5#ジーンとムーニ

 ニホンシカのジーンの脚に結びつけた沢山の風船も、日に日に枝等に触れて破裂したり、時間が経って萎んだりと段々少なくなっていった。


 ジーンに脚に付いてる風船は殆ど割れてたり、萎んだままでゴムが劣化した状態だったが、ジーンはこういう状態になった風船でも満足だった。何故なら、風船が体に飾られているのは間違いないしいつでも風船と一緒なんだから。


 でも唯一無事に残っているのは、右後脚に結んだ青い風船だった。


 ニホンシカのジーンの息がまだ一度も入っておらず、ヘリウムがまだまだ残ってしかもパンパンの状態だ。


 この青い風船の付いたシカのジーンを周りの仲間が見つけると、ひそひそ話をするようになった。


「けちんぼが歩いているよ~!」


「けちんぼがきた!」


シカ仲間だけなく、他の動物達に言われてもジーンは気にしなかった。


 ジーンが現実を飲み込んだのは、ある事件だった。


 「おっはよ~!」ジーンは他のシカ仲間に話しかけた。


 「あれ?みんなどうしちゃったの?」


 自分が“しかと”されることに気づかないジーンはまた「おっはよ~!」と話しかけた。


「うるさい!」シカ仲間の一頭のベニイが一喝した。


 「ベニイ、どうしちゃったのこんなしかめっ面して?」


 「お前何したか分かってるのか?」


 「え?」


 「え?じゃねーよ!みんなあの時風船が欲しかったんだよ!てめえだけで占領して!持ってるの分けろ!」


 「持ってるのって言ったって・・・」


 「いいから分けろ!」


 ベニイはすっかり生え変わり立派になった角をジーンに突き立てた。


 「あっ!」ベニイは右後脚に揺れているジーンの青い風船を見つけた。


 「あっ!風船持ってるじゃん!くれよ!」


 ベニイは鼻息も荒く歯をむき出しにして、ジーンの青い風船を噛み取ろうとした。


 「くれ!」「くれ!」「俺にもくれ!」


 他の仲間も興奮して鼻の穴をパンパンに膨らませてジーンに迫った。


 ジーンは恐怖を感じた。「くれ!」「くれ!」「くれ!」どこまでも追いかけるシカ仲間達。ジーンは夢中で山林を、河を、草原を、どこまでもシカ一団を振り払おうと死に物ぐるいで走りぬけた。


どこまで走ったか・・・


 シカ仲間はもう追いかけて来ない。みんなどうしたんだろう。

 ジーンは右脚の青い風船を見る。無事にフワフワ浮いてる。良かったと溜め息をついた。


 何故、シカ仲間が追いかけて来ないか分かった。ジーンの目の前に一頭のツキノワグマが立ちふさがっていた。


 「何か?」


 他のシカ仲間は身の危険を案じて、逃げてったのだ。


 硬直したジーンは「君・・・何か用?」と一応聞いてみた。


 そのツキノワグマはいきなり鋭い爪をジーンに振り下ろした。


 ヒャッ!としたジーンは間一髪クマの攻撃を逃れた。


 それでもツキノワグマの攻撃は止めなかった。振りかざすクマの爪の攻撃をジーンは必死に交わした。


 ジーンはよく見ると分かった。


 そのツキノワグマの目には涙で濡れていた。攻撃しながら


 「返せ!返せ!仲間を返せ!」


 と叫んでいた。


 突然、ツキノワグマの爪がジーンの後脚に結ばれた、まだ唯一無事に残っていた最後の一つの青い風船に触れてた。


  ジーンの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。


 「自分なんか・・・自分なんか・・・」


 何を思ったのか、シカのジーンはクマのムーニの前でうずくまった。


 「何してるの?」ムーニはジーンに聞いた。


 「いったい何のつもりだ!」


 「僕が・・・大事な友達を殺したんでしょ?・・・だから・・・貴方が・・・僕を食べて・・・償っ・・・」




 どがっ!!


 「ぐふっ!!」


 どさっ!




 その時、ジーンにムーニの頭突きが炸裂した。ジーンはもんどりうって転げた。


 「ふざけんなこの野郎!甘えてんなよてめえ!見損なうな!」


 「てめえ!ふざけんなこの野郎!!自惚れるのもいい加減にしろ!!」


 ムーニは怒りに震えながら肩で息をしていた。


 「もうお前のことなんか知らねえ!勝手にしろ!」


 ムーニはのっしのしとその場を立ち去った。


 ジーンはムーニの頭突きが効いたのか動けなかったが、ジーンの目には涙が止めどなく流れていた。



 パァーン!




 ツキノワグマは突然わあわあと大泣きした。


 「どうしたの?」


「お前のせいだ!お前のせいだ!」


 ツキノワグマはジーンを爪でがっしと抱きしめ、揺さぶった。


 「お前が僕の友達を殺した!」


 「何で自分が・・・自分は何もしてないよ」


 「とぼけるな!お前が僕の仲間を殺した!」


 ジーンは訳分からなくなった。


 「僕の名前はムーニと言うんだ!お前が風船が欲しいというのを断られたプックさんの友達だ!」


 ・・・そういえばこんなことがあったっけな・・・ジーンは何とか思い出そうとした。


 「プックさんは街なら風船をいっぱいあると思って、あれほど止めたのに、無視して人里に出て・・・人間の店でプックさんが風船を見とれてたら、地元のハンターに射殺されたんだよ・・・!


 いつもこの辺に飛んでる遊び者カラスのジョイってやつに言われた時には・・・ショックで・・・元はといえばお前があの時風船をあげてたらこんなことにならなかったのに~!!」


 ツキノワグマのムーニはまた激しく大泣きした。


 えっ・・・!そんな・・・何で・・・自分は何てことを・・・!ニホンシカのジーンは呆然とした。


 後悔と自己嫌悪と自分への怒りと悲しみがジーンの心に入り混じった。


 「自分は何て自己中なんだ・・・自分は何て酷いやつなんだ・・・自分なんか・・・!自分なんか・・・!」

 

  ジーンの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。


 「自分なんか・・・自分なんか・・・」


 何を思ったのか、シカのジーンはクマのムーニの前でうずくまった。


 「何してるの?」ムーニはジーンに聞いた。


 「いったい何のつもりだ!」


 「僕が・・・大事な友達を殺したんでしょ?・・・だから・・・貴方が・・・僕を食べて・・・償っ・・・」




 どがっ!!


 「ぐふっ!!」


 どさっ!




 その時、ジーンにムーニの頭突きが炸裂した。ジーンはもんどりうって転げた。


 「ふざけんなこの野郎!甘えてんなよてめえ!見損なうな!」


 「てめえ!ふざけんなこの野郎!!自惚れるのもいい加減にしろ!!」


 ムーニは怒りに震えながら肩で息をしていた。


 「もうお前のことなんか知らねえ!勝手にしろ!」


 ムーニはのっしのしとその場を立ち去った。


 ジーンはムーニの頭突きが効いたのか動けなかったが、ジーンの目には涙が止めどなく流れていた。

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