第3話:来訪者
ジズがぼんやりとキセルをふかしながら虚空を眺めていると、ふいに誰かがノッカーを鳴らした。ジズは煙を吐き出しながら、開いてるよ、とドアに向かって声をかける。ややあって部屋に入ってきた人物は煙の充満した部屋に入ると、その香りに思わず表情をしかめた。
「相変わらず、身体に悪いものを吸っているな」
「しかたないだろ、これがないと狂っちまうんだからさ。―で?何の用だい、ロコ」
訪れた人物を振り向くことなく声で察したジズは、別段驚いた様子もなくいつも通りの口調で応じた。ロコ、と呼ばれた茶色の髪と青い目を持つ青年は突然ジズのキセルを取り上げると、吸い口から煙を飲んでますます険しい顔になる。
「…おい、これ≪ローゼラ≫か?」
「だとしたら?」
「…ほどほどにしておけ。まだ死にたくはないだろう」
ロコはそう言いつつ、灰箱にキセルをカツンと打ち付けて火種を落とした。その行動が言外に、もう吸うな、という意味を含んでいることにジズも当然気がついていた。彼は深々とため息をつきながらキセルを受け取る。
「仕方ないだろ?生きるためさ。こうして普通にしゃべってはいるけど、俺の体はそろそろ限界なんだよ」
「だからといって、麻薬を飲んでいい理由にはならんな。お前仮にも医者だろう?」
「仮でなくても医者さ、死にかけのね」
医者、という言葉にジズは一瞬眉を動かした。が、すぐに自嘲気味に笑いながらクルリとキセルを回す。
「≪死を怖れよ、生を畏れよ、我が身を懼れよ ≫ ―重々承知しているよ、俺はいつも覚悟の上で生きている」
諦念の混ざった金の双眸が細くなる。人生を達観したようなその色は彼の雰囲気を大人びたものにしていた。
それを受けたロコは呆れた、と言わんばかりに息をついた。
「まったく、口が減らない奴だな…。―まあいい、お前に仕事だ」
「なんだい?」
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