その六 管三の場合

 かさかさと落ち葉が舞っている。秋も終わり、もう冬である。毎日の仕事に追われ、気づけばもう今年も暮れていこうとしている。年をとると一年があっという間に終わってしまう感覚になる。


 私はこの源ちゃんズでは最年長になる。殿とは乳兄弟である。殿が御幼少の頃は遊び相手としてお仕えし、今は従者として殿を見守っている。楽器としてはトロンボーンと尺八の担当だ。


 他の皆も言っているが殿は本当に魅力的な人だと思う。恋心が多すぎてときどき女君プリンセスからのしっぺ返しに遭われることもあるが、どこか憎めないというか不思議な魅力の持ち主でいらっしゃる。

 例えば珍しいお菓子を取り寄せてもオクサマに見向きもされなかったり、

 例えば難攻不落の美女を落としたつもりが『寝た子を起こした』恋だったり、

 例えば口説きまくった女君プリンセスからは無言の和歌の抗議クレームを受けたり、

 まあ恋に生きるオトコにはそれなりに試練もあるようではある。しかしながらあの美貌見た目である。あのカンペキな容姿で、壁にドンされアゴをクイされ見つめられ、しびれるテナーボイスでとろけるコロシ文句なぞ囁かれれば女性陣は異口同音にこうおっしゃるのである。


「ステキ♡やっぱり光る君が好きだわ」

 恋の天才である。恋の名人殿堂入りである。


 私としても、従者のくせに失礼だが弟のようにも思っているので「このくらいでもう新しい恋には走らなくても……」と言いたいのもやまやまなのだ。だが、あの「死ぬほどキミに恋してる」と言ってのけるや恋している殿の美しさを目の当たりにすると結局は進言などできないまま時は流れ、現在に至っているのである。


「いつでもさ、ときめいていたいじゃん?」

 恋の申し子である。恋のときめき選手権優勝である。


 私は普段明子さまの担当であるが、数年前から担当が増えた。通称ロミジュリスキャンダルで都を離れることになり、謹慎に行ったハズの明石でもタダでは転ばない殿は明子さまに当然『死ぬほど』恋をした。その後明子さまは殿のお子さまをお産みになられた。姫子さまとおっしゃり、明子さまとご一緒に京にいらした。この姫子さまも私がお世話させていただいている。

 というのも実は私の妻はほたてと言って明子さまにお仕えしているSKJ三人官女である。そして彼女とのあいだに子供がいる。ぱんだ、うさぎ、こあらという三つ子の女の子なのだ。姫子さまと同じような年頃ということで子供たちは今姫子さまの遊び相手をさせていただいている。


 今回のパーティーでは私は姫子さまの贈り物を受け持つ。ここはまず娘たちにリサーチするところから始めることにする。

「殿が姫子さまに贈り物をするんだけれど、何がいい?」

「やっぱりお人形じゃない?」

「ベタすぎない?」

「お人形のお家がいいんじゃない?」

「それって自分が欲しいんじゃないの?」

「じゃあさ、かるたとかすごろくとか」

「それだってこあらちゃんが欲しいんでしょ?」

「お菓子は?」

「リボンとか髪飾りとか」

「お洋服!」

「可愛いお手紙セットとか?」


「わたしはね、絵本がいいな」

「あっ! 絵を描くお道具がいい」

「じゃあ私は楽器がいいな。明子さまみたいなステキな演奏家になりたいわ」

「うわあ、どんな楽器にする?」


「もうすでに自分のことになってるな……」

 三つ子たちの関心はすでに自分達の欲しいモノになっている。女の子が三人集まればこんなものかもしれない。多少騒々しいが賑やかなのはいいことだ。


「おもちゃの鋼琴ピアノは?」

 三つ子の母、つまり奥さんのほたてがそう提案してきてくれた。

「おおっ! それいいな!!」

 さすがは母親。あのとりとめのない話からしっかりヒントを拾ってくるとは。

「明子さまには竪琴ハープを贈るからな。ちょうどいいな」

「殿もお喜びになるわね。ご家族で演奏会もできそうね」

「ありがとう。ほたては頼りになるな」

 しみじみそう思う。三つ子を育てながら明子さまからの信頼も厚い。自慢の奥さんだ。


「ねえねえ、あたしふえが欲しい!」

「パパみたいにカッコよく吹きたいの」

「一緒にぷーぷーしたいの」


 そうだな、ほたてや子供達に俺もなにか贈り物をしよう。殿が言うには「大切な人に贈り物を贈るイベント」にするらしい。それなら私だって何かしら贈ってみようと思う。


「お部屋を飾らない?」

「あ、やるやる!」

「綺麗な色の紙をこうやって輪にして……」

「楽しいね――」

 母親も含め4人で楽しそうに話をしている家族を私は目を細めながら見守る。


「いろいろありがとう。参考になった」

「パパもう行っちゃうの?」

「ごめんな。このイベントが終わったら会いにくるね」

「プレゼントね!」

「オッケー」


 御簾の際までほたてが見送ってくれる。

「ありがとう。今度は贈り物の配達の日かな」

「明子さまも姫子さまも楽しみにしていらっしゃるわ」

「殿も

「わたしたちも楽しみにしてるわね」

 御簾を巻き上げたときに遠くから聞こえる幸せな三重唱。


「「「ばいば――い」」」


 師走らしい木枯らしが吹き抜ける都大路を二条院に戻る。心が温まっているからか、さほど寒さは気にならない。さあ帰ったらあの楽器の練習だ。温まるといえばあの楽器の音色がそうだ。透き通るような鐘の音でメロディになると、なんとも温かい音色になる。あの演奏、明子さまや姫子さまの前でも披露するだろうからほたてや三つ子たちにも聴かせてやれるだろう。あの音楽も贈り物だが、恐らく三つ子たちは「それもいいけど、なんかモノも欲しい!」と言ってくるだろう。

 子供達のリアクションを想像しながらひとり頬を緩ませながら二条院へと私は帰る。


 飾りつけか。二条院の庭にあるあの高木も飾りをつけたらどうだろう。鈴もつけたら音も鳴っていいのではないか。そういえば花子さまへの殿の贈り物、あれを追加注文してこっちにもセッティングすればフィナーレのいい演出になるんじゃないか。


「みんなの心にのこる日に」


 殿のお気持ちにも応えられる。

 みんなの笑顔が見られる日に。

 みんなが幸せを感じられる日に。



 さあジングルベルを鳴らそうか



☆今回のBGM♬

もみの木

ひいらぎかざろう

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