第3話:容態


薄暗く灯りのない部屋。浮かび上がる小さな肢体はまるでよくできた人形のようだった。しかし、その体には白粉が剥がれてしまったかのようなまだら模様がいたるところに刻まれている。清潔さは保っていたのだろう、それ以上の悪化はないがその痕が痛々しい。


廃墟に放置された独りぼっちの人形…。それがジズの感じた最初の印象だった。儚く美しいエルフの少年。


「あなたは?」


鈴が鳴いているようだった。ジズはかぶっていたフードを外して金の双眸で翡翠のそれを見つめた。


「ジズ=メルセナリオ、医者だよ」


「そう…」


少年はそう言って目を伏せた。興味が失せたのか、はたまた具合が良くないのか、判別しがたい。ジズはテソロに許可を得て部屋に入ると、少年のベッドの傍らに立つ。


「コルド様から依頼されて来たんだ。早速だけど、少し診させてもらうよ」


「どうぞ、ご勝手に」


少年の返事は淡々としていた。


ジズはタテハを呼んでポーチから出した紙とペンを押しつけてから、まずは少年の全身を見る。呼吸は正常、会話も問題なし、見た目視覚や聴覚に異常はなし、魔力も抑えられている。総じて異常はない。タテハの問診通りだ。ジズはタテハに今の診た内容を伝えて書き記させた。その間、手袋を診察用のものに付け替える。


「少し起き上がれる?」


「うん」


「じゃあ上体を少し起こすよ。――ロコ、手伝って」


壁に背を預けてこちらを見ていたロコに頼むと、彼は何も言わずに少年に近づき、失礼、と一言かけながら身を支える。ジズは枕と部屋にあったクッションを重ねて彼の背中の辺りに置いた。若干高さが足りないので、クッションの追加をテソロに頼むと、彼は急いで部屋を出ていった。


「タテハ、部屋の鍵閉めて」


すかさずジズが言う。不審そうな表情をしたのは少年だ。


「何してるの?」


「この方が君の≪本心≫が聞けるからね」


ジズはそう言って少年の腕にある輪を見やった。刻まれているまじないから察するに≪炎皮病≫の治療に有効な魔力制御の腕輪だろう。


「…≪炎皮病≫の進行はない。傷痕は、まあ気になるけど、君のさっきの様子からしてそれを消すことが≪本心≫ではなさそうだ。≪陽光過敏症≫も太陽光を浴びなければ済む話でしょ?」


コルド様からは診てくれ、としか頼まれてない。本当のところを教えてほしい。君は、どこが悪いの?







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