第32話


 教会の比較的被害の少なかった部分の補修をし、なんとか雨風をしのぎ寝起きができる小屋を作った。

主命もキリコもココしか居場所がなかったため、お互いに小屋を作ろうとした結果、同じ場所にたどり着き、期せずして共同で復旧することになった。

「まあ、こんなもんでしょう」

「まあまあ、こんなもんでしょう」

殺し殺されの間柄である男女であるが、それは神の不在によりペンディングとなっていた。共同で物を作る作業は互いの人となりを知るにはよい機会であった。

彼と彼女の間は近づいていた。


双子星墜ちることなしグラビティー・フォーリンラブ

双子の巨大恒星の引力圏を使い∞に加速した女神が超弾頭となり地球神に激突する。

暗黒物質超漆黒ブラック・スペース・ブラック

地球神は次々暗黒物質をモノリス板状にしたものを産み出し女神の頭突きを防御する。

双子星はともに愛するデッドサン・クラッシュ

防がれた女神は双子恒星を紐づけにし、二つの玉を同時に地球神に叩きつける。

燃えさかる恒星にサンドイッチにされる地球神。双子の恒星は互いに破壊しあい、二つの溶けた熱球が互いを求めるように交じり合った。

その双子星のすべてを吸い取り尽くし地球神が星の内部から現れた。熱という熱を体内に取り込んだ燃えさかる神の姿で。

「神が神を殺せるか、絶対は絶対を破壊できるか?試してみようぞ!」

彼の燃える瞳は太陽そのものだった。


焚火を前にして夜空を見つめ続ける。

彼と彼女のそんな暮らしはもう3週間も続いていた。二人の間にある越えがたいはずであった殺し殺されの関係、あるいは殺し殺しの関係は、命令する絶対者の不在により形骸化が始まっていた。3週間も一緒にいれば殺人者にだって気を遣う。

契機を作ったの彼女、キリコの方だった。

話す内容は転生者のお決まり、過去の人生のこと。彼女が話すのを主命は相槌もなく聞いていた。

彼が彼女の話を意外に思ったのは、過去に対する恨み言がまったくないことだった。それは転生者としては珍しい。人生になんのイベントもなかった者は、その何もないことを恨む。キリコの話には幸福であったということしか語られなかった。

「う~~ん、実際につらかったとか悲しかったとか、そんなになかったなぁ。パパもママも最高の人だったし。周りには、意地悪な人もいたけどみんないい人だったし」

主命は転生者の前世の話し方で嗅ぎ分けることができる。その人物が前世でどれくらい生きられたのか。何歳で死んだのか。

その区別からすると彼女は間違いなく10代で死んでいる。しかも日本人ではない。

「あ、私、アメリカ人」

事もなげにそういう彼女であったが、日本人以外の転生者というのは極々まれであり、ハイエルフよりも貴重種といっていい。

たしかに彼女の前世の話はディティールが日本国内でなかった。

あの地球神はどうしたわけか日本人ばかりを転生させている。日本人が特に不幸というわけでもないのに。日本を実験場にしているのか。


「主命はどうなの?」

主命はそう聞かれることを内心恐れていた。今まで他のどんな人間にでも嘘で誤魔化してきたが、世界で数少ない「本物の神に仕える者同士」という共通項が彼にも彼女に対する真摯さを産み出してしまっていた。

なにより彼女の目を見てると嘘をつくのがつらかった。

「俺は前世を覚えてない。あやふやなんだ。だからこっちに来てからの話でいいか?」

「いいよ」

「聞くに堪えない酷い話だぞ」

少女は夜空を見上げる。降りてくる星はまだない。

「大丈夫。まだ当分暇そうだしね」


実際、彼のした話は酷かった。

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