第2話:確証への道
「え?それは突然すぎない?次の場所に行くまでに夜が明けちゃうよ」
もう夜半にさしかかり、これから次第に夜が明ける刻限だ。いくら二人が《ファテラピロン》を服用していても太陽の下を出歩くのは危険である。
しかし、ロコは首を振った。
「状況が変わった」
「どういうこと?」
そう訊ねたのはイリアだった。ロコは黙って踵を返すと、先程まで見ていた床をコンコン、と足先でつついた。すると、ガコンと音がして床板が抜けたではないか。
「そもそも、巡礼を成功させた先達も《陽光過敏症》だったとしたならば、どうやって陽の光を避けて巡礼を続けられたんだと思ってな」
くまなく調べてみたらこれだ。
二人は慌てて駆け寄り抜けた床下を覗いてみると、そこにはきれいにならされた石製の階段が深く深く続いていた。先は見えない、一体なんのための穴だろうか。
すると、ロコが見ろ、と一枚の紙を二人に示した。
「何処にあるかもわからぬ《メルディ》を求め、夜にのみ巡礼を行うことにはさすがに無理があるだろう。位置を知っていたらなおさら拠点を設けるのではないかと思ってな」
「これは?」
「ヨイが調べてきた《メルディ》の場所を書き込んだ地図だ。できる限り道も再現しながら書いた」
「……」
どう見ても落書きにしか見えない。そう、この男、図説が恐ろしく下手なのだった。言葉を失うジズとイリアだったが、よくよく見ると、中心には四角と三角の形、そこから放射状に伸びていく線、終点にはモコモコの何やら不明な絵がたくさん書かれていた。
「……なるほど、つまりこの小屋を拠点に《メルディ》の巡礼ができるわけだ」
「そうだ。お前たちが月光浴に出ている間に少し潜ってみた。程なくしていくつかの細い道に別れていたから、ヨイの記憶から引き出した《メルディ》の位置を重ねてみた」
「うん、この位置なら矛盾がなさそうだね」
ジズがふむふむ、と頷く。そこはギルドで長らく相棒として数々の仕事をこなしてきた彼だ。すぐに切り替えて分析をしている隣で、どうしてわかるの、と言いたげなイリア。あんなに美しく繊細な人形を作るのにこの図説、という驚きの声が聞こえてくるようだ。
まあ、問題はここではない。
「調べる価値はあるだろう?」
「そうだね、この図の通りなら大分行程を考えるのが楽になる。ね、イリア」
「うん!ここ月光浴できる場所も近かったし、拠点にできるならやりやすい」
イリアもそういうので、決まりだな、とロコが紙をしまいながら言う。そうと決まれば行動は速かった。ジズとイリアは早速スープを飲み干して荷物を最小限にまとめた。道が何処に続いているにせよ、ここにはまた戻ってくる。ならば、動きやすさを、と考えた結果だ。ロコはというと小屋の出入り口に用心棒を立てて他者の侵入を防ぐ対策を済ませていた。
各々の支度が済み、三人は再び穴の近くに立った。
「万が一があっちゃいけない。これからこの道を使うときは必ず三人で行こう」
奇襲がかなりの頻度で考えられるとき、二人以上で行動することがセオリーだ。今回は三人組、どちらか一人残して行動することは避けるべきだ。
「あと、お前はイリアの後ろにつけ。先導は私がする。奇襲があったときは、お前がイリアの守護、私が敵の相手をする。いいな?」
イリアは祈りのための力を残さなければならない。二人で彼を守るなら戦闘はロコに任せる方が確実である。
二人は頷いてイリアを見た。彼は力強く頷く。
「お願いします、二人とも!」
そうして三人は地下へと潜っていく。仮定を確証に変えるために。
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