8#「これが俺の角だ!!」

 ごごごごごごごごごご・・・・・・




 1000頭とかつての仲間達全ての霊力を纏った雄エゾシカは、隆々とした堅体と野太い枝ぶりの頑強な角を振り立て、憎悪の入り混じった荒い息をパンパンに膨らませた鼻の孔から吹き出し、じりじりと憎むべき相手・・・人間・・・ハンター達へ詰め寄った。




 ふしゅう!!ふしゅう!!




 その雄エゾシカのいでたちは、まるで鬼神でもあり、ひと刺しでとてつもないパンク音で破裂しそうにパンパンに張った、巨大風船のようだった。




 「俺の角に宿るお前ら・・・この人間どもをやっつけていいかな・・・」




 ≪いいとも・・・どうぞ・・・俺達も運命共同体だ・・・≫

  

 ≪俺も御一緒するぜ・・・やっておしまい!!≫



 ・・・よおし・・・




 「ぎゅうううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 雄エゾシカは、雄叫びをあげると角を振り立て、ハンター達のいる茂みに突進していった。



 どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど!!!!!!




 がしっ!!がしっ!!がしっ!!がしっ!!がしっ!!がしっ!!がしっ!!がしっ!!がしっ!!がしっ!!がしっ!!




 獰猛な獣と化した雄エゾシカは、ハンター達を『宝刀』の角を振り上げて、


 契っては投げ、


 契っては投げ、


 契っては投げ、


 契っては投げ、


 契っては投げ、


 契っては投げ・・・




 「みいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!」




 雄エゾシカは、猛り狂って雄叫びを挙げた。




 その雄叫びは、山野を轟かせ、北の大地を奮わせた。




 がしっ!!がしっ!!がしっ!!がしっ!!がしっ!!がしっ!!がしっ!!




 ぶうん!!ぶうん!!ぶうん!!ぶうん!!ぶうん!!




 どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど!!




 ダーーーーン!!


 ダーーーーン!!


 ダーーーーン!!


 ダーーーーン!!




 雄エゾシカの襲撃で負傷したハンター達が、何発も何発も何発も何発も何発も何発も何発も何発も何発も何発も何発も何発も、猟銃で応戦しても、銃弾は、雄エゾシカの身体が跳ね返した。




 どすどすどすどす・・・




 「みいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!みたらせーーーーーっ!!これが!!これが!!俺の自慢の角だぁーーーーーー!!」




 ぶうん!!ぶうん!!ぶうん!!ぶうん!!ぶうん!!




 がしっ!!がしっ!!がしっ!!がしっ!!がしっ!!




 雄エゾシカの角にこびりつくハンター達の鮮血。




 猛り狂う雄エゾシカの怒りはもう、どうにも止まらなくなった。




 ダーーーーン!!


 ダーーーーン!!


 ダーーーーン!!


 ダーーーーン!!




 ・・・あれっ・・・



 突然、雄エゾシカの意識が朦朧とした。


 死にも狂いで放ったハンターのライフルの銃弾が、雄エゾシカのこめかみに命中した。




 ダーーーーン!!


 ダーーーーン!!


 ダーーーーン!!


 ダーーーーン!!



 

 残されたハンター達は、次々と忌まわしい雄エゾシカに銃弾を打ち込み、忽ち蜂の巣にされていった。




 雄エゾシカの体内から、大量の鮮血が吹き出し、身体のバランスが崩れてきた。




 ・・・痛い・・・!!



 ・・・でも、苦しくない・・・



 ・・・あれっ・・・



 ・・・何で・・・



 ・・・みんな・・・?



 ・・・生きてたの・・・?



 ≪隊長!俺達に尽くしてくれてありがとうよ!!≫


 ≪隊長!これから隊長を『神の国』にエスコートします。≫


 ≪隊長!これから、ずうっと永遠に一緒ですね。だって、皆死んでるんだもん。隊長も死んでるしね。『神の国』に行ったら、皆で暮らそうよ!!≫



 ・・・死んでる・・・?!


 ・・・俺、死んだ・・・?!


 ・・・ええっ・・・?!



 雄エゾシカは、下方を見下ろした。


 全身を銃弾を打ち込まれ、ズタズタになった自らの亡骸を見付けた。


 周囲には、着いてきたエゾシカ達の夥しい射殺体・・・


 そして、無惨に割れた風船の破片が飛散していた。



 


 ≪立派な角のシカさーーん!!風船ありがとう!!『神の国』で一緒に風船で遊ぼうよ!!≫


 ≪立派な角のシカさーーん!!風船欲しかったんだぁーーー!!風船!!風船!!≫



 更に仲間達の後方には、雄エゾシカに貰った風船を口にくわえて1000頭程のエゾシカ達がぞろぞろ雄エゾシカ達と共に、『神の国』に向かって走ってきた。


 蹄の音もなく、エゾシカ達は皆膨らましたての風船のように艶々と輝きを放って、『神の国』へ駆け登っていった。




 ≪おーーーーい!!≫


 ≪きたぁーーーー!!≫


 ≪エゾシカさん達ぃーーーー私達まってたぞーーーー!!『敵』同士、一緒に遊ぼうぜ!!≫


 ≪おっー!風船持ってきたんだ!!風船、俺大好きなんだ!!≫




 『神の国』の門前では、下界では絶滅して姿を消したエゾオオカミ達が、前肢を降っていた。




 ≪オオカミさーーん!!ほほーーーい!≫




 エゾシカ達は、『神の国』の門を潜ってオオカミ達に逢う寸前・・・




 「みんな、ちょっと待った!!下界ではやり忘れたことがある!」


 雄エゾシカは、エゾシカ達とオオカミ達にこう告げて、再び下界に降りていった。




 ≪どうぞどうぞ!用事終わったら、戻ってきてね!!待ってるよ!!≫


 ≪隊長!!何処に行くんですか?≫

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