第14話 スリーアウト

 ダイナーで食事を終えた俺達。ジャレットは疲れた様にフラフラとしていて、愚痴をこぼした


「ふう…食事をするだけでこんなに疲れるとは思わなかったわ」


 そんな彼女をいたわる様にジャスパーが話しかけた


「もともと疲れてたのもあったんじゃないか? 俺から見てもデンジャラスな状況だったみたいだし」


「そうかも・・・はぁ、はやく部屋で眠りたい」


 そんな彼女の一言に反応しジャスパーはニヤついた態度で言った


「おお、じゃあアパートに入居って事でいいかな?」


「はぁ、いいわよ。どの道この町を離れる気は無かったし」


 俺は力なく言う彼女のセリフの意味を聞いたが、彼女は曖昧に答えるだけだった


「この町でやりたい事でもあったのか?」


「そう、だから会社が悪さしようとしてる気配がした時に自分で志願したのよ。理由はその内話すわ・・・その内ね」


 ジャスパーが何か思い立ったようにジャレットに質問しだした


「ところで武器は何か使えるか? 護身用にこっちで適当なのを用意するぞ」


「武器ぃ?銃とか? 生憎撃った事もないわ。覚えなきゃとは思ってたんだけど時間が無くてね、はやく商品になる様な薬を開発しなきゃならなかったし・・・。護身用に小さな拳銃を渡されたけど、捕まった時に取り上げられちゃったし」


「って事はまさかナイフも?」


「包丁ぐらいしか持った事無いわ」


「マジか、まずいな…。この町に来るくらいだし、多少荒事に対する心得はあると思ってたが」


 ジャスパーは少し動揺している様だったし。俺も彼女の言葉には驚き、ジャスパーと相談した


「ダイナーから上へのアパートに直接行ける通路は無い、このままだと彼女がダイナーに来る為に外に出ただけで死にかねないぞ。ダメもとで銃を渡すか?」


「いや、素人が銃持っても動揺して撃てないか暴発させるだけだし返って危険だ、銃声を聞いてもここの人間は気にしないだろうから防犯ブザーにもならん。ええと・・・そうだ、お前にはこれをやろう」


「カチンッ」


 そう言ってジャスパーはポケットから折りたたみフォールディングナイフを取り出して彼女に使い方を実演しながら説明を始めた


「このブレードに空いた穴に親指をおいてこうやれば片手で開く事ワンハンドオープンができる。ナイフを閉じるにはグリップの背中にあるこのボタンみたいな場所を押してやればロックが外れて閉じれる、慣れると片手で閉じられるが初めは両手を使え。ブレードの背中の突起をポケットの端とかや衣服に引っかけてブレードを開く事も出来るぞ。やってみな」


「うわ、凶悪なデザインね」


「これでも実用性のある物だ。チンピラが使う見た目だけの刃の付いた玩具じゃないから安心しな。使うときは見せびらかさず、攻撃は不意打ちを意識し一瞬で、後は全力で逃げろ」


 そう言ってジャスパーはそのS字のブレードに刻まれた波刃セレーションのナイフをジャレットに渡した。彼女はぎこちなくもナイフを開いたり閉じたりして操作の練習を始めて見せた


「カチン、カチ、カチン、カチ」


「横にクリップが付いてるからその気になればいろんな場所に隠せそうね。でもこの刃じゃ刺せないんじゃない?」


 ジャレットの質問にジャスパーは俺を指さして答えた


「ちょうど今、良い見本が居るから聞くが。ビリーみたいな体格のヤツに襲われたとして、ポケットナイフで刺したくらいで仕留められると思うか?」


「無理ね。じゃあどうすればいいの?」


 ジャレットは即答して真剣な顔になった。そんな俺が怖いか?と一瞬思ったが俺が今日相手にしたアイザックの事を思い出し考えは変わった。彼女が彼に捕まっていた事を考えれば俺や彼の様な体格の男に襲われた時の対策はぜひ知りたい事だろう。ジャスパーは更に説明を続けた


「腱や筋肉を切るんだ、どんなに体を鍛えてようが薬で痛みを感じなくなっていようが生理学的に動けなくしてしまえばいい。狙うのは筋肉と骨が繋がる関節周辺、腱や動脈を狙うなら腕の内側や膝の裏、アキレス腱は神話になってるぐらい有名だな。詳しくは暇なときにレクチャーしてやる」


「わかったわ。首を切っちゃダメなの?」


「映画とかじゃ首を切られて直ぐ死ぬシーンがあるがそれは忘れろ、あんなに上手くいかない。たいていの場合は首を斬り付けられた奴は死に物狂いで暴れまくる。そ何故かって言うとだな・・・」


 なにやら二人のトークは白熱してるが・・・べつに俺を見ながら話さなくてもいいだろ。しかも切りたい場所を指でなぞる様に向けてくるし。文句言ってやる


「おい!俺はホワイトボードじゃないぞ!」


「ハハ、悪い悪い。肉付きがいいから教えやすくてな」


 ジャスパーがニタついて平謝りしてきたジャレットももらったナイフをポケットにしまいながら続いて謝ってきた


「ごめんなさい、今は身を守る手段が喉から手が出るほど欲しいと思ってたからつい。・・・でもこの辺りはそんなに危険なの?」


 ジャレットの疑問に答えた


「この辺りと言うよりこの町全体がな、基本的に安全な場所は無いと思えたとえ自分の部屋でも襲われた時の事を考えて行動しろ」


 俺に続いてジャスパーも口を開く


「それがこの町のルールでありマナーさ。それにちょーど見本が釣れたぞ、ほら」


 ジャスパー外を指差したので、その場所を見るとチンピラがジャスパーの車を漁ろうとしていた。俺はジャスパーの思惑を察して頭を掻きながら彼に一応聞いた


「これを見せる為にわざと車をあんなところに止めたのか?」


「危ない危ないとグダグダ話すより現物見せる方が分かりやすいだろ。相手は見たところ三人だ。ビリー、今お前は怪我してるが俺は全弾当てる事に賭けるぜ。自信のほどは?」


 ジャスパーはそう言ってニヤつきながら指で紙幣を挟み、背もたれに膝を置いて手を高く上げた。何時ものゲームか、乗ってやる


「ウェンディ!外の駄犬におごりだ!ジョッキ三つ頼む!」


「かしこまりましたぁ~♪ 直ぐにご用意しま~す♡」


 俺の注文を聞くと店の中の連中がいっせいにジャスパーの様に手を上げた


「当たりにかける!」

      「怪我してるのか?俺は外れに」

  「俺は当たりだ!頼むぜビリー!」


 当たりに賭けたヤツは右手を上げ、外れに賭けたヤツは左手を上げる。そして俺が一発でも外せば外れの勝ち、全弾当てれば当たりの勝ちとなる何時もの賭けだ。外に出た俺はウェンディの到着を待った


「何だこのオヤジ?」

      「なんだ、お前の車か?」

 「文句あるのかコラ!失せな!」


 車上荒らしが因縁をつけて来た頃、ウエイトレスが注文を持って来た


「おまたせしました♪ さあどうぞ♪」


 俺はトレーに乗った三つのジョッキの中の一つを手に取って、ビールを一気に飲み


「ゴクゴクゴク・・・」


 いきなり酒を飲み始めた俺を見て、車上荒らしがポカンとしているが


 「何だコイツ?」

      「マジでただの酔っら・・・・」


 俺はジョッキのビールを飲み干し、そのジョッキを車上荒らしの1人に頭に投げつけた


「ブゥン!」

     「ガッ!」


 鈍い音をたてて車上荒らしの1人が倒れ、ダイナーの中から歓声が上がる


「「ワンストライク!」」

 

 俺は新たなジョッキを手に取り飲み始めて次の準備をする


「ふざけやがって!」


 ビールを飲み切る前に車上荒らしがバールを持って走って来て俺を攻撃してきた


「ゴクゴブ、ゴク」


 その攻撃を俺は飲みながら躱して、飲み切るとソイツの頭にジョッキを叩きつけた


「バリン!」


 ビールジョッキが頭蓋骨と共に割れて、ダイナーの中から歓声と罵声がとんだ


「「ツーストライク!」」

     「なんでわざわざ近づくんだバカヤロー!」


 そして俺は最後のジョッキに手を伸ばして飲み始めたんだが、最後の1人は怯えて武器を手放して走って逃げてしまった


「ゴクゴク・・・」


 もちろん逃がすつもりは無いので、出来るだけ早めに飲んで


「ゴクゴクゴクッ」


 ジョッキを投げた


「ブオン!」

   「・・・・・・・ァン」

 

 放射線状に飛ぶビールジョッキは見事チンピラの頭に命中した、ダイナーが大騒ぎになり歓声と罵声が混じり合う奇声が響いた


「「スリーストライク!!!」」

        

    「やった!当てたぞ!」 


   「なんで、あの小僧はバール捨てやがるんだ!打ち返せよバカヤロウ!」


 ウエイトレス達はそんな彼らの所まで行き、お金を集めに行った


「はいは~い、清算しますからそのままの姿勢でいてくださいね♪」

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