6#迫り来る悪夢への兆し

 ダーーーーン!!


 ダーーーーン!!




 地元のハンターが放った銃声が、山野にこだました。


 それは、誰かしらの命の終焉を意味する。




 後に獣害史上最悪と言われることになる、人間を大量に殺戮してきた一頭の雌ヒグマが遂に駆除された。


 人間の勝利だ。


 雌ヒグマと格闘し片腕を失った一人のハンターは、誇らしげにこの『殺人熊』を踏みつけて仲間と抱き合っていた。


 射殺された雌ヒグマの傍らには、子熊達が2頭転がっていた。


 それぞれ頭を撃ち抜かれ、既に息絶えていた。


 目の前で殺された雌ヒグマの死に悲しみ、くーくー鳴いているとこを一緒に射殺されたのだ。


 子熊達の亡骸の目には、まだ涙が光っていた。




 「馬鹿だよ・・・本当にお前達は馬鹿だよ・・・」


 父ヒグマのヴァンは、母ヒグマのボォムとその我が子の憐れな末路を人間に見つからないように崖の上からそっと見詰めていた。


 父ヒグマのヴァンは、前肢の脇奥に隠した母ヒグマのボォムが息で一気に膨らまし割った散々の赤い割れた風船と、子熊達が口を付けた後にヴァン自信が鼻息で膨らましたオレンジ色とピンク色の割れた風船を取り出すと、目から一筋の涙が溢れた。


 「あの時・・・はしゃいでいた我が子が、あんな最期を遂げるなんて・・・・」




 ・・・はっ・・・!!



 母ヒグマのボォムの亡骸の側に、台に吊るされていた『囮』の肉片を見て、絶句した。




 ・・・エゾシカ・・・まさか・・・!!




 雄ヒグマのヴァンは、あの風船を角にいっぱい付けた雄エゾシカのニイムのことを思い出した。




 ダーーーーン!!




 「ひやっ!!」


 真下のハンターが撃ったライフルの弾がヒグマのヴァンの耳をかすめて飛んできた。


 「しまった!気付かれた!!」


 


 ダーーーーン!!


 ダーーーーン!!



 ヒグマのヴァンは必死に逃げた。


 ハンターの銃弾から必死に逃げた。




 ・・・危ない・・・!!


 ・・・今度はあのエゾシカ達が危ない・・・!!


 ・・・風船角のニイムよ、無事でいろよ・・・!!



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