第10話:Joyful Monster (SideB)
僕と楓は、ゆっくりとした時間を、リトル・グリー・モンスターの曲とともに過ごす。
いろんな雰囲気の曲がちりばめられているセカンドアルバムは、僕ら二人の会話を弾ませるのに、必要にして充分だった。
「そういえば喉乾いたよね。今から飲み物持ってくるよ」
そう言うと楓もすっと立ち上がり
「私も行く」
と言い出して、二人して飲み物を取りに行った。
楓は一目散に冷蔵庫に行き、自分が持ってきた缶ジュースを二つ取り、
「二人でこれ飲もうよ!!」
楓はそう言うが、僕はあまり甘いジュースが好きではなかったので、
「僕はコーヒーにしておくよ。」
そう言うと楓は、むすっとして、
「じゃあいいです!!」
「私一人で飲みますから!!」
「あ~親友の温かい気持ちが台無しだわ!!」
「あ~可哀想!!」
「そんなに攻めなくても…… ほんとに苦手なんだって……」
「別に飲んでほしいなって言っていませんから」
「これっぽっちも!!!」
『こうなると、楓の機嫌直すの難しいんだよなあ。』
そんなことを考えつつ、僕の部屋に戻ると、二人して元の座っていた場所に座り手に持っていた飲み物を置いた。
楓は無言で、『ぷしゅ』っと缶ジュースの栓を開けると一気にグビグビと飲み始めた。
『こりゃ機嫌直してもらうには時間が必要かな』
そう思った時だった。
楓から話し始めた。
「そういえば歩夢さ、なんでギターもう一度始めようなんて思ったの?」
いきなりの確信に近づく質問されて、ちょっとどぎまぎしたけれど、無難に返答しておこうと思って、
「いやあ、なんとなくさ、最近見ていたらもったいないなあ、なんて思ってね。それで始めたの」
と、答えた。
「ふ~ん」
楓はまだイライラしているのか、まだグビグビと喉を鳴らしながらジュースを飲んでいた。
「それにしても、歩夢の部屋って小さいころから来てるけど、意外と殺風景よね」
「余計なお世話だ」
「でもこのベットの下に見られたくないものでもあるんじゃない?」
「はい?」
『いきなり、なに変なこと
そう思いながら、
「何もないよ」
「嘘つけ、年頃の男子の行動は分かってますよーだ!!」
楓はそう言うと四つん這いになってパタパタと僕のベットの方に近づいてゆく。
「なにやってるの、もう」
「何もないよ、ほら」
僕はベットの下が見れるように、端が垂れているシーツを上げて、見渡せるようにした。
「ちぇ! 詰まんな~いの~」
そう言うと、今飲んでいるジュースがもう飲み終わったらしく、もう一本の方に手が伸びた。
「やっぱりいつも飲むジュースより由奈がくれたジュースが一番おいしいな!!」
「あ~歩夢はもったいないことしたな!!」
「由奈が言ってた通り、スッゴイ気持ちがいいと言うか、軽くなるわ~」
「さ、歩夢の分も飲も~と」
「あ~あ、絶対後悔ものだわ」
楓は横を向き、流し目で僕を見ながらそう言うと次の一缶の栓も開けてしまい、またもグビグビ飲み始めてしまった。
僕は今までの楓の会話の内容と、いつもとは明らかに違う赤みを帯びた楓の顔を見て、
『楓の奴、まさか……』
しかし、僕の疑念はまだ確信にまでは、至っていなかった。
そんな時、妙に殺気立った視線を感じ、とっさに楓の方を見た。楓は僕を睨みつけていた。
「だいたいおかしいのよね。」
「なに?」
「なんで一度やめたギターを今この時期に始めたのよ」
「なんでいきなり歩夢にギター教えたり、譜面書いてくれる知り合いなんかできるのよ」
「いや、それはね、なんていうか……」
「あ、そうそう、軽音楽部に知り合いがいるの!」
「そんなの聞いてないぞ~!!」
かなり、目が座っている。ちょっと言葉遣いもおかしい。ろれつも回らなくなってきている。
『やっぱり!!』
僕は、楓が既に飲み終わらした方の缶を取って見たら、案の定だった。
『チューハイだよ……』
『やばい、かなり酔ってる』
正座座りして、僕はテーブルに手に取った空き缶を置くと、チューハイ片手に酔っ払った楓が僕の背中に抱き着いてきた。
「じゃーん!!」
そう言いながら僕の顔の真横でまたもグビグビと喉を鳴らしてチューハイを飲んでいた。
「楓もうダメ!! それお酒だよ!!」
「知ってましたよーだ!! バカアユム~たらバカアユム~」
そう言うと楓は僕に空き缶を手渡した。
『あ、空だ……』
そう思っていると、後ろに抱き着いている楓はそのまま僕の首元に両手でしがみつき、右斜め後ろに引き倒した。
「うわ!!」
その後、楓は僕を仰向けにした後、その上に覆いかぶさるように四つん這いになって僕を見下ろした。
僕と楓の距離が楓の腕の長さしかない。
そう思うと、僕まで変に意識してしまう。
「待て待て、相手は酔っ払いだ、何とか黙らせよう」
しかし、目も根性も座り切ってる楓は僕を睨みつけて
「だれのためにがんばったとおもうんら」
「え?」
「だから…… だれのためにがんばっらとおもうんら……」
「こら!! こたえろ!!」
何を頑張ったのかよくわからず、ちょっと楓の目線をそらすように足元の方にずらすと、上着のニットのタートル部分が大きく開いているので丁度上から胸元を見下ろすような感じになってしまった。
楓の鎖骨からちょっと下の方まで見える。思わず見とれていたら、
「このすけべ!!」
と思いっきり頭をひっぱたかれた。
「いてて、ごめんよ」
そう言って楓の顔をも一度見ると、今度は妙ににやけている。
「ほんろはあ、あゆむもお、おとこのこなんらよねえ……」
ゆっくりと僕に向かってそう言うと、
「ちょっとあついしい…… うわぎぬいじゃおうかなあ……」
「ダメダメ!!ちょっとほんとに待って!!」
「うそらよ、ばか!!」
また頭をたたかれた。
「しょうがないなあ~」
そう楓が言うと、今度は両手を僕の肩に置き、ゆっくりと楓の身体が僕の方に向かって下がってきた。
「ちょ、ちょ、ちょっと!」
そう言ってる間もなく、楓の身体は、僕の身体と密着してしまった。楓の両手は両ひじが外に向いていたが両足は僕の左右の足に折り重なう様になっていた。
『こんなに密着したのは幼稚園以来だってば~』
僕は完全に体が固まってしまった。僕の左胸には楓の頭が完全に力の抜けた状態で乗っかっている。意識しない様にしていても、楓の身体の凹凸が重力のせいでもろに分かってしまう。
『楓のバカ~』
そうしていると、楓は僕の左胸に耳を当て、
「……アユムのしんぞう、どきどき、すごい……」
上から見下ろす楓の真顔。うっすらと開く楓の瞳とつぶやく言葉は衝撃的な魔力があった。
『すべてアルコールのせいだ』
僕はそう確信し、力ずくだったけれど、僕と楓の上半身を起こさせた。
楓はぺたんと座り、上半身をクラクラさせていた。
「かえで、ちょっと休もう。横になった方がいいよ。」
「ううん…… いまなられ、あゆむに…… ほんねをいえちゃうかもだよ……」
「え! それどういうこと?」
「あゆむら…… あたしのこと…… ……おさななじみのほかにどうおもってえるのら?」
「どう思ってるって……」
楓の奴、酔ってる割には真剣に答えを待ってる。
「う~ん、頼りがいがあるって感じかな」
「はあ~~」
明らかに、楓の顔がヤンキー顔に歪んでいた。
「ほら、楓、日本拳法有段者じゃん、いつでも守ってくれる頼もしい存在っていうか……」
バチン!!
「痛ってえ!!」
思いっきり平手でびんたをもらった。
「こら!! 楓、お前いい加減に……」
僕はそう言いながら立ち上がろうとした瞬間、楓の両目から涙がボロボロ流れ始めていた。
「あゆむのばか…… ばか…… ばか……」
「わたしはね、まじめにいいてるのらよ……」
「あゆむがいつも……きつかないらら……」
「だから、こうこうせいになって……がんばろうとしたんらよ……」
「そしたら…… いきなりかのじょなんてくつってら……」
「さびしかったんらよ、すっごくすっごくさびしかったんらよ……」
「かのじょとわかれらら、いきなりまいばんよあそびしてら……」
「ふ、ふ、う、う、うわあ~~ん」
楓は天井の方に顔を上げて思いっきり本格的に泣き始めた。お尻からぺたんと座り両手をだらりと下げて上を向いて泣いている姿は、ほとんど小学生レベルだった。
「もういやや…… じっろがまんしれ、でも、がんばっれ、もう、あゆむう」
「わああああああああん」
ほとんど言っている意味が解んない……
どうしようにも楓は止まらない。
どうしようか悩んでいた時だった。
急に、涙と鼻水でぐしゃぐしゃでメイクもボロボロの楓がパタッと泣き止み表情が硬くなった。
「?」
僕はその豹変ぶりをじっと見てると、楓の顔はいきなり真っ青になり両手で口を押えると両ほほがぷくっと膨らんだ。
「やばい!!」
僕がそう思った瞬間、楓は立ち上がり僕の後ろ数歩行った瞬間、そのまま膝立ちになり下を向いて…… ……キラキラキラキラ……
僕は、一部始終を見てしまった。
♪・♪・♪
楓は、ゆっくりと僕のベットで横になりすやすやと眠っている。
僕が、楓の吐しゃ物を片付けている間に、両親が帰っていたので母にも手伝ってもらい、楓を介抱した。
さすがに僕は楓を着替えさせることは出来ないので、母に頼んで僕のジャージに着替えさせ汚れた服は洗濯機に入れ洗濯中。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったメイクも、母がメイク落としか何かできれいにふき取り肌の手入れをしてくれた。すっぴんの楓の顔を見るのは意外と久々だなと思った。
その後、楓の家に電話も入れてくれ、おばさんに、
『今静養しているから帰りが遅くなります』
とも連絡してくれた。
僕は、じっと楓の寝顔を見つめていた。
正直、酔った後の楓の言葉は、意味不明だったけれど、よっぽど僕に何か伝えたいことがあったことだけは分かった。
でも、あれだけ泣いた楓は、僕に何を訴えたかったのだろう。
楓は『ううん』と息苦しそうに寝返りを打つ。
僕は、思わず楓の寝顔を覗き込んだ。
酔って迫ってきた楓の魔力が、まだ僕に
そんな“へ理屈”が僕の顔を楓の顔へ近づけさせる。
楓の寝息が…… 感じられる。
お互いの唇の距離が5センチ程度になり、目を閉じゆっくり顔を近づけていった。
「アユムのバカ!!」
楓のいきなりの寝言で、僕は飛び起き、とっさに離れた。
唖然とした僕は、ただ、反省するのみだった。
ゴメンネ、カエデ。
♪・♪・♪ To be continued ♪・♪・♪
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます