第4話:闇医者への依頼


ジズはロコに椅子を勧め、自分は机の上に腰を掛けた。ロコは遠慮も礼もなく椅子に腰を下ろしてから、少し大きめの封筒をキモノの懐から取り出してジズに渡した。


「医者へ頼む仕事など一つに決まっているだろう。診察の依頼だ、場合によっては処置してもらう」


ロコの封筒を受け取ったジズは、封緘の刻印に見覚えがないのを見て目を細めた。


「随分ご立派な封緘だねぇ。言っとくけど、人間の貴族の診察はしないよ」


「エルフの貴族の診察だ。なんでもコルド様の学友らしい」


「へぇ、それはそれは…」


ジズは言いつつ指に魔力を集中させて器用に封筒を切る。中から現れた上質な羊皮紙には流麗な文字が書き連ねられていた。


曰く、そのエルフの貴族の青年―イリアは長らく謎の病と闘っているのだと言う。太陽の光に肌を焼かれ、強い日差しに目を潰され、日が落ちないと活動できぬ体となってしまったとある。ジズはその症状を見て目を細めた。


「重度の陽光過敏症だねぇ、こりゃ。下手したら炎皮(えんぴ)症と併発してる」


「皮膚が焼ける病か…」


ジズは静かに頷いて立ち上がると、部屋にある本棚から何やら分厚い本を取り出してページをめくり出した。


「これさ」


≪陽光過敏症≫


太陽の光に体が強い拒否反応を示す病。長らく太陽の光を浴びていないものに発症しやすく、人間の発症率は極めて低い。長命のエルフが発症しやすく、不死族は必ずと言っていいほど発症する。



≪炎皮症≫


皮膚が焼ける病。体内の魔力が制御しきれず溢れ出しているためにおこる症状のこと。どの種族も魔力保有者は因子を持っている。


読むか、とジズの差し出した本をロコはそのま押し戻す。


「ご託はいい、治るのか?」


「治せるものは治すよ、俺を誰だと思っているんだい?」


彼の自信に満ちた表情でそう言い切った。





彼はジズ=メルセナリオ、灰白色の髪に金色の双眸、顔には蜘蛛の刺青を持つ闇医者の青年。魔法に通じ、彼に治せぬ病はないとまで称されている稀有な医療魔導師でもある。流浪の旅をしており一所に留まらないため、お抱えの医者として雇いたい各国の首脳や貴族たちが探し求めており、現在国際手配されている身だ。


当人はいくら金を積まれても、土地を提示されてもなびくことはなかった。お抱えになったら自由に旅もできなくなる、彼の目的は≪ナディ≫だ、他のことは二の次。


だが、そんな彼にも所属する組織がある。


≪アスプロ・コラキ≫


≪白い烏≫という意味を持つ名の魔導師ギルドだ。様々な事情や目的を持つ魔導師たちが集まり、山の中に小さな集落を作って暮らしている。


≪ナディ≫を探すことは一人では困難だ。ジズは情報や協力者を募るためにギルド登録した。それから大体四年が経つが、未だ≪ナディ≫は見つからないまま時は過ぎていた。


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