第3話:気配


今回の依頼に関しての疑問はたくさんあった。


なぜ評議員コルドでなく自分のところに依頼が回ってきたのか。ギルドに所属する医療魔導師は確かに自分のみだが、そんなに回りくどいことせずともコルドが自分で治してしまえばいい。評議員の仕事が忙しいと聞いたことはないし、そもそも何人もいるのだからコルド一人がしばらく抜けたとしてもなんら問題ないはずだ。


仮に、何か厄介事が生じて自分に白羽の矢が立ったのだとしたら、その厄介事の内容も気になるが問題はそこではない。何故、地下で暮らしているはずの一族の青年が≪陽光過敏症≫の診察を依頼してきたのか、だ。月光浴を習慣とする一族なので≪月光過敏症≫を治療せよと言われたなら納得行くのだが、太陽の光を克服する必要があるのか。ロコの言う通り、併発が疑われる≪炎皮症≫の治療が目的なら、それこそ魔法具を作ればいい話だ。


考えれば考えるほど訳がわからない。


あるいは…、あのエルフが自分と同じく、何か目的があって昼に地上に出なくてはならない事情でもあるのだろうか。


そんな感情が面に出ていたのだろう、ロコが呆れたように息をついた。


「いくら考えても推測にしかならないだろう。本人に聞くのが早いと言うておろうに」


「少しでも可能性を考えられることを探っているまでさ」


そんな話をしながら、二人は山道をずんずんと進んでいく。季節は秋の終わり、身に刺さるような冷気が風となって駆け抜けていた。


フードをさらわれたジズは靡く灰白色の髪を押さえながら金色の目を細めた。日も落ちて辺りにはランタンの明かり以外の光はない。太陽の光が苦手なジズにとって一番動きやすい時間だ。しかし、山道は入り組んでいて少し道を誤れば、たちまち迷い人になる。気を付けねばなるまい。


その上、夜の山道には獣も出るのだ。


「ロコ、左右の繁みに気配…」


「ようやく気がついたか。――左は任せろ、お前は右を」


「オッケー、片付いたらここに集合ね」


二人はそんなやり取りをすると、ジズが青白く光る何かを指で弾くと同時に散開した。





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