なかなか可愛いヘソだった

伯爵家からのお土産を、2人はとても喜んでくれた。

仕事が変わったことを伝えると、多少驚かれたが。


「ディーン様なら、きっとイザベラ様をお守りできます。

ラズロット様のご加護があるよう、あたしもお祈りしますので」


最近すっかり仲良くなったお嬢様を心配するシスター・ケイトは、両手を組んで祈りを捧げた。


「シスター、ありがとう」


「もぐ、このような食事が出るのなら、もぐもぐ、我もその仕事を手伝っても良いぞ!」

口いっぱいに飯を詰め込み、リリーが唸る。


「教会の仕事も大切だ、シスターもお前がいてくれて喜んでいる。それにリリーは最後の切り札だからな、俺がピンチになったら助けに来てくれ」


さすがに、お子様連れで警護の仕事はできない。

適当に言いくるめると。


「下僕よ、多少は我の偉大さが分かってきたようだな! 了解じゃ、ピンチになったら連絡をよこせ。必ず助けてやろう!」

リリーは納得してくれたようだ。


「ディーン様、このような美味しい食事は初めてです。ありがとうございます」

シスター・ケイトは、満面の笑みをこぼす。


不思議なことに、伯爵家で食べた時より美味しく感じる。

やはり食事は、誰と食べるかも大切な要素なんだろう。


「あっ、どうしましょう」

シスター・ケイトが、スプーンを俺の足元に落としてしまう。


「俺が取りますよ」

しゃがみ込んで取ろうとしたら、目の前に可愛らしい膝小僧が4つあった。


「ディーン様…… 申し訳ありません」

声がする方の膝小僧が徐々に開かれ、太ももの内側とその奥の白い下着が露わになる。

――ついつい、視線が釘付けになってしまう。


「もう少しで取れますから」

なんとかそれを振り切って、テーブルにスプーンを戻すと。


シスター・ケイトの顔がほのかに赤い。

「へへっ」

てれたように笑う彼女と、俺の顔をリリーが交互に眺め。


「はーっ、まったく」

なぜか大きなため息をついた。



++ ++ ++ ++ ++



「お嬢様がお起きになるのは10の刻を過ぎたあたりで。

その頃、朝食をお持ちします」


アムスの説明で良く分かったが、どうやらお嬢様はヒキコモーリ生活を満喫しているようだ。

壁の時計は8の刻を少し過ぎたあたり。


「それまで何をすれば?」

「そうですね…… 城内のご案内と、事の詳細をお話しましょう」

昨日は契約形態や職務の詳細しか聞いてなかったから、それはありがたい。


アムスに連れられて城をまわると、使用人が慌てて隠れたり、気さくに挨拶してきたり。態度に極端な違いがあった。


「伯爵家と言っても、当家は新参者ですし。

そもそもこの領を治めていたのは、現宰相のバリオッデ様でした」


その為、もともと男爵家から引き継いできた使用人と、この城で働いていた使用人の2種類の人間がいるらしい。


「私はお嬢様が領に戻られてから側仕えをしておりますが、どうやら男爵家から来た人間からは嫌われているようです」


アムスの前職はこの領の文官で、地元出身者はどうやら『もともと城にいた』側に分類されるみたいだ。


執務室に入ると、アムスは誰もいないことを確認して遮断魔法を使った。


「ずいぶん手慣れてるね」

「文官も、極秘情報を扱うことが多うございましたから」


「それで…… 極秘にどんな話が?」


「もうお気付きでしょうが、今回の脅迫は城内の者が疑われております。

どちらかの勢力が外部の人間と通じて、伯爵殺害を企てている。

――それが有力な考えでして。

そして、最近うろついている帝国の情報部は、その殺害を阻止するために動き出したか……」


「そうじゃなければ?」

「工作員が伯爵殺害を指示しているのでしょう」


実に分かりやすい構図だ。

「伯爵に恨みを持つ人間や、政敵は?」


「出世が早うございましたし、戦中は英雄ともうたわれておりました。

――多すぎて特定できません」


「なら、どちらの人間にも気を付けなきゃいけないのか」

護衛対象がその伯爵様じゃなくて、お嬢様なのがせめてもの救いだが。


――俺はもう一度脅迫状の文面を思い返す。

「裏切り者は天の裁きをまって、首を洗え」


「司祭様がおっしゃると、重さが違いますな」

俺が不思議な顔をすると。


「これは失礼しました。

その文言は、ラズロット聖典の終章『裁きの門』の一節ですよ」


「そうなのか…… すまない。まだ仮の司祭なんでね」

俺が苦笑いすると、アムスは柔らかい笑みで。


「いえいえ、私はもともと転神教会の教徒でしたから」

――そう答えた。



++ ++ ++ ++ ++



壁時計が10の刻を過ぎたあたりで、朝食のトレーを持ってドアをノックした。


「開いてるわよー」


聞きなれた声だが、面と向かって合うのは2度目になる。

俺が扉を押して中に入ると。


「へっ?」


お嬢様は崩れたネグリジェ姿でベッドに腰かけ、大きなあくびをしてた。

ボタンは半分外れ、その隙間から……


ツンと上向きの形の良い左胸と、引き締まった腹が見えている。

ブロンドの髪は寝ぐせで乱れ、寝ぼけた顔が徐々に赤らんでゆくのは、なぜか妙な色気があった。


「な、なな…… なんであんたが!」

「今日からお嬢様の護衛になったんだが、聞いてなかったのか?」


「と、とにかく、出てってー!」

そして見事なフォームで枕を投擲してきた。

とりあえず俺は枕をキャッチし、トレーを置いて部屋を出る。


――うむ。

今の状態を、最近はやりの異世界競技『野球』に例えると。


シスター・ケイトの巨乳がど真ん中だとして。

リリーのチッパイは、ベース前のワンバン。


お嬢様の年相応のおっぱいは、低めストライクゾーンいっぱいだろうか?

いや、性格を加味すると…… 外角低めか。


分析学的思考で、頭がフル回転していたら。


「入っていいわよ」

お嬢様からお呼びがかかった。


再度部屋に入ると髪型もしっかりと整えられ、キレイなウエーブも健在だ。

服装も豪華な部屋着に変わっていた。


「ちゃんとノックしたが、なにか問題でも?」

しかし表情は、初めて会った時より怒りに満ちている。


「いつもは女の給仕か、アムスみたいなおじいちゃんしか来ないのよ。

あんただって知ってたら、ちゃんと準備したのに」


「それはすまなかった」

「み、みた?」


貴族の子女は着替えや支度に大勢の人が係るから、使用人に肌を見られることに寛大だと聞いたことがあったが。


胸を隠すような仕草で、俺を睨むお嬢様の形相からして。

噂なんて当てにならないものだと再確認した。


「なかなか可愛いヘソだったよ」

なんとかはぐらかそうとしたが……


「あ、の、ねー!」

お嬢様の右ストレートが俺の顔面に向かって飛んできた。


避けようかどうか迷ったが…… 

――俺は、甘んじてそれを受け取っておいた。



++ ++ ++ ++ ++



それから俺がしたのは……


「れべる上げって、もう作業なのよね。

げいむの進行上仕方ないかもしれないけど…… つまんないのよ」


通信魔法板で、黙々とゴブリンやスライムを狩る事だった。

たまに彼女は俺の顔をチラチラと盗み見ては、ため息をつく。


「なんか俺の顔についてるのか?」


「あたしの好みはこのエクスキャリバー様なのよ。

よりにもよってって…… ため息も出るわ。

ねえ、あんた。その無精ひげ剃って、髪型ももう少しなんとかしたら……

うーん、どうにもなんないか」


ぽすたあの少年と、俺を見比べる。


どうもお嬢様は俺の顔がお気に召さないようだ。

しばらくまじまじと見つめてきたが、不意に目を瞬かせた。


「やり込みすぎたかな? 疲れてきちゃった。

もう目を閉じると、くっきりと『げえむ』の画面が浮かぶもの」


「通信魔法板は、発光石を使ってるからな。

――残像が目に刻まれやすい」

「へー、そうなんだ」


俺は昔、クライから聞いた話を思い出す。


「精神系の魔法を使う時は、わざわざ発光石に魔法陣を仕込むそうだ。

そうすれば、残像の影響で心の深いところまで掌握しやすいと……」

そこまで言って、重大なことに気付き。


「そうだ、魔法陣を並べても仕方ない。残像なら重なるはずだ」


――慌てて部屋を出る。


「ねえ、どうしたの? どこに行くの!」

「調べものだ、後のことはアムスに任せる。そう伝えておいてくれ!」


俺の勘が外れてほしいと願いながら、教会に向けて全力で走る。

……しかし。



いつだって期待は裏切られるが……

――悪い予感はだいたい当たる。

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