第4話:戦闘
「状況は?」
その気持ちを悟らせぬように言う。自分が取り乱せばイリアにかけた魔法がとける。慎重に行かなければ。
「≪スカル・ナイト≫は全てで15体、統率がとれているのは、指揮官らしき存在がいるようなのだが…」
「探知で何とかする。戦える人員は?」
「シーギだけだった。だからこうして助けを請いに来た!」
「的確な判断だと思う。――アゲハ、ロコに連絡。近くにいるなら援護を頼んで!」
言っている間に転移の場所に着いた一行。ジズはイリアを振り返って言った。
「君はここにいて。上の安全を確保するまで来ちゃいけない」
すると、エルフの男が首を左右にふった。
「あり得ない。イリアも共に行くべきだ。浄化と同時平行の方が効率もいい」
「それはダメ。イリアのパニックが出たり、俺たちがやられたら被害が拡大する」
反対すると、エルフがさらに何かを言おうとした。が、イリアが僕は、と強い口調でハッキリと述べる。
「ジズの、主治医の判断に委ねる」
彼の決断にエルフは戸惑っているようだった。ジズは優しく微笑むと、ありがとう、と返して彼の頭を撫でた。
地上はちょうど夜半過ぎ、月光浴に最適な時間だが、そこにいるエルフたちは狂乱状態に陥っていた。
「早く女子供を避難させろ!俺だけでは限界だ。動けるやつはさっさと動け!」
怒鳴り声がする。刀を振り回しているシーギの声だ。急いで避難しようとする方にも≪スカル・ナイト≫が襲いかかっていく。シーギがそれを砕くが、アンデッドは再生を繰り返す。
「このままでは防戦一方だ」
どうにかならないか、そう言った時だ。
「退いて!」
凛とした声。同時に飛び出してきたジズがシーギが持っていた刀を掠めとり、≪スカル・ナイト≫の懐に飛び込んでいく。
――アンデッド系の魔物はね、魔力がないと動かないから、供給元を破壊するといい。目印は赤い小さな刻印だ。逆にそこを突かないと何度も再生するからね。
自分に戦いを教えてくれたヴェーチェルの声が思い出される。目の前の≪スカル・ナイト≫は肋骨の中心、人間で言うと鳩尾の部分に小さな刻印が刻まれていた。あれか、とジズは迷いなく刀を滑らせた。≪スカル・ナイト≫はバラバラになると、そのまま灰になって霧散する。
驚き目を見開くシーギを振り返り、ジズは声を張り上げた。
「シーギさんは避難誘導に回ってください。俺が引き受けます!」
次の≪スカル・ナイト≫が持っていた刀を振りかざしてくる。ジズはそれを避けて刻印を探す。こいつは背中だ。ジズはその場から飛びあがり、ブーツのヒールに潜ませている刃を出して背骨の刻印を踏み砕く。次、とジズは呟く。
脚の刻印は体勢を低くして薙ぎ払い、頭がい骨の刻印は振り上げた刀を叩きつける。不格好な戦い方だが構うまい。
「大丈夫なのですか!?」
テソロの声だ。ジズは、問題ないよ、と返しながらさらに追撃をかける。ただ飛び回るだけしか能がないわけではないのだ。
「≪捕食≫」
ジズの目が金色に輝く。瞬間、ジズの辿った軌跡通りに青白く輝く蜘蛛の巣が浮かび上がった。ジズを追って来た≪スカル・ナイト≫はベタベタとその巣に引っ掛かっていく。
「ほい、いただきます、と」
言うや否やジズの手から伸びた糸の先にいた蜘蛛のような光の塊が≪スカル・ナイト≫を薙ぎ払っていく。すかさず≪捕食者ノ目≫で辺りを見る。同種の気配はなさそうだ。
はて?それでは指揮官はどこに…。
「シーギさん、皆さんの避難は?」
「まだ、あと数人残っている!」
「わかった、なるべく急いで!」
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