第2話:邂逅




固い地面を確かに踏みしめた感覚に、ジズはまぶたをあげた。瞬間、全身に青白い光が柔らかく降り注いでくる。とても懐かしい色合いだ。


ここが≪月慈の里≫。点在する白い壁の家、≪ヒカリゴケ≫や地下系の植物が生い茂る空間の外壁、そして中心には真っ白な大樹。


ジズはフードを外して光に身をさらした。灰白の髪と金の目が白い空間に溶け込む。懐かしいその色合いに一体化できそうな心地よさが全身を駆け巡り、彼は思わず幸せそうに微笑しながら胸一杯に息を吸っては吐き出した。


「良い所だね、とても心地がいい」


「本当に太陽の光は届かないのだな」


地下で生まれ育っていないロコは不思議そうに辺りを見回している。表情には出ていないが、恐らく驚きも感じているだろう。


そんな二人とは裏腹にテソロは少し焦ったような表情である方角に視線を投じた。ジズがその視線を追うと、そこには他の家々と同じく白い壁の家がある。


「ええ。…里のなりたちなどは後で語るとして、まずは我が弟イリアの診察をお願いしたいのです」


深刻そうな声。それが何を表しているのか、数多の患者を診察してきたジズには何となくわかった。


「族長さまへのご挨拶はいいのかい?」


「長老さまはイリアについております。さあ、こちらへ」





転移陣が起動している。そうか、月光浴が済んだのか。…はて、一緒に転移してきた者の気配に心当たりのない者がいる。誰だろうか。


「長老、さま…」


しばらく声を発していなかったので声が掠れている。いつの間にベッドにいたのか覚えはないが、目の前で心配そうに眉を下げている長老の姿を見て、また自分が知らぬ間に気を失っていたことに気がつく。


「イリア、もうすぐ医者が来るからな。もう少しの辛抱だ」


「お医者さま?」


「そう、お前の学友コルドの知り合いの医者だ。きっと、力になってくれると」


長老は矢継ぎ早に言うと、水を汲んでくると言って部屋を出ていった。気を失っている時にかいたのか、ベッドは汗でグショグショだった。そういえば喉もカラカラだ。


また部屋に一人残されたイリアは天井を眺めて息をついた。


――今度は、どんな医者なのか…。


今まで長老たちが呼び寄せたエルフの医者たちの治療は何も効果がなかった。傷跡も癒えぬまま、痛みもなくならず、効くかもわからない薬を飲み続けた。


こんな治療してまで生きる意味があるのか、とまで彼は感じるようになっていた。


「もういい、…いいから、放っておいて…」


イリアが声を漏らしたその時、部屋のドアがノックされた。長老が戻ってきたにしては早すぎる。怪訝そうに眉を潜めながらいると、部屋のドアが開かれ、その向こうからテソロと見知らぬ二人の青年が姿を現した。


――ああ、さっきの気配はこの人たちか。


「イリア、連れてきたよ。こちらは≪コバルティア≫のお医者様だ」

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