるし」


悩むルウルの耳がピクリと動いた。

「どっかで石でも落ちたのかな?」


俺はその言葉を無視して、ルウルに顔を近付ける。


「教会の長い歴史の中でそうなっただけで。

そもそも賢者会も教会も……

『名も無き龍の王』から教えを授かっている。

考えが重なっていても、不思議じゃない」


俺が小声でささやくと、ルウルはキョロキョロと周りを見て。

――身体を寄せてきた。


「ちょ、ちょっと暑いな……」

そして、なぜかブラウスのボタンを2つ外した。

ルウルの大きな胸の谷間と、淡いピンクの下着がチラリと見えた。


「そ、それで…… どう言うことなんだ?」

上目遣いに、俺の顔を見る。

ちょっと近すぎて邪魔だけど。まあ、状態としては悪くない。


「賢者会の教えでは。

『導き人に、集いし4神の使いは、大災を祓う』とある。

この『導き人』が、教会の言う『聖人』なら」


「……なら?」

ルウルが目を閉じると同時に、ドスンと大きな音がした。


「へっ!」

飛び上がるように驚くルウルに。


「ネズミが掛かったようだな」

そう言ったら、目をパチパチさせた。


「えっ、あの魔法陣に? エサなんか付けてなかったろ」


「なんだ、知らないのか?

大きなネズミの大好物は、ヒソヒソ話だ」


音がした扉は、大浴場『陽』の方角だ。

やはりあの隠し扉は、測量の際に見つかってたんだな。



俺がゆっくりその扉を開くと……

――『とりもち』に絡まったラララが、苦笑いしていた。



++ ++ ++ ++ ++



「あはは、えーっと…… こ、こんにちわっ!」


やっぱり相当もがいたんだろう。

着衣は乱れ、あちこちに『とりもち』魔法陣が絡みついていた。


チューブ・トップの上着はズレて、いろいろこぼれそうだし。

ホットパンツも凄い事になってる。


もう、ボインボインのネチネチだ。

――お金が取れるレベルのエロさだ。


念の為、懐のナイフを取り出すと。


「ラララ…… そんな格好で、こ、こんな所でなにしてんだ!」

ルウルが割り込んできて、俺とラララの顔を交互に見た。


「ルウル、手荒な真似はしないから安心してくれ。

幾つか訪ねたい事があるだけだ」


「わ、分かった……

でも、こうしろ。 ――その目はエロすぎる」


そしてルウルは後ろから手をまわし、俺の目を隠した。


「これじゃなにも見えんが……」

「ラララのは見ちゃダメだ!」


内容物的には、さっきお前がチラチラ見せてきたモノと……

――ほぼ同じなはずだが。


まあ、それなりの事情があるのだろう。

俺だってその辺はなんとなく分かる。


ただ、背中にその大きな物が当たってるんだが……

それは大丈夫なのか?


「まあいい、素直に答えてくれればすぐ終わるし。

――どうせ、もう大した秘密じゃないんだろ。

前々から気がかりだったが……

最近は特に、堂々と探ってたからな」


「気付くとしたらっ、司祭様だろうって、思ってたけど!

いつから分かってたの?」


「大浴場の隠し扉をルイーズが知ってたのも。

ルウルが都合よく脅迫状を拾ったのも。

――誰かが手引きしてる気はしてたんだ。


この教会の地下の事情を知ってて。

駅の仕掛けの正体を知りたい連中。


バックにいるのは、伯爵家の誰かか?

それとも聖国の…… フェーク公爵か?」


少しの間があって、ラララが聞いてきた。


「話したら解放してくれる?

依頼主って言うか…… あたしの仲間は。

バレそうだったらもう話しちゃっても良いって、言ってくれてるから。

嘘はつかないよっ」


「ああ、約束は守ろう」

俺の言葉に。


「えーっと、勇者様。

今代の勇者、キドヤマ・リューイチ様の命で……

――あたしは動いてるんだっ」


その言葉に、ルウルの手の力が緩む。

「ラララ、お前…… まだあいつらと」


ルウルの指の隙間から、照れたようにう笑うラララの顔と。

完全にはだけてしまっている、形の良い大きな2つの膨らみが見えた。


俺がごくりとつばを飲み込んだら。


「あ、見たなこのヤロー!」

ルウルが力を入れ直し、指が目に入る。


「ぐおっ! 何すんだ!」

叫んでも力は強まるばかりで。



俺はその痛みに耐えながら……

双子って、いろんな所が似るんだなあと。

――深く感心してしまった。

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