第16話 エレクトリックパレード

「……だ、誰なんだ、いったい」


 ホランドはまんまとヨシヲの挑発に引っかかった。

 雷撃魔法を拳に走らせる演出が効いたのだろう。人を率いる能力については、まだまだ未熟さの残るヨシヲだが、こと、こういう人を惹きつける術については、妙にこなれているところがある。


 でなければ、ホモホモセブンの首魁など――裏切られこそすれ――務めることなどできなかったであろう。


 それまで、ブルーパンツだのなんだのとさんざヨシヲのことをバカにしてきたセリス。しかし、突然彼がとったこの行動に、ふっと彼女の胸は高鳴った。

 彼女もまた、ホランドと同じく、ヨシヲのカリスマに引っかかったのだ。


「俺の名は、ブルー・ディスティニー・ヨシヲ。この世界を救い、百人の美女をはべらせて、この世にチーレムを築く宿命を背負った青き英雄」


 しかし、そのカリスマは、一瞬にしてブレイクされた。

 出て来た言葉が残念過ぎる。


 そりゃないだろう、と、ビクターまでが頭を抱える始末であった。


「な、何を言っているんだ、お前は?」


「つまりだ、俺は今現在最新の、この世界における大英雄だと言っているのさ。この俺が付いているのなら、ガランの街は百人――いや千人力というもの」


「馬鹿を言え、何が大英雄だばかばかしい」


 いえ、待ってください、と、声を発したのはアルケインだ。

 その感情の籠っていない目を向けて、彼はヨシヲをじっと見ている。


 そして、初めてその顔の真ん中――眉間に皺が寄った。


「大英雄との名乗り、あながち間違いではないかもしれません」


「なに?」


「この者、相当の魔法使いと見ました。おそらく、雷魔法のみに限定すれば、当代随一の使い手かと。一騎当千という言葉を体現しうる実力を秘めています」


 無表情かつ無抑揚の声色で、そんな冗談みたいなことを言うアルケイン。


 どうやら彼も、ヨシヲと同じく魔法を使うタイプの人間らしい。

 それ故に、彼の底知れない力――雷魔法限定技能レベル8という実力に気が付いたらしかった。


 よほど、アルケインのことを信頼しているのだろう。

 むむむと、ホランドはその言葉に動揺してみせた。


 対してヨシヲはいつもの調子。ふっ、と、ニヒルな笑顔を見せると、分かっているではないかとアルケインに視線を向けた。


「そいつの言う通りだ。俺は、雷魔法に限ってだが、魔法技能レベル8の使い手」


「魔法技能レベル8だと!? そんな馬鹿な、あり得ん!!」


「だからこその英雄ではないか。なんであれば、ここでその力の一端を疲労してやってもいいんだが」


 またビリリと、ヨシヲの手から青い稲光が走る。

 これまた彼の挑発だが――同じことが二回も通じる相手ではない。


「面白い、やって見るがいい!!」


 ホランド将軍は命知らずにも、ヨシヲのその挑発に乗ったのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


「あー、そこそこ、気持ちいい!! あぁー、なんだ。ここ最近鎧ばっかり着てたから、肩こって仕方がなかったんじゃよなぁ!!」


「ふふっ、どうだ、俺の【電マ】は――最高だろう?」


「最高じゃぁっ!! まるでこう、全身から疲れが染み出て行くようだわ!! わははっ!! お主、ワシの専属マッサージ師にならんか!!」


「ふふっ、それだけで終わる男じゃないってのは、もう分かっているだろう」


「そうだのう、これだけ絶妙な塩梅で、雷魔法を使うのじゃ――アルケインの言う通り、やはりお主は当代随一の雷魔法の使い手」


「ふっ、いいんだぞ、もっと褒めても」


 なんだこれ、と、ビクター、ロメール、そしてセリスが、白い眼をしてその光景を見ていた。


 白いマットの上に横になって、背中を向けたホランド将軍。

 その背中に、ヨシオは絶妙の塩梅で、得意の魔法【電マ】をかけていく。


 元来【電マ】は、体を癒すための治癒魔法の代替品である。

 ヨシヲのように出力自在であれば、まぁ、攻撃に使うこともできるが、本来の用途はこちらが正解である。


 お客さん、凝ってますねとばかりに、ヨシヲはホランドの体を解していった。


「いやー、効くのう効くのう、これは、ええのう。ぬはは」


「どうだ、これで俺をお前たちの軍に置いておきたい、そういう気分になって来たんじゃないのか」


「そうじゃのう。だがのう。なんというか、もうちょっと、刺激が欲しいのう」


 刺激、と、ヨシヲが顔をしかめる。

 するとホランド将軍、年甲斐もなく顔を赤らめて、実はのうと切り出した。


「最近のう、いつまでも独身というのもどうなんじゃということになって、若い嫁さんを貰ったんじゃ。だがのう、ほれ、ワシも、もうこの通りの歳ではないか?」


「ふむ、まぁ、肉体的には老人の域に入っているな」


「……やはりのう、なんというか、夜の営みをするにも元気が足りなくてのう。若いだけに嫁がちょっと欲求不満じゃないかと、気にしておるんじゃ」


 なるほど、と、ヨシオは言わんとせんことを理解した。

 そして、それならばと、彼は寝そべるホランド将軍の尻のあたりに、そっとその手をかざしたのだった。


 何をするのか。

 どエルフさんと、この小説をここまで読んでこられた方ならおわかりだろう。


 ヨシヲの【電マ】の正しい使い方である。


「【電マ】最大出力!!」


「ほっ、ほわあぁあああああ!!!!」


「肛門の奥にあるという前立腺に、今、全力で【電マ】をかけている!! これは正直効くぞ!! えぐいくらいに効くぞ!!」


「おぉ、エレクト……エレクトリックパレードじゃぁあああっ!!」


 ほっほーい、という嬌声響く。

 それと共にホランド将軍の体がすこしだけ宙に浮いた。


 ホランド将軍、御年、62歳。

 久しぶりのフルエレクチオンであった。


「たっ、立った!! ワシのが立った!! こんなに立派に立ったのはひさしぶりじゃぁっ!!」


 どうでもいい。


 心底どうでもいい。


 そんな感じで、ビクター、ロメール、セリスは、その光景を眺めていた。

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