第11話 ジャスパー交渉中

 俺、”ジャスパー・オースティン” はビリーが運んできた女、メアリー・ジャレットと交渉すべく商談を始めようとしたが、彼女は混乱したように喚き始めた。こんな事態が混沌としてれば当然混乱するよな


「商談って何よ!? ていうか私が捕まったのはアンタの差し金じゃないでしょうね!?」


「いやいや滅相もない」


 俺は精一杯の笑顔で話しかけて安心させようとしたが、横で黙っていたビリーが台無しにしてくれた


「コイツならやりかねない…」


「こらビリー! 余計なチャチャを入れるな!」


「やっぱり・・・、見るからに胡散臭いものね」


 俺の言う事よりビリーの言う事に彼女は納得したようだ。まったく、人の善意を何だと思ってるこの女。それにしても息ピッタリじゃないか、実は仲が良いのお前ら?


「いい加減白状しろジャスパー。余計な仕事増やしやがって」


 ビリーが俺に詰め寄ると、女が視線を外しながらビリーに言う


「アンタは服着て」


「え、あ、悪い。ジャスパー予備の服は・・・」


 ビリーは困ったように俺に聞いてきた。変な所だけ律儀なんだからこの野蛮人はと思いながら俺はビリーに言ってやった


「持って来てるわけないだろ。その手に持ったシャツを乾かして使え」


「えー…、気持ち悪りぃな」


 渋々と言った感じでビリーはドラム缶の場所までシャツを乾かしに行った。これでやっと本題に入れそうだ


「じゃ商談の前にキミの事から話すぞジャレット。ビリーもシャツ乾かしながら聞けるな!」


 ビリーは片手を軽く上げて返事した。それを見てジャレットが疑問を口にした


「この距離でちゃんと話を聞けるの?」


「アイツ触覚なんかが鈍感だが、その分他の感覚が鋭いんだ」


 俺は質問に答えながらも”あれ?また本題から外れるか?”と一瞬焦ったが、幸い彼女から切り出してくれた


「ヘー・・・それで話って何?」


「じつはな、ちょっと不幸なお知らせがあってな。キミの務めてた会社、潰れたよ」


「・・・え、どうして!? 資金集めが間に合わなかった!?」


 焦る彼女に俺はせつめいを続ける


「ほらほら、キミの会社が取引に使おうとしたチンピラ連中、薬の売買を受け持つ筈だったでしょ?」


「そうよ!私はそのためにサンプル持って交渉に行ったんだから!」


「でも、あのチンピラ共が不法占拠したビルが問題で、あの辺りを縄張りにしてたマフィアが大激怒、さらに薬を勝手に捌こうとしてた事も発覚して脅しをかけたわけだ。だがチンピラ共は脅しに意に返さず。当然キミの会社が係ってたとばれて脅されましたと」


「ビビッたキミの会社はチンピラとの契約を一方的に破棄。で、怒ってキミを人質にした訳だ」


「そんで、リーダーのアイザックが直接交渉に行ったものの交渉は決裂、怒ったアイザックは会社を物理的に潰しましたとさ」


「物理的に潰したぁ!?」


「確認の電話を入れてみたらどうだ? ほら、携帯貸すよ」


「っ! そんな噓でしょ・・・」


 ジャレットは俺が差し出した携帯をいったくりいじり始めた


「繋がんない・・・・、こっちは・・・ダメ、じゃあこの・・・・、ああもう!じゃあ個人のならどうよ!」


 彼女は手当たり次第に連絡をかけまくってる様だった。そしてしばらくした後


「はい、もしもし?」


 ようやく誰かと繋がったようだ


「繋がった! ちょっとジョー!」


「メアリーか! よかった生きてたんだな!」


「どうにかね、会社潰れたってホント!?」


「ああ、チンピラ3人がバイクで暴れて酷いもんさ。バイカーめ…。騒ぎのせいで警察が調べに入った、無事なら帰らずに逃げた方が良い。私も今荷造りしてるところだ」


「そう、わかったわ」


「無事でなメアリー。他の連中とも連絡がつかない…、多分みんな逃げたんだろう。私もこの携帯は捨てる気だ。幸運を!」


「達者でねジョー。それじゃ」


「ピッ」


 ジャレットは携帯を切って俺に返した


「ありがと」


「どういたしまして」


「それで・・・商談って言ってたわね。私にどうしてほしいの?」


「キミのレシピがほしいんだ。クライアントはティーポットの様にブチ切れてたがキミの薬には興味しんしんでね。でも工場のデータは奴らに壊されちゃったからさ」


「私のレシピが欲しい? 命綱をそう簡単に教えると思うの」


「まあ、嫌だよな」


「拷問でもする気?」


「いや、俺個人としても君が廃人になる事は望んでない。そこで俺から提案なんだが、ウチで働かないか?」


 ジャレットが答える前に、戻って来たビリーが話に割り込んで来た


「ウチって、この女をアパートに住まわせる気かジャスパー?」


「204号室の薬作りのゼベットが夢の世界に旅立ったまま戻ってこなくなったじゃん。だから代わりが欲しかったんだよね」


 俺がビリーと話してるとジャレットが喚きだした


「ちょっと!アパートって売春宿じゃないでしょうね!?」


 誤解をしている様なので訂正する


「違う違う、俺もビリーも住んでるし、ただ悪党の寄せ集めアパートってだけだ」


「そんな危険な場所に私が住むと思う訳!?」


「悪党の寄せ集めと言っても裏仕事を生業とする個人が集まって、ソイツに等それぞれの仕事を斡旋する案内場も兼ねてるアパートだよ。ビリーみたいな好戦的な奴もいるが全員そうって訳じゃない。根回しして警察から匿ってやれるしどうする? それとも追われる身で他の職を探すか?」


 ジャレットはしばらく考えた後、渋々口を開いた


「わかったわ・・・取りあえず職場を見せてくれる」


「よし! 直ぐに案内しよう。二人とも車に乗れ!」


 俺はそう言いながら、貸した携帯を足がつかない様に燃え盛るドラム缶の中に投げ捨てた


「パシッ」


 だがトールにその携帯をキャッチされ、こう言われてしまった


「ジャンクならこっちに回せ!」


「足がつかないように分解しろよトール!」


 そうトールに言い残して、俺は二人を車に押し込んで運転席に座り彼女に挨拶した。渋ってる様だがもう決まった様な物だろうからな


「ようこそ、新たな仕事人ダーティ・ワーカーさん、歓迎するよ」


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