第31話


 空中に撃ち上げられた地球の神は雷雲から発せられる雷に撃たれさらに上昇し続ける。

積乱雲が渦巻きながら発生し、その渦に沿って雷が円を描いて回転しその威力を高める。直径3キロのカミナリの輪が一点に集約し地球の神に対してイカヅチの攻撃を加え続ける。

地球の神の体はついに成層圏から飛び出した。音速で飛ぶパーシャルティーがそれを追う。

宇宙。眼下に人の暮らす星を置き、二人の神が対峙する。

「パーシャルティー、互いに”絶対”の属性をもつ神同士。このような諍いは無益と思わないか?」

「この世界から害虫を駆除する、それを管理者は無益とは思わん」

「お前にとって生命とは、人類とは無価値であったのではないか。この世界のありようを見ればわかる。管理者の管理不行届き。お前が人を愛していないのは、同じ神である私にはすぐに分かった。人の幸福を重視してないのがわかった。幸福が未開発すぎる。だからそれを少し借用させてもらっただけではないか?」

「愛していようといまいと、この世界は全て私の物だ。すべてが私の創造物だ、それをお前の精子どもに汚された怒り、理解してくれとは思わん!ただ死ね!」

女神は手を掲げる、その手を透かすは太陽の光。彼女の号令一下、太陽はその中心部でさらなる爆発を起こし、それを集約して一筋の光線として放った。地上では危険すぎて使えない技

「太陽はただ女神のためにのみサンバースト・サンシャイン輝く」

その太陽光線を軽々と受け切った地球の神はさらに上昇し宇宙へ飛び出す。それを追うパシャルティーに向かって一つのカプセルを放つ。そのカプセルは巨大化しつつどんどんと増殖し女神を取り囲むクラウドの輪を作る。

カプセルに見えたもの、それは全て核爆弾だった。人類がため込んだすべての核弾頭を地球の神は複製した。約一万六千発。女神を取り囲んだ核弾頭は神の合図で一斉に起爆した。

子供たちの贈アトミックチルドレンズフラワーり物」

地球の創造神は宇宙に新たな太陽の光を産み出した。


 夕暮れ空にまた光が生まれた。神々の戦いは地上からどんどんと遠くなっていった。崩壊した教会に残された傷だらけの男女はただそれを見ていることしかできなかった。

この世界の神に仕える天野主命と、地球の神に実質仕えていた修道女キリコ。

たがいに距離を取って座り暮れていく空を眺めている。

「私を、殺すの?」

キリコが暗殺者に尋ねる。片腕を折られている主命は否定する。

「もともと狙いはあんたの上司だったんだが、アレじゃあね。俺が殺せる相手じゃなかった」

神殺しは人間にはできない。獲物は消え、彼のクライアントは下請けに任せずに自分で仕事を成し遂げるために飛んで行った。

「キミは、俺の獲物じゃない。俺は彼女の許可がないと人殺しはできない」

「じゃあ、許可さえあれば殺すの?」

「許可さえあればね。許可が…」

その許可を与えてくれる絶対者は、それにふさわしい広い舞台へ、神々が住まうべき宇宙へと飛んで行った。再びこの小さな狭い地上に舞い戻ってくるのか、主命にはわからなかった。

その隣に座るキリコも似たような境遇であった。彼女が全てをささげた親のような存在であった司祭もまた、神であった。その神が戻ってこない限り彼女には行く場所も行く道もなかった。隣にいる殺人者同様、ただここで待つしかなかった。


三日月が照らすは女神クレッセント・ブーメランの微笑み」

月の七割が崩壊し巨大なブーメランになる。女神が投げつけたそれは地球神を外れ太陽に向かって飛んで行った。しかしそのブーメランは加速を続け、太陽をスイングバイして還ってきた。大加速した大質量が地球神と衝突するが、砕けたのは月のみだった。

「私自身、ほかの創造神と出会ったのは初めてだが、これほど手荒な歓迎を受けるとはな。同じ絶対者として恥ずかしいよ」

「辱めを受けたのはこちらだ。お前は人類に感化されすぎた。人の目線で神を行えばすべてを狂わせる。その事を忘れるほどのものを人類の何にみたのだ」

「人のいう”幸福”その感性だ。物質、地位、親愛、善意、悪意、すべての獲得行為に幸福という価値基準を付随させた。得れば得るだけ幸せになれる。持っていば持っているだけだけで幸福と感じられる。他の生物は生きていることに幸福など感じはしない。神ですらそうだ。神は全ての所有者であるにもかかわらず、幸福など一度も感じたことはなかった。それなのに人は生活するという行為そのものに快感を感じるようになった。消費で幸せ、浪費で幸せ、勝ち取ることで幸せ。私の作った過酷な世界で彼らはそれを見出したのだ。私がまったく知らない事、幸福という概念で生物として飛躍したのだ」

「お前はそれを知り、それを内に取り込んだのだな。その結果、お前は自分の幸福を追求し始めた。人を転生させ過剰に幸福になる様を見て自分に幸福をもたらそうとした。そしてさらに幸福になろうと次々と転生者を送り込み始めた。それは人が行う搾取を神が代行しているにすぎん。絶対者でありながら、人に囚り込まれるなど!」

「お前自身もそのとば口に立っているのだぞ、パーシャルティー!」

破片となった月のかけらから、次々と鋼鉄の巨大天使を産み出し、女神へと向かわせる地球神。宇宙服を着た天使たちのレーザー光線が、飛び回る女神を追走する。

「全知であっても過ちを犯す!」

「全能であっても過去は正せない!」

食らいあうふたつの創造神はさらに宇宙深くへと飛んで行った。

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