7#ジーンの死
川面に顔を出して息継ぎしようムーニは、鼻の中に深緑の空気を嗅いだ。
元いた山林の近くにたどり着いたのだ!
もうハンターは追って来ない。
でも用心して山林の奥へと移動した。 川面に顔を出して息継ぎしようムーニは、鼻の中に深緑の空気を嗅いだ。
元いた山林の近くにたどり着いたのだ!
もうハンターは追って来ない。でも用心して山林の奥へと移動した。
あの日、ムーニがジーンに出会った草原に着いた。ツキノワグマのムーニは背負っていたニホンシカのジーンをここでゆっくり降ろした。
「ジーン着いたよ!もう大丈夫だよ!・・・あれ?ジーンさん!ジーンさん!着いたよジーンさん!返事は?ジーンさん!返事してよ!着いたよジーンさあん!」
ニホンシカのジーンは息絶えていた。
体中に銃弾が刺さり無残な姿だったが、顔は笑顔だった。
ツキノワグマのムーニの目から大粒の涙が溢れ出た。
「ジーンさああああああん!!」
ムーニは自分の欲望の落ち度のために、自らの欲張りを反省し命を投げ出して犠牲になったジーンの体に顔を押し当てて大いに泣いた。
ジーンの死を看取ったのはムーニだけではなかった。
泣きじゃくるムーニの目の前に、あの日ジーンの体に結ばれ最後まで残っていた青い風船をジーンがあげなかったことに「けちんぼ!」と言い放ったニホンシカのベニイが立っていた。
「あの時・・・本当にごめんね・・・!」
ベニイの目には大粒の涙がこぼれ落ちていた。
ムーニはずっとジーンの亡骸にいた。三日三晩ずっといた。
ツキノワグマのムーニのお腹はすいたままだった。
ニホンシカのジーンの亡骸をじっと眺める。ジーンを食べ・・・何考えているんだ!命の恩人を何で!ムーニは頭を地面に叩きつけた。
またムーニは泣いた。結局ジーンと性格が同じの自分に。
・・・ムーニはジーンが愛おしい・・・
・・・あの時・・・
・・・ジーンの最後の青い風船が欲しくて欲しくてたまらなくなって夢中になってたばかりに、その風船を割ってしまった時に何で謝らなかったんだろう・・・
・・・プックが死んだせいをジーンさんにして・・・そのジーンさんを今度は僕が死なせてしまった・・・!
ムーニは思いついた。
ジーンの墓を立てることを。
それしか思いつかなかった。
ムーニーは早速ジーンを埋める穴を掘った。
泣きながら掘った。
脚の爪が土だらけになりながらも、だいぶ掘った。
ムーニはしばらくジーンの亡骸を眺めていた。
ジーンの立派な角を見ていた。
ムーニはジーンの風船を欲しがっていたので、逆に僕から風船をいっぱいあげようと思った。
が、ここにはゴム風船はないし、ムーニも持っていない。
なら、僕とジーンさんだけしか見えない風船をあげよう!とムーニは思った。
ツキノワグマのムーニは口でゴム風船を膨らませる真似をした。
いや、真似ではない。
ムーニとジーンしか見えないふたりだけのゴム風船に吐息を入れた。
ふぅ~~~~っ!
ふぅ~~~~っ!
ふぅ~~~~っ!
ふぅ~~~~っ!
ツキノワグマのムーニはパンパンにふたりだけの風船を膨らませ終わると、ニホンシカのジーンの亡骸の立派な角に結びつけた。
それからもムーニは“ふたりだけの”風船を泣きながら膨らませてはジーンの角に付け、みるみるうちに角はムーニの息の入った“ふたりだけの”風船でいっぱいになった。
「僕からの・・・君への・・・償いだよ・・・ジーンさん・・・」
ムーニは涙ながらにこう呟いて、そっとジーンの亡骸を穴に入れて埋めた。
埋まってゆくニホンシカのジーンを見て、ムーニは胸が詰まった。
ジーンの墓碑はこの草原そのものだ。
ジーンがムーニと出会ったこの草原自体だ。ムーニはしばらくこの場を動かずに途方に暮れて座りこんでいた。
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