第31話 俺はロリコン(男前版)

「分かった、お前がそこまでするのなら、俺も腹を括るぜ!!」


「おぉっ!! ビクター!! やっとその気になってくれたか!!」


 ほうほうの体で巨人の右足から脱出したヨシヲ。

 そいれと同時に、電子の魔人たちがほうとその姿を消す。


 渾身の力が込められていたからか。それとも、電子の魔人により止められたことにより、力がたまっていたからか。すさまじい土煙が起こる中、ヨシヲはビクターへと駆け寄った。


 再び巨兵がハンマーを振り上げるその挙動のさ中に、ヨシヲはビクターの肩に手を置いた。真っすぐと、相棒の目を見て、彼は言う。


「お前がどんな事情を抱えていようと、俺はお前を受け止めてみせる」


「……ヨシヲ!!」


「過ごした時間は少ないが、俺たちはもうかけがえのない相棒だ!! そうだろう、ビクター!?」


「あぁ、だというのに、俺は――ちくしょう、少しでも言うのを戸惑った、俺を笑ってくれヨシヲ!!」


 事情があったのだろう、仕方がないさ、と、ヨシヲはビクターを許した。

 すると、どうしてか――なぜかむさくるしい無精ひげの男の瞳に涙が溢れた。


 結局、ビクターは求めていたのだ。

 自分の隣に立って一緒に戦ってくれる人間を。

 どんなことがあっても、自分と共にあってくれる戦友を。


 失ってしまった過去の相棒たち。彼らとの悲しい別れに引きずられて、どこか、人としても、戦士としても、他者と線引きをするようになってしまった。


 もう誰も信じることはできない。

 もう誰とも肩を並べて一緒に戦うことはできない。


 裏切られることが怖いから。

 裏切ってしまうことが怖いから。


 けれどもそんな彼の中に渦巻いている恐怖をこじ開けて、目の前の男はビクターに向かってその手を差し伸べていた。


 ヨシヲ。

 自分を異世界転生した英雄だと信じている男。

 雷限定だが魔法レベル8を極めし男。

 女王のパンツを被った罪で懸賞金をかけられている男。


 ろくでもない男だが。この男は信じている、己と自分を信じている。


 その手を握り返すことに――なんの迷いがあるだろうか。


「ヨシヲ!! 今から俺が言うことを、よく聞いてくれ!!」


「あぁ、分かったぜ相棒!!」


 すぅ、と、深く息を口から吸い込んだビクター。

 ついに彼は、その身に背負っている深すぎる業を――相棒に向かって告げる決意を固めた。


 掴まれた肩に応えるように、ヨシヲの肩へとその手を回す。 

 そして――。


「俺は――ロリコンだぁあああああああっ!!!!!!」


 朝焼けにけぶる戦場に響き渡る大声で、ビクターはその身に抱えていた秘密を暴露した。この際は、この秘密を知ったものを、ヨシヲを残してすべてこの場から生きて返さない、それくらいの心意気で。


 はたして、ヨシヲはどう反応するだろうか。

 そんな不安が少しだけではあるが、ビクターの頭の中をよぎった。


 しかし。


「――バカ野郎!!」


「なに!?」


「そんなくだらない理由なら、こんな勿体つけるんじゃない!! まったく――その程度のことで俺がお前のことをどうこう思うとでも、そう思ったのか!?」


 ビクターの肩を抑えるヨシヲの手は力強かった。


 ヨシヲはビクターのその性癖を――そして彼の全てを丸っとすべて受け止めた。

 器の大きさにビクターの身体が震えた。心が震えた。


 ビクターの中から久しく失われていた、冒険者としての大切な何か。それが、ようやくこの時、揺り起こされるたのを彼は感じていた。


 肩から手を放してヨシヲがビクターに背中を向ける。


 咆哮を天に向かって発する巨兵。

 手にしたハンマーを大きく振りかぶる凶悪なそれ。

 伝説に歌われる怪物のような、そんな巨兵に向かって、ヨシヲは再び手をかざす。


「ビクター。残念ながら、お前のその告白の中に、奴を倒す手掛かりはなかった」


「……だろう。だから別に言う必要はないと思っていたんだ」


「だが、お前のその姿の中に、奴を倒すヒントを俺は見つけたよ」


「なんだって!?」


 どういうことだヨシヲ、と、突っかかろうとしてビクター。

 そんな彼は、ふと、股間が妙に早く、ヨシヲに接触したことに気が付いた。


 なんだこれは。

 どうしてこんなことになっているんだ。

 なぜ俺は、こんな戦場のただ中にあって不格好にも――勃起なんてしているんだ。


「【電マ】が通じない訳だ。なぜなら、コイツはその意味をまだ知らない」


「……まさか、ヨシヲ!? つまり、それは!!」


「お前のフル勃起が教えてくれたよ、あのフルプレートの鎧の中に隠された巨体が、いったいなんであるのかを――そして、その攻略法も!!」


 バチリ、バチリとヨシヲの身体を青い稲光が包み込む。

 はじけ飛ぶようにして、青い光が彼の周りを飛び交った。


 まさしくその二つ名――ブルー・ディスティニーと呼ぶのがふさわしいその姿。

 ビクターが、その姿に息を呑み込んだ。


 ギロチンの刃が滑るように、落下してくる巨兵のハンマー。それを、【雷と風の牙俺に構わず早くいけ】で防ぐと、ヨシヲは敵に肉薄する。

 その樹の幹のような野太い脚に手を添えて――彼はようやく見つけた攻略法を、敵に向かって繰り出した。


「――身体の芯を貫く疼きを知らぬ者でも、身体全体を包み込む疼きには耐えられまい!! 喰らえ、これが俺の【静電気地獄もっとビリビリ作戦】だ!!」


 ヨシヲの身体に蓄積されていた、青い稲光が一斉に巨兵の鎧へと飛び移る。

 バチリバチリと音を立てて、その体全体を青い光が走っていく。


 局所に電力を集中させ、高速振動および麻痺させる【電マ】と違い、【静電気地獄もっとビリビリ作戦】は、身体全体に微弱な電気を帯びさせるものだ。

 動くたびに、ばちりばちりとこそばゆい痛みが走る――。


 そうそれは、真冬に羊毛百パーセントのセーターを脱ぐがごとし。


「グルォオオォオオォオ!!!!」


 はじめて、ヨシヲの攻撃に巨兵が悶絶した。

 かと思った途端に、彼はハンマーから手を離すと、じたばたとその場でもんどりを打ち始めた。


 それに巻き込まれないようにと、身を引いてビクターの元へと戻ったヨシヲ。


 いったい何が起こっているんだ、と、不思議そうにその光景を眺めるビクター。

 そんな彼に、ヨシヲは巨兵の身に起こっていることを簡単に説明した。


「今奴は、身体に流された静電気によって、もんどりをうっているんだ。鎧に、最大出力で電荷を帯びさせた。鎧を脱がない限りには、その苦しみから逃れることはできないだろう」


「――なんちゅう技だ。しかし、電マは効かないのに、いったいどうして。いや、そうか!!」


「大人だろうが、子供だろうが――静電気というのは嫌いだろう」


 雄叫びを上げて、兜を脱ぎ捨てる巨兵。

 そこから現れたのは青い髪をしたあどけない顔の少女――。


 巨人の少女であった。


「いぁあぁあぁ!! びぃびぃ!! いぁあぁあぁ!!」


 どこか単調な攻撃。

 戦闘慣れしていない隙の多い動き。

 そして、愚図るような咆哮。


 暗黒大陸からやってきた傭兵の正体。

 それは、巨人族の幼い少女――ということであった。


 無意識にビクターが勃起していたのは、その炉気――ロリの気配――を感じてのこと。筋金入りの業深き者である彼にとって、自然と股間がそうなってしまうのは、もはや無理からぬことであった。

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