第4話:可愛くなりたい

「なんでかな。昨日ラインで約束してから妙にドキドキする……」


 私は、皆木みなぎかえで

 外を眺めて流れる雲を見ては、


「はぁ」


 とため息をついてた。

 大体、なんで歩夢のことで、私がため息つかなきゃなんないのかなぁ。この私が一緒に映画とか、買い物とか付き合ってあげるだけ、幸せだと思ってほしいぐらい。


 でも、中学校までは地味で通してたからなぁ。

 歩夢、今はどんな感じなんだろ。高校から別々になって、半年ちょっと会ってないだけでしょ。大した変化ないよね。


「よっ!! 黄昏たそがれ少女しょうじょ。何頬杖ついて考えてんですか?」


 ニコニコしながら、後ろから肩をたたいてきたのは、親友の上原由奈うえはらゆな。私がこの高校に入って、私から話しかけて友達になった子。今は大親友。そんな由奈が机越しに私の前に座った。


「ちょっとね。今週の土曜日、幼馴染と出かける約束を半年ぶりにしたの。だけど今になって、急にドキドキしちゃって……」

「ただの幼馴染なんだけどね。」


 私はそういいながら笑顔でいると、


「ふーん…… ほんとにただの幼馴染?」


 由奈は、ちょっと怪訝けげんそうな表情をして私を見つめた。反則だよ、そんな大きくかわいらしい瞳で私を見つめるの。


 由奈は、この学校の中で一番オシャレな子。

 オシャレすぎて、学校の先生にも目をつけられてるぐらい。編み込んだ髪の毛は、軽くパーマがかかっている感じだった。ちょっと茶髪が入っているかな。

 二重の真ん丸な大きな瞳はとてもチャーミング。素直に羨ましい。頬紅は薄く、少し厚めの唇は、逆に由奈の女性らしさを演出している。

 身長は高く165センチぐらいはあるんじゃないかな。もろモデル体型。出てるところ私より出てるし。


あねさん、私も可愛くさせて!』


 って感じなんだ。


 初めて会った時からそうだった。

 私はほんとに地味だったから、高校に入ったら変身してやるんだ、女子力上げてやるんだって考えてた。

 だから、とっても緊張したけど、私から、


『お友達になってください。私にオシャレを教えて下さい!』


 って声かけたの。由奈はその格好からか、友達がいなく一人だったけど、とても素敵な笑顔で、


『いいよ!! 一緒にがんばろ!!』


 って言ってくれた。それがとてもうれしかった。


 それからいろんなことを教わって、私を変身させてくれた。髪型も、眼鏡も、マスカラやアイライン、リップのカラーの選び方や、制服の着こなし方も。



「おーい!!何考えこんでんの。私を放置するなー! 楓!!」


「あ、ゴメン、由奈。ちょっと思い出してたの。出会ってからのこと。」


「あの時の楓って言ったら、そこら辺のブスだったよねえ。」


「ひっどーい!!」

 ちょっと私はむくれた顔をした。


「あははは、ごめん、ごめん。だってホントのことなんだもん。でも、ちゃんとアフターサービスはしたろ。楓。」


「そりゃそうだけど……」


「何幼馴染に会うだけでドキドキしてんの?」


「……」


「まさか、その幼馴染に恋してる?」


「いきなり何言ってんの由奈!!」


 私は大きく首を振った。


「ない・ない・ない。バカ歩夢に限ってそんなことはないよ。」


「ふーん、歩夢っていうんだ、その彼。あってみたいなあ。」

「ね、今度紹介してよ!」


「彼氏がいる人には紹介しません!」


「別に二股かけようとかじゃないし。ただ、楓を悩ます彼氏に、会ってみたいだけ。」


 ずっと由奈はにこにこしながら攻めてくる。絶対由奈はSだ!!


「別に悩んでなんていませんよ。」

「たださ、由奈にいろいろ教わって女子力上げたつもりじゃん。それ、分かってくれるかなって。」


「楓、つもりじゃないよ。上がってる。現にヘアスタイルや身なり変えたらもう3人に告くられてんじゃん。それもそこそこの男子。先輩もいたっけ。はっきり言って自信持っていいよ。」


「アリガト、由奈。」


 私は、自分のおでこを由奈のおでこにくっつけた。そして、ゆっくりと目をつぶる。こうしてると、由奈の優しさが心まで染み入るようで、幸せな気分になる。由奈もじっとして私に合わせてくれる。意外と私と由奈は似た者同士かもしれない。



♪・♪・♪


 自宅に帰ると、私はすぐ自分の部屋にこもった。

 そして、机の上のノートパソコンを立ち上げ、スピーカーの電源も入れて、ユーチューブのお気に入りをチェック。

 今日、由奈と話して無性に聞きたくなったハニワの曲をチョイスした。


『可愛くなりたい』


 この歌詞、ボーカルの声、イラスト、アレンジ、すべてがかわいくて、ときめいていて、今の私の思いにピッタリだった。

 最初は、高校デビューで女子力上げたいだけだったけれど、バカ歩夢に彼女が出来たと聞いたとき、


『可愛くなって歩夢に見返してやりたい』


 そんな気持ちが次第に強くなっていった。


 その変貌ぶりを今度の土曜日、見せつけてやるんだって強気だったんだけど、でも、このうずうずとした不安感はなかなか消えなかった。


「よし!!」


 私は気合を入れて、道着に着替えなおした。

 私のパパは日本拳法の指導者の資格を持っていて、ボランティアで週2回ほど市営体育館で子供たちを教えている。

 そんな環境だったから、ピアノと同時に、日本拳法も習う羽目になった。結局、高校受験まではピアノと日本拳法との二足の草鞋わらじを履いていた。だからほんとにおしゃれする暇なんかなかった。でも、そのおかげで日本拳法は初段の有段者。今でも週一回は稽古に顔を出さないとパパに怒られる。

 全く、武道のパパと、ピアノ講師のママ。両方持つと、大変極まりないですよ……。


 部屋の窓側の片隅に置いてある、自立式のサンドバックに道着に着替えた私は、半身になって構えた。


「セイヤ!!」

『バス!!』


「セイヤ!!」

『バス!!』


 掛け声とともに右回し蹴りを入れる。

 自立式のサンドバックは意外と固すぎず、気持ちいいぐらい『くの字』にへし曲がってくれる。


「ふう、次はもっと、気合の入る掛け声をかけるか。」


「バカ歩夢!!」

『バス!!』


「バカ歩夢!!」

『バス!!』


「まだまだ、胴突きでどうだ、歩夢のやろう!!」

『ドス!!・ドス!!』


『あ、思わず気合い入れすぎちゃって、2連発入れちゃったよ』


 ちょっと汗もかいてきて、気持ちがすっきりしてきた。あと30分ぐらい練習しよ。


「バカ歩夢、バカ歩夢、バカ歩夢!!」

『ドス!・ドス!・ドサ!!』


♪・♪・♪


 お風呂、食事、ピアノと日課をこなし、あとは自室で勉強だけ。

 今の高校は私にとって、芸術科目のピアノ専攻科は問題ないんだけど、一般教科にちょっと追いつけていない所もあって苦戦中。特に数学。

 バカ歩夢、勉強追いついているのかなあ? バカなくせに、最近謎の夜遊びで正直心配。ほんとになにやっているのか訊きだしたい。

 でも、幼馴染でここまで思うものかしら。私が歩夢に干渉しすぎている?


『あー、もういや!』


 早く彼氏でも作ろっかなぁ。

 歩夢だっていきなり入学して一か月たつか経たないかぐらいで、


『彼女ができた、洋服とか何選べばいいか分からんから教えろ』


 だとか、


『女の子は、どこのお店つれてったら喜ぶんだ、教えろ』


 とか、ちょっと幼馴染とはいえ、私だって女の子よ。ひどくない? だから今度は私が彼氏作っちゃって、同じ質問してみよっかな。


 机の上に乗せた両腕の手の甲に顎を乗せて、


『ほんとにわたし……』


 目の前にスマホが無造作に置いてある。


 もうこんな時間だけど、ラインしてみよっかな。でも夜遊び歩夢だからな。つながるかな。


『つながるといいな……』


【歩夢、今何してる?】

【小人が聞き耳立てているスタンプ】



 既読さえなしか……


 私はそのまま机の上に置いてある両腕の中に顔をうずめた。




♪・♪・♪ To be continued ♪・♪・♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る