目が眩んだような赤だった。

「それはいつだって俺の頭の中を彩る危険信号。

血のようなそれは飛沫するたびに口から漏れていく。

吐き出した言葉は歪んで貴方を刺すナイフとなるだろう。

そんな俺を受け止めてくれる優しい青は貴方だけだった。」



「ゆ、う、き、先輩。」


夕日が差し込み、部室の中を赤く染めあげる。

その中に俺と、部活の後輩、鳴海愛瀬が二人。


鳴海は俺に近寄ればするりと腰に手を回し、抱き寄せてくる。

そして俺の胸に顔を埋める。


「鳴海、何度も言うが俺は、」

「わかってますよ、彼女さんがいるんでしょう。」

「ならさっさと離れてくれ。」


そういうと鳴海は顔を上げ、にっこりと笑う。

汚い笑顔。醜いだけの、笑顔。


「ねぇ、先輩、私じゃダメですか?」


ダメだ。彼女じゃなきゃ。青菜じゃなきゃ。

青菜は、計りきれないようなぐちゃぐちゃになった心を抱え込んで、そして薄い笑顔を貼付ける。薄く微笑む。

そんな笑顔が愛しくて、俺は彼女のすべてが欲しくて。

俺はいつだって一途だった。


「ねぇ、先輩。彼女さんはほんとに貴方のことがすきですか?」


「貴方はほんとうに愛されていますか?」


「貴方の歪んだ愛を受け入れてくれる人なんていませんよ。」


「だって、貴方の愛は形を変えますから。」


「彼女さんも、きっとさされてしんじゃいます。」


「そんな先輩の愛を受け入れられるのは私だけですよ。」


「ねぇ、先輩。貴方は愛されてないんです。」


醜く口元を歪め、俺の耳元で甘ったるい声で囁く。

いつものだ。

いつも、この女は負の連鎖を俺の耳元で囁いてくる。

歪んでいるのはお前だろう。俺は自分の愛のままに、まっすぐに生きている。


「貴方は愛されない。愛してほしくても愛されないの。」


「だからこそ、貴方はここにある愛を受け入れるべきなんです。」


「ねぇ、先輩。私調べました。彼女さんのこと。」


はっと息を呑んだ。

ウィン、ウィン、ウー、ウー。

赤い信号が激しく明滅し、サイレンが脳内で鳴り響く。

ぐるぐると思考回路を巡らせる。


「彼女、渡瀬青菜さんですよね。二年二組、部活動には入ってなくて、それで…。」


そこで鳴海を押し倒す。


「先輩。」


嬉しそうな、欲を乗せた声色で鳴海は頬を染めながら笑う。


「先輩、わかってくれたんですね、先輩。先輩。」


嬉しそうに目を細める鳴海の、染まった頬を叩く。

一回、二回、三回、四回。

バチンバチンと部室に音が響き渡る。


「あはっ…貴方の感情の穿け口に私がなれば、こぼれ落ちた愛を私が拾ってあげれるんです。好きです先輩。すきです。すき、すき、すき。あはっ。」


笑い声と、痛々しい音が延々と響きつづける。

段々と静まるサイレンを感じれば手を止め、鳴海の声を聞くことなく鞄を持ち、部室を飛び出した。


「…あ、悠紀。遅かったね。なにしてた、の…」


俺を待っていてくれた青菜。

鞄を投げ捨てれば、彼女にキスをした。

深く、深く、深く、甘いキスを。

愛をこぼすなんてしない、させない。あの女には一滴もやらない。

だから、青菜に、全部飲み込んでもらうんだ。

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