第13話 で、けっきょく注文は?

 俺 ”ビリー・アボット” は、ジャスパー、ジャレットと共にダイナーに行き、俺は一足早く食事を楽しんでいた。


「おまたせしました~、フレンチフライとバッファローシュチュー、白ワインで~す♪」


 俺の炭水化物とジャスパーの料理が届いたのだが、ジャレットはまだメニューを見て悩んでいた


「へぇ、メニューの最後のページに食材の生産者について書かれているのね。地元の食材使ってるの? こんな場所で??」


 やっとページの最後までメニューを読み終えたらしい、メニューが多い上に変わった物ばかりだから仕方ないか。前に連れて来た奴は20分も悩んでたしこれでも早い方かも? そんな彼女にジャスパーが話しかけて説明しだす


「ここの様な犯罪天国みたいな場所でもやってるところはやってるもんで、ここのダイナーはこの辺りのそれなりに信頼できる農家から食材を仕入れてんのさ」


「それなりねぇ・・・」


「不安なら生産者のプロフィールを読んでみろよ。嫌なら避ける様に注文すればいい」


「ふむ、もっと悩みそうね・・・どれどれ?」


 ジャレットはメニューに顔を近づけてプロフィールを読み始めた。初めに載ってるのは俺が今食ってる牛肉や野菜なんかを育ててる農場だったな。内容はたしか・・・




” さんさんと輝く太陽の下で無農薬で育てた栄養満点のマリファナを食べ、ストレスフリーで育った牛の上質な肉をお楽しみください。


 もちろん野菜も無農薬!あなたの食卓にオーガニック食材を!


                     ヒッピー・ヴァーモント農場”



・・・だったか?


「ちょっと、この牛ダイジョブなの!?」


 彼女がまた動揺して喚いている。一部合法化されたとはいえ、やはりマリファナには不安があるんだろう。ここは今まさにその牛肉を食べてる俺がフォローしなければ


「大丈夫だ、今その肉食べてるがラリってないだろ。20年は喰い続けてるが病みつきになる美味さだ」


「本当に大丈夫なんでしょうね!? だいたい正気のアナタを知らないし、結構お酒飲んでるじゃない!」


 そう言われてみればそうだ、返って彼女の不安を煽ってしまったらしい。仕事から大分たって神経が落ち着いたせいかさらに腹が減った。もう一枚ステーキを追加しよう、俺がおいそうに食えば彼女もそれなりに安心できるはずだ。さっそく俺は指をクイクイと動かしてウエイトレスを呼んだ


「はいは~い♪ ご注文は?」


「自分で思っていた以上に腹が減っていた様だ。すまんが特急レアステーキを頼む!」


「かしこまりました~♪」


 ウエイトレスが颯爽と厨房に消え、俺のステーキの調理を開始した事を知らせる様に轟音が鳴り響く


「ブウォォォオオオオ!」


 その音を聞いてまたジャレットが喚きだした。ホント騒がしい女だ


「なんか火炎放射器みたいな音してるけど!?」


「火炎放射器は燃える燃料を噴き出す放水器みたいなもんだ、ガソリンの臭いがしないしガスバーナーの音だろ? そんな事いちいち気にするな」


 彼女の戯言に俺がツッコミを入れ終わったと同時に、まだフランベの炎が消えていない燃え盛る鉄板に乗ったステーキが運ばれてきた


「おまたせしましたー♪」


「早っ!」


 ウエイトレスはジャレットの反応に笑顔で答えた


「外はこんがり、中は生々になっております♪」


「でしょうね・・・あ~でも良い匂い」


 ジャレットはウエイトレスの言葉に引きつった笑顔で返したが、直ぐに炎に乗ったステーキの香りを嗅いで表情を緩めた。成功か?


「もっとマシな生産者は居ないの?」


 ダメだった様だ。彼女はすぐにジャスパーにアドバイスを求めてしまった。俺は諦めて届いたステーキを大人しく食べることにした


「コイツはどうだ? 少なくともマトモであろうと努めてる」


「え、どれ?」


 ジャスパーの口ぶりから察するにヤツの事だろう。プロフィールは確か・・・


” ウチの豚は100%人肉を食べていないと保証いたします。また死体処理の依頼をされても当方は全てお断りさせていただきます。悪質な要求は武力を持って返させていただきますので悪しからず


追記

 俺の農場に火をつけやがったのはどこのどいつだ!! 生かしたまま捕らえた者には報償金を支払います。オレの手で八つ裂きにしてやりたいからな!死んだら減額だ!

                       ピンク・ピッグ・ホッグズ農場”


 ・・・・だったか? この生産者の思いのこもった殴り書きの文章は10年前から変わっていない、まだ犯人は捕まっていないんだろう。というか怒った主人が犯人を豚に喰わせると思ってみんなわざと放って置いてるんじゃないか?


「人・・・、この町で絶対豚は食わないわ」


 ジャレットの表情から察するに当たりの様だ。っと考えていたらジャスパーがフォローを入れた


「この農場の主人は頑固で有名でな、この町で信頼して食える豚はここの農場しかないって言われてるぐらいだぞ。試してみろって」


「うう・・・でも」


 ジャスパーのフォローを彼女は納得していないようで頭を抱えて悩んでいる。カタギにはこの環境はきつかったか、流石に可哀そうに成って来たので


「俺のステーキひと口食べるか?」


「いい・・・」


 俺はステーキを切り分けたがジャレットは拒否した。一体何を注文する気なのだろうと思っていたらウエイトレスが注文を取りに来た


「ご注文はお決まりでしょうか?」


「この・・・ッ」


「この?」


 ジャレットは意を決して言葉を絞り出す様に注文した


「このオートミールとフルーツヨーグルト、あとオレンジジュースをくださいッッ」


「かしこまりました~♪」


 ウエイトレスはジャレットの注文を聞いて去って行った。顔を押さえて固まる彼女にジャスパーが容赦なくチャチャを入れた


「健康的だねぇ、もっと高いの注文してもよかったのに。ハハッ」


「ううッ」


 俺はジャレットが今コイツ殴りたいッッ!と思ってるんだろうなぁ~っと考えてながら食事をしていると、しばらくしてジャレットの注文した料理が届いた


「おまたせしました~♪」


 ジャレットは光の無い目で運ばれた料理をゆっくり口に運び


「ハグッ」


 食べた


「ガン!」


 すると彼女は机を叩いて固まってしまい、俺は声をかけた


「どうした?」


 そして彼女は静かにこう言った


「美味しい・・・。モグモグ」


「そうか、良かったな」


 ジャレットは何かタガが外れたように、元気に食べ始めた。コイツも疲れてたんだろう

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