7

 世界を救い、二度も町を救った英雄に対して、町民の誰もが距離をとっていた。その顔には、一様に恐怖がこべりついている。


 狩人には取り繕うつもりも、弁解をするつもりもなかった。


「道具屋の女は無事か」


 狩人の問いかけに、町長は首を何度も縦に揺らす。これで目的は達した。


 長居をする必要はない。狩人は自身の武器を拾うと、そそくさと門のほうへ歩いていく。


 その背中に向けて、一つの影が飛び込んでいった。


 狩人は山賊の残党かと振り返り武器を取りかけたが、慌ててその手を押しとどめる。


 人質に取られていた子どもが、狩人の豊満な胸に飛び込んだ。そして唐突に衣服を引っ張ると、ゴソゴソと手を動かす。


「ちょ、こら、そんなところっ……」


 子どもはどさくさに紛れて胸を揉みしだいているというのに、全く遠慮がない。狩人は顔を赤らめて引き剥がそうと試みたが、子どもはまた唐突に自ら離れた。


「できた!」


 胸には、先ほど放り投げた勲章が付けられていた。


「わたし、狩人様みたいに悪い奴らを狩る女になる!」


 子どもの顔には、怯えなど一切なかった。昼間の宴の席と同じ、きらきら光る羨望の眼差し。


 狩人は子どもの頭を乱雑に撫でると、改めて背を向けて一歩を踏み出す。


「また来てね、狩人様!」


 狩人は後ろ手を上げて別れに代えた。


 悪い奴らを狩る、か。それはいい旅の目的だ。


 世界に平穏が戻ったとはいえ、魔物は変わらずに存在しているし、人の悪意も消えない。英雄のなかで一人くらい、性懲りもなく旅を続けてもいいだろう。


 空は白み始めていた。狩人はせっかくの夜明けをどこか見晴らしの良いところで迎えると決め、足取りも軽く旅を再開した。

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Cパートは本編より長く 一繋 @hitotsuna

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