第17話 集え!! 義勇軍!!

「ふむ。ブルー・ディスティニー・ヨシヲ。その実力、まさしく本物だと、このホランドは信じることにしよう」


「ふっ、まぁ、当然だな」


 再びフルプレートメイルに身を包み、部屋の中央の椅子に座ったホランド。

 股間をのっぴきらない状況にさせながらも、彼はそうヨシヲに告げた。


 次いで、その視線は彼の雇い主である、セリスへと向けられる。


「バーザンの娘セリスよ。貴殿の従者であるヨシヲの力を信頼し、貴殿らの軍への参加を認めよう」


「本当ですか!?」


「ありがたい!!」


 ビクターまでもが、ホランドの言葉に歓喜した。

 絶対に役に立たないとばかりに思っていたヨシヲだったが。こんなところで思わぬ活躍を見せてくれるとは――流石に、セリスもブルーパンツさんと呼ぶのを改めた方がいいかもしれないと、ちょっと思ったようだった。


 しかし、話はそう簡単に終わるものではない。


「だが、参陣は認めても、こちらの兵を貸すことはできない」


「えぇっ!?」


「どうしてですか!?」


「……ロメールは、兵を任せたいと言ったが、やはりよそ者に素直に兵が従うとは思えんのだ。これは別に何も、意地悪で言っている訳ではない。軍を預かる者として、当然の心配をして言うておるのだ」


 先に言った、に、のではないかという、そういう心配からの発言であった。


 では、いったいどうすればいいというのか。

 もちろんそこには考えがある、と、ホランドが切り出した。


「お主たちには是非にも、義勇軍を率いて貰いたいのだ」


「義勇軍?」


「そう。ここ、ガランの街が攻められると聞いて、周辺の村落から若者たちが集まってきている。彼らをまとめ上げて、上手く遊撃兵として立ちまわってくれまいか?」


 なるほど、それは面白そうだ、と、真っ先に呟いたのはヨシヲだ。

 革命軍レジスタンスを率いていた彼にしてみれば、義勇軍も似たようなもの。むしろ、望むところという部分があるのかもしれない。


 同じく、肯定的な反応を示したのはビクターもだ。

 彼もその方が、セリスが率いる部隊としては適当ではないかと考えた。

 徴兵されたこの街の兵士たちは、一方で、軍人としての気概を持っている。そんな彼らを乙女が指揮する姿というのを、彼には想像することができない。


 一方で、義憤から立ち上がった兵たちの中心に、遠くカサルよりやってきた太守の娘が囲まれて、一緒に戦っているという光景は、彼の瞼に鮮やかに想像できた。


 これならばいける、そう確信して、ビクターはセリスの肩を叩いた。


「受けておけセリス。悪い話ではないはずだ」


「ですが、私にできるでしょうか。そのような烏合の衆のまとめ役など」


「烏合の衆だからこそ、お前みたいな象徴を欲してるんじゃねえか。義勇軍の御旗となって戦うのが、お前には似合っているよ」


「ふっ、そういうことだな。俺も正規兵を率いるなんてまっぴらだ」


「ブルーパンツ……いえ、ヨシヲさん」


「ブルー・ディスティニー・ヨシヲ、だ」


 頼りになる助っ人たちに、こうも後押しされてしまっては、セリスも腹を括るしかない。分かりました、と、ホランドに返事をすると、彼女は胸に手を当てた。


「このセリス、義勇軍の指揮官の任を請け負いましょう」


 うむ、と、ホランドは赤毛の乙女の宣誓を承認した。


 股間をフル勃起させたままの状態で。


◇ ◇ ◇ ◇


 さて、話がまとまれば行動は早い。

 さっそくロメールの案内で、ヨシヲたちは義勇軍が集められている、街の一角の野営地へとやって来た。


 流石に義勇軍というだけあって、集められた兵たちの種族は多種多様だ。

 普通の人間ヒューマンから始まって、コボルト、ドワーフ、エルフ、インテリジェンスオーク、そして、有翼人まで一緒くたにされている。


「うむ。引き受けたはいいが、こうも多種多様な種族で構成されていては。これを一つの規律の取れた軍として運用するのは、いささか難しいかもしれないな」


「そんなことはねえさ。単純な訓練と、戦の仕掛けどころさえ間違えなければ、十分に戦えるはずだぜ」


 不安げな言葉を呟いたヨシヲに対して、自信満々に答えたのはビクターだ。


 流石は今コウメイの直弟子である。

 部隊の運用に関しては、相当な自信がある様子だ。


 頼もしいと思っていいのだろうか、なんてことをヨシヲが考えていると、それでこそとロメールがビクターの肩を叩いた。


「実のところ、彼らを持て余していたのが実情なのです。私も、一応王府から率いて来た親衛隊を率いている身ですから、彼らの面倒を誰か見てくれないかと、ずっと思い悩んでいたのですよ」


「そうだったのか、ロメール兄……」


「しかし、師の最後の弟子にして最も寵愛を受けたビクター。貴方ならば、きっと上手く彼らをまとめあげることができるはずです」


 任せましたよ、と、ビクターの肩を叩くロメール。

 ふと、その表情が苦々しく歪んだように、ヨシヲには見えた。


 酒場で聞いた彼の過去を思い出す。


 かつて、彼は大切な仲間を、規律の乱れによって無残にも失ってしまった。

 自信満々にヨシヲに出来ると言ってみたビクターだが、内心では、自分の統率能力に対して、自信を持てないでいるのではないだろうか。


「あぁ、任せてくれ、ロメール兄」


 少し間をおいて、答えたビクター。

 その間の意味を深く考えず、ロメールは笑顔で彼の肩から手を放した。


 と、入れ替わりに、ヨシヲがその肩に肘を置く。


「まぁ、任せておけ。この俺が付いているのならば、この戦、どのみち勝ったも同然というものだ!! ふははっ!!」


「……ヨシヲ、おめえなぁ!!」


 彼なりのそれはビクターへの気遣いであった。

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