しかしガキには興味がない
「アイリーン、しっかりするんだ! 城まで戻れば回復魔法師もいる。
傷は深くねえ…… こんな所で、くたばんじゃねえぞ!」
「ディーン…… 分かってんだから。
もう、あたいを捨てて…… あんただけでも」
オーガに切りつけられた左足が痛んだが、アイリーンを背負ったまま森の中を疾走する。
しつこく追いかけてくるオーク兵の雄たけびが、背筋を凍らすが……
まだ温かいアイリーンの大きな胸のふくらみを糧に、俺は死力を振り絞った。
――夢の中で、これが夢だって分かっている。
もう、8年も昔の話だ。
そこそこ名前が売れ出した冒険者だった俺達が、一獲千金を狙って傭兵として参加したあの戦い。
大酒呑みでつまらない冗談ばかり言う、重騎士のガルド。
『最凶最悪』と恐れられた無口で責任感が強い、魔導士のクライ。
そのクライを好きだった、機転が利く回復師のボニー。
『瞬殺剣』の2つ名をとどろかせた、剣士のアイリーン。
――そして、
味方の隊の裏切りで、撤退を余儀なくされた戦線は地獄だった。
最初に切り捨てられた傭兵たちは、ほとんど命を失っている。
俺達のパーティーも、生き残ったのはクズな俺だけだ。
なぜあの時、傭兵になんてなったんだろう。
あの慎重なクライが、積極的に進めたのが未だに謎だ。
後悔はいつだって先に立たない。
あれ以来俺は神への信仰も捨て、ただの男として生きようと心がけてきた。
簡単なトレーニングは続けてきたが、本格的な実戦は避けている。
まあ今じゃ、ただのおっさんだが……
しかしその事は後悔していない。もうあんな思いはしたくないからな。
辺りが真っ暗になる。この苦い夢が覚めようとしてるのだろうか?
血と汗と泥の匂いに紛れて、アイリーンの髪の香りがした。
俺が届かないと分かってる手を、大きく伸ばすと……
++ ++ ++ ++ ++
どうやらあの悪夢から目覚めたらしい。
見知らぬベッドで寝たせいか、身体の上に誰かが乗っているかのように節々が痛む。
「アイリーンとは誰のことじゃ?」
少女がのぞき込んできた。
珍しい漆黒の髪に、黒い瞳。
調った顔立ちは、まるで精密な人形のようで…… 芸術作品のような美しさが漂っていた。
「――だれだ、お前」
「声を聴いても分からぬのか? まあ、この姿でお主の前にあらわれるのは初めてじゃからな」
この声としゃべり方は、「リリー?」
「よく来たな、我が下僕よ!
この地で眠りについて、どれほどの時が流れたか知らぬが……
お主のおかげで、ようやく抜け出ることができた!」
「そうか、で、いくつか聞いても良いか?」
「そうじゃな、お主にも聞きたいことがあるじゃろう。
――構わん、申してみろ」
「どうして俺の上で寝てる」
「うなされておったからな! 心配になって、乗ってみた」
その行動の根拠が理解できんが……
「なぜ服を着ていない」
「抜け出たばかりなのじゃ、仕方ないだろう。
この格好の方が、お主も嬉しいじゃろうと思ってな。
こう見えても、絶世の美女とうたわれておったのだ。
戒めを解いてくれた礼じゃ、とくと見るがよい!」
伝説ではその美しさで、当時の国王同士が戦を始めかけたため『傾国の龍姫』とも呼ばれているが……
「礼ならいらんよ。あれは偶然が重なっただけだ」
「謙遜することはないぞ、下僕よ!
歴代の聖人や勇者が、動乱のたびに我の力を借りようとやってきたが……
誰ひとりとして、ラズロットの戒めを解いたやつはおらん。
あやつはヘタレでポンコツな男じゃったが、封印術だけは秀でておったからな」
俺はクールにため息をついて、最大の疑問を口にした。
「どうしてそんな、ガキの姿なんだ?」
決してこんなチンチクリンじゃない。
「なにを言っとる、人族ではこのぐらいの年齢が乙女なんじゃろう。
見ろ、この美しい姿を!」
そう言って起き上がると、ぺちゃんこの胸を張った。
「伝説の時代は、12歳ぐらいが結婚適齢期だと何かで読んだ気がするが……
それに合わせたのか?」
「なに、今は違うのか? 何歳が乙女なのじゃ」
「帝国法で結婚が認められるのが15歳からで、適齢期って言われるのが、20歳ぐらい…… かな」
その言葉に、バカみたいにポカーンと口を開ける。
何も言わなくなったから、俺から話しかけてみた。
「変えられないのか? それ」
「この姿は仮とは言え…… 本心が具現化したものじゃ。
変えると本体と上手く連動できん」
ってことは、精神年齢が12歳ってことか。
「まあ、とにかく何か着ろ!
春が近付いて来たとはいえ、朝はまだ寒い。
――精神体でも堪えるだろう」
もしこいつの話が本当なら、イコンを描いた画家が歴史をねつ造したのかもしれない。教会が信仰を集めるために、伝説を歪めてゆくのは良くある話だ。
あるいはこいつの正体が、この辺りに良く出現する悪戯好きの
シーツを放り投げると。
「欲情はせんのか? 我は美しいじゃろう」
「確かに美しい姿だが、しかしガキには興味がない」
性格がアレだし……
姿が美し過ぎて、そう言った対象にできないってところもある。
「……せっかく慰めてやろうと思ったのに」
妖精も人の心を見る術を持つと聞くが……
「俺の夢を読んだのか?」
「ああ、それがどうした?」
「2度とするな」
ついつい強い口調になってしまった。
落ち込むリリーに、悪かったと思い直し。
「いつもこの悪夢を見ると、一日元気が出ないが……
今日は楽しく過ごせそうだ。
――ありがとうな」
礼を言うと。
「そ、そうか!
なんなら、ちょっとぐらいなら触っても良いぞ!
ほれほれ、なかなかセクシーじゃろう」
シーツにくるまり、変なポーズを取る。
まだ膨らみきっていない小さな胸は美しい造形で、透き通るような白い肌と相まって、神秘的な雰囲気を醸し出していた。
最近流行の異世界文化「オタク」には、「ろりこん」という邪念があるらしい。
当局が厳しく糾弾しているらしいが…… 彼等ならこの姿に大金を払うだろう。
俺はリリーから視線を外し、カーテンの隙間から差し込む朝日をクールに眺め。
「おっぱいってのはな、大きいのが正義なんだ」
大人の哀愁を漂わせながら、世の真実を説いてやった。
「そんな! 神は滅びてしまったのか」
リリーは、崩れ落ちるように倒れ込んだが。
「安心しろ、若者の
もうひとつ、世界の真理を教えてやった。
なんとか復活しつつあるリリーを横目に……
――俺はアイリーンのダイナマイトボディや昨夜のシスターの爆乳を思い出し、もう一度クールに微笑んだ。
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