第42話
間近で見る太陽は狂気そのものだ。
創造神再起動装置の地平に立った主命。太陽は彼の鼻先で核反応を繰り返している。
彼の体には神が与えた、いかなる場所でも生存可能になる膜が覆っている。それにより呼吸もできるし、歩行可能な疑似重力も与えられている。そして、太陽の熱も光も弱める機能もついている。
もしもその膜がなければ主命の体は一瞬で蒸発しかけらも残らないし、膜がなければ彼の視神経は光によって焼き尽くされていたはずだ。
それでも、光は暴力的に彼を襲った。視神経では受け止めきれない光の奔流がほかの五感を侵食する。眼球に光が満ち溢れ反射し続ける。耳に光が流れ込み鼓膜は圧迫され轟音が鳴り続ける。頭蓋内に満ちた光が舌をオーブンのように焼き、血流にのった光が体を駆け巡り体幹を狂わせる。
体中の穴という穴、皮膚のわずかな穴、細胞の隙間にまで光が注ぎ込む。それは太陽の光として普段感じていた温かみとはまるで逆であった。温かみなど存在しない、無の光、生命を滅ぼす光だ。
その光の中を前進する主命。目標も道筋もなくただ進む。おそらくそれであっている。彼の感覚で進めば正解にたどり着く。
進むほどに耳鳴りと頭痛が酷くなる。太陽の間近など、人がいる場所ではないのだ。
進む先、光の中に小さな影を見つけた。
距離感すら焼き尽くす光の中、小さく立っている構造物を見つけた。そこから延びる影は、この光地獄の中のオアシスの様に主命を引き付けた。
幅1メートル高さ2メートルほどの、まるでなにかの記念碑のような構造物。
主命はその陰に身を潜め、ようやく一息つけた。この構造物の影はどこまでも遠くに延び、おそらくその先端は恒星たちにまで届いているのだろう。
日陰によって生命力を回復させた主命はその構造物を観察する。
その構造物の日陰側の一面は緑色に輝くガラス製。内部に変化する光源体があり、それがガラス面に光を投射し、モニターに映し出されたグラフィックの様に変化している。
そのガラスに触れた主命は、その手のひらに懐かしい波動を感じた。
「パーシャルティー…」
彼は彼女の眠る場所に辿り着いた。
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