第11話:焦燥と安堵
昼過ぎ。ジズたちは変わらず洞穴の中にいた。いい加減お腹も空いてきたので、ロコが採集してきた山菜に保存食にもなる干し肉をちぎって投入したスープを食べた。
食後はあまり頭も回らないので、夜の移動に備えて仮眠をとることになった。彼らは木の椀や箸を汲んできた水で洗い、一通り食事の片付けを終えてから横になる。タテハは人形で睡眠を必要としないので、見張りを名乗り出て洞穴の入口を注視していた。
明け方から眠り続けていたジズは眠る気になれず、タテハのくれた問診票をランタンの光に透かしながら眺めていた。
――意外なところに手がかりがあったものだ。
問診票に視線は投じつつも、ジズが考えているのはタテハの口から出た≪メルディ≫の大樹の話だ。ひょっとしたら≪ナディ≫に関する何かがわかるかもしれない。そう考えていると、胸が絞めつけられるような焦燥感を覚えてならないのだ。
――落ち着け、まだ確証はないんだ。
そう言い聞かせても心は落ち着かない。今何時だろうか、日は沈んだのだろうか。早く出立して一刻も早くエルフの治療をして、そして…。
「焦る気持ちはわかるが寝ろ」
そこですでに横になって目を閉じていたロコが声をかけてきた。心を見透かされたジズが驚いた様子でいると、ロコは薄く目を開いて深い青の双眸を此方に向けてくる。
「集中力を欠いて診察と処置に失敗したらどうする。エルフたちはおろかコルド様からの信頼も地に落ち、お前がご執心の≪メルディ≫どころじゃなくなる」
そうしたら、せっかくの手がかりが台無しだぞ。
ロコの投げかける≪正論≫を受けたジズは黙ってうつ向く。
「……ロコにはわからないさ」
「わかるわけがないだろ」
間髪いれずに返される。ジズが何かを言い返そうと顔をあげると、ロコは目を閉じ呟くように続けた。
「わかるわけない、私はお前ではないからな。だが、察することぐらいはできる。……心配ぐらいはさせろ、私とお前は相棒だろう」
わかったらさっさと寝ろ。
ロコは寝返りをうってジズに背中を向けた。ジズはその背中をしばらく呆然と眺めていたが、やがて恥ずかしそうに顔を赤らめながら髪をグシャグシャと掻き回す。
「……よくそんな戯曲にありそうな台詞をしれっと吐けるね。聞いてるこっちが恥ずかしいよ」
「吐かせてるのはお前だ」
「だから、そういうのが……っ!あーっ、もういいよ、おやすみ!」
ジズは問診票を投げ出して仰向けに寝転んだ。憎まれ口を叩きつつも、ロコの言を受けてあの焦燥感がなりを潜めたことに安堵した。
ロコの言葉を受けて安堵したら少し眠くなってきた。おやすみ、に対する彼の返答はない。きっと早く寝ろという意思表示だろう。口に出すのもなんだか照れくさかったので、ジズは礼の言葉をそっと胸中で呟いた。
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