シンプルな白

クライが最も得意とした魔術はトラップだ。


「ディーン、お前の要望通りナイフに起動の魔術を仕込んでおいた。

グリップの護符を外して5秒で爆発する」


複雑な魔法陣を駆使して、物や場所に魔術を仕込み、遠隔操作や時間式でそれを発動させる。火、風、土、の属性に加え、精神操作の術式までこなした。


「いつも助かる。クライが仕込んだ魔術は効果的だからな。

前回のダンジョン攻略で、ミノタウルスの片腕を吹っ飛ばしたのは、さすがに驚いたよ」


「クライの魔法も凄いけど、斧を振り回すミノタウルスに、ピンポイントでナイフを当てる方が驚きだよ。

あたいはあの斧の動きに対応できなかったもの」


アイリーンが笑う。

その言葉にクライが。


「その剣に風魔法を付与させようか? 今より早く振れるようになる」

「結構よ! それになれちゃったら、腕が鈍りそうだもの」


クライに気のあったボニーが、会話に割り込む。

「あ、あの。あたしのメイスにお願いできますか? 接近戦で後れを取ることが多くて」


それを聞いたガルドが。

「ボニー。いくら後衛じゃからとは言え、貴族様のようなその細っこい腕じゃあな……

男も押し倒せんぞ! お主はもう少し鍛えた方が良い」


――そして、みんなで笑った。懐かしい日々が頭をよぎる。



あの戦いで……

ガルドは、ボニーとアイリーンと俺を逃がそうとしてオーガに殺された。

ボニーは、撤退中にオーク兵の餌食になった。

そしてアイリーンは、俺の背中で息を引き取った。


クライは?


味方の兵から裏切りがあった瞬間、姿を消した。

その後の消息がつかめなかったから、てっきりその時……


帝国軍の発表でも、戦死者名簿に名前があった。

「いったいどうなってやがる?」


俺は落ちた通信魔法板を睨みながら、呟いた。


「下僕よ…… いくら眺めても砕けた物は元通りにならん!

我も一緒に店の人に謝ってやるから、そう落ち込むでない」




結局、弁償代と別の中古の通信魔法板代で、けっこうな金額が飛んで行った。


こんな状態じゃあ……

――早くシスターの転職先を探さなくては、いけなくなりそうだ。



++ ++ ++ ++ ++



前の住居の荷物を運び終わる頃には、日がすっかり傾いていた。


「ディーン様、お荷物はこれだけですか?」

「男のひとり暮らしなんでね、そんなにないんですよ」


シスター・ケイトが司祭室にそれを運んでくれる。


「シスター・フェーク様は、しばらくお知り合いの家にお泊りになるそうなので。

夕食は2人分でよろしいですか? それとも……」


シスターが見詰める先に。

――さっきから顔を出したりひっこめたりするリリーがいる。


昼間のことを考えると、人見知りと言う分けはないだろうが。


「リリー、夕飯はどうする?」

「あのババアはおらんのか?」

「しばらく戻らんそうだ」


俺の言葉に、キョロキョロ辺りを見回しながら近づいてきた。


「まあ、可愛らしい! ディーン様の知り合いですか?」

「違うわ、エロシスター! あの男が、我の下僕じゃ」


「え、えろ…… シスター?」

言葉を失うシスター・ケイトに。


「この教会に住み着いてる精霊か下級妖魔みたいで。

――どうも懐かれちゃいましてね。

特に害は無いようですし、討伐するのも可哀想ですから。

シスターさえ問題なければ、面倒を見てやってくれませんか?」


「まあ、そうなんですか。

ディーン様がそうおっしゃるなら、あたしは構いません。

それに精霊の類でしたら、幸せを運ぶと言いますし」


「下僕よ! 何度も言っておろう。

我は太古の龍、リリー・グランドじゃ。

その辺の精霊や妖魔と一緒にするでない!」


俺がリリーの頭を撫ぜてやると、シスターはニコニコと笑いながら。


「リリー様、お口に合うかどうか分かりませんが、夕飯を準備いたしますので。

しばらくお待ちください」


そう言ってキッチンへ駆けて行った。



++ ++ ++ ++ ++



夕食をとりながら、今日伯爵家でおきたことをシスターに説明した。


「それでは、依頼はお断りしたんですね」

「ええ、俺の手に負える話じゃなかったんで」

「お嬢様、元気になられると良いのですが……

学園でいじめられていたのでしょうか?」


元気は有り余っていたし、いじめられるようなタイプには見えなかったが。


「詳細までは聞いてないですが、学園でひとモンチャクあった様で。

あの年頃ですし、話の雰囲気から……

――色恋沙汰のようでしたね」


「失恋でもされたんでしょうか?」

心配そうな顔色のシスター。

むしろ俺としては、自分のことに気をもんでほしいが。


「そうかもしれませんが……

どちらかと言えば、プライドの問題なんでしょう」


男を取った取られたの、女同士のイザコザ。そんな話だったからな。

俺の言葉に「プライド?」と、悩み始めたシスターへ。


「それより、これを見て下さい」

リトル・アキハバーラで見つけた求人チラシを渡す。


「売り子さんの募集ですか」

「それなら手に職が無くてもできますし、給料も悪くない」

「こう言うのは、その…… キレイな女性じゃないとできないですよね。

それに、あたしにこんな格好似合うかしら?」


チラシには獣族でもないのに猫耳を付けた少女や、カラフルなミニスカートのドレスを着た少女たちが描かれている。


「伯爵家の仕事が上手く行かなくて、申し訳ないですが……

シスターは十分キレイですし、その衣装も似合うでしょう。

もちろんそう言った職業が嫌でしたら、他を探します。

ただ、前向きに転職を考えてほしくて」


「そんな、ディーン様…… 謝らないでください!

今までのことだけでも、感謝の気持ちでいっぱいです。

それに、キレイだなんて、そんな…… に、似合うかな? この衣装」


急に照れだしたシスターを横目に、今まで黙って飯をがっついていたリリーが。


「下僕よ! お主は女たらしなのか、バカなのか、どっちじゃ?

あのお嬢様とやらの時にも、疑問に思ったんじゃが」


――突然しゃべりだし。

「なんの事だリリー?」

俺が聞き返すと、呆れたようにため息をついた。


「エロシスター、どうやらこの男はトーヘンボクのようじゃ。

変な期待はするだけ無駄じゃぞ。

それから食事が終わったら『げえむ』がしたい。

我を祀っておった神殿で、3人で遊ばぬか?」


「リリー様、神殿はご自由に使っていただいて結構ですが。

あたしは『げえむ』を知りませんし。この後も教会の掃除や修理を致しますので。

せっかくのお誘い、申し訳ないのですが……」


悲しそうに、そう語るシスター・ケイト。


「リリーをそんなに甘やかさなくていいですよ。

伝説の古龍なんて、どうせ嘘なんですから。

それに掃除や修理なら、手伝います。

――だから元気を出してください」


俺の言葉に、シスター・ケイトはリリーの頭上を眺め。


「……そうでもなさそうなんですよね。

それに、落ち込んでるのはそこじゃないですし」


「おいエロシスター、命令じゃ。これから3人で遊ぶぞ!

『げえむ』は我が教えてやろう、そして掃除と修理は3人でやればよい。

その方が早く終わるからな!」


リリーが無い胸を張って、声を上げた。

シスターは、嬉しそうに。


「はい、リリー様」

そう言って、ニコリと笑った。



++ ++ ++ ++ ++



さすがに神殿を『げえむ』場に変えるわけにはいかないので。

司祭室で遊ぶことにした。


シスターとリリーが同じソファーの上で1枚の通信魔法板を囲んで遊ぶ姿は、まるで仲の良い姉妹のようで、見ていて微笑ましい。


俺は対面のソファーに腰かけ、仕事で使う自分の通信魔法板を取り出し、今日お嬢様に教えてもらった『あいでぃー』と『ぱすわーど』を入力する。


「遅かったわね、待ちくたびれたわ!」

「おう、その声はお嬢様ではないか! お主も『ろぐいん』しておったのか」


どうやら同じパーティー登録をしていると、音声通話が可能になるようだ。


「約束したじゃない。ダンジョンを攻略するって」

「そうじゃったか? まあ良い。メンツもそろったし、いざ出陣じゃ!」


そして昼間の再開が始まった。

やはり『聖魔剣乱舞』は他のげえむに比べ、絵が美しく魔法陣にもリアリティがあったが。

よく見るとでたらめな雰囲気だけの文字列で、心配するようなものではなかった。


げえむが進むにつれ、シスターも徐々に参加し、お嬢様とも会話を始める。

ダンジョンの休息所に到着したら、俺の通信魔法板にも音声通話入った。


「ねえ、あんたんとこの教会は何人シスターが居るのよ」

「俺と、リリーとシスター・ケイトの3人だよ。

後、客人がひとりいるが…… 今日は出かけてる」

「あんた以外は女ばっかり?」

「そうなるが」

「そうなの…… ふーん」


リリー達を見ると、余程げいむが楽しいのだろう。

足を投げ出して、2人でわいわいやっている。


シスター・ケイトの修道服もめくれ上がって……

瑞々しい太ももが露わになっていた。


その隣で、シンプルな白いパンツ丸出しのリリーは…… この際どうでもいいが。

シスター・ケイトの美しい太ももはチェックしておく。


ダンジョンが第2階層に変わると難易度が上がり、お嬢様が先頭に立って剣を振ることが増えた。


「お嬢様の魔法陣だけ、なんか違うな」

記憶のどこかで、なにかが引っかかった。


「あたしの剣は『れああいてむ』だから、技が決まると絵も特殊なのよ」

「それを魔法板に記憶できないか?」


「左下に『すくりーんしょっと』のボタンがあるでしょ。

それを押したら画面が記憶されるわよ!

まあ見てなさい。あたしの華麗な剣技を、存分に披露してあげるから!」


そしてお嬢様が、次々と大技を決めだす。


その度に俺は『すくりーんしょっと』のボタンを押した。

リリー達はその派手な動きに感動して。

さらに足をバタバタさせながら騒ぎ立てる。


記憶のどこかで、なにかが繋がった!


「そ、そんな事が」

思わず、驚きの声を上げてしまう。



――シスター・ケイトもリリーと同じ、シンプルな白いパンツだ!

あれは教会の支給品なんだろうか……

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