第30話
転生者である以上「転生」という概念は確実にあると信じている。実際にそれが起こったのだから。
それは前世と今世という二つの世界の存在を認めるということであり、その橋渡しをした何者か、それは人間よりも巨大な存在、を信じるということでもある。
こまかい定義をめんどくさがるなら、それは神と呼ぶのが一番ふさわしい。人の運命を司る存在に、人は神と名付けるのだから。
「貴様のせいかぁ!」
今世の創造神パーシャルティーは空中の無から剣の大群を生み出し乱射し続ける。
前世よりこの世界に侵入していた地球の創造神、転生者たちが信奉するリカーシュ教の神は、その高密度の剣の流れを寸前で消滅させ続ける。
「貴様が現れたせいで、私は自らをパーシャルティーなどと名乗らなければならなかったのか!」
女神の怒り要素の一つはそこだった。
彼女の生み出す剣の流れの密度がさらに濃くなり教会内に巨大な鉄の橋が生まれる。
その殺しの橋はもう一端に届くことなく消滅させられ続ける。
「私がこの世界に現れたことで、君自身は神が二人になったことを知覚した。だから自らに区別用の名前を付け、情報端末としての君を産み出した。それは全て、君の自身が自動的に行ったことだ。何を怒っている?唯一神という称号に思い入れでもあったのか?」
女神は剣での攻撃をやめ、拳の攻撃に切り替える。自らの拳ではなく空中に生み出したエネルギーの拳を乱打する。一撃一撃が軍をも砕く破壊力。しかしそれでも地球の神は事もなげにはじき返す。衝撃によって教会の骨格が震え装飾品が吹き飛ばされる。
「なぜ転生者を私の世界に送り込んだ!貴様の世界の住人を!なぜ私の創造物による完璧な世界を汚した!」
二人の神の衝突という破滅的場面。その場の床に転がっていた主命は、その世界を汚した転生者の一人であった。彼は彼が仕えていた神と彼を産み出した神を交互に見る事しかできなかった。神の声はどのような騒音の中でも人の耳に届いた。
「この世界に来てよく分かった。君は人類を愛していないと」
「それがなんだというのだ!}
女神の一撃が地球の神の体を吹き飛ばす。教会の壁が崩れ、リカーシュの神像が砕け散る。しかし地球の神は埃を払いながら再び立ち上がる。女神の力がまるで効いていないようだ。
「私は違う、地球人類を愛している」
主命は地球の神を見た。彼の前世の記憶はあやふやであったが、そんな愛された記憶はなかった。愛されていれば転生までして前世の恨みを晴らそうなどという転生者達はいないはずだ。
「私もパーシャルティー、君と同じようにある時期まで不干渉を貫いていた。すべての種を平等に扱っていた。しかし知ったのだ、人の心を、s彼らの繊細な命の息吹を。創造神である私は自分の中に欠けていた項目を彼らに教えられた」
パーシャルティーにも思い当たるところがあり黙って聞いてしまった。彼女もまたつい先日からその人の心に感化され、感情に弄ばされてしまっていたのだ。
「地球の創造神である私に欠けていたパラメーター、それは”幸福”だ。人が幸福を求める生き物であることを初めて知り、彼らのために幸福を作り出そうとした」
「だったら自分の世界だけでそれをやればよかろう!」
「できなかったのだ。すでに地球は人で溢れ全ての人が幸福を追求していた。幸福は限界まで採掘されつくされ、全ての人類にいきわたる量がなかった」
教会の隅で気を失っていた修道女キリコが目覚めた。神の声で目覚めたのか、この女も前世の不幸を抱えてこの世界に送られた転生者であった。
空に浮かんだ地球の神は周囲を見渡す。彼らにとっての新天地であるこの世界とそこに根付いた転生者たちを愛でるかのように。
「私の地球ではこれ以上人に幸せを与えられない。だから私は不幸の中で死んだ者たちをこの未開の地に送り込んだ。ここならば、転生者ならば、彼らは私の世界で得られなかった幸福をいくらでも得られる!」
女神の髪は逆立ち輝く。
「お前の世界でなんとかしろォ!」
怒りの光輪がいくつも飛び出し地球の神に襲い掛かる。今まで受けに回っていた地球の神も防衛陣を作り出す。裸の天使たちが彼の体から飛び出し、その矢で光輪を撃ち砕き女神に攻撃を仕掛ける。
ついに神同士の大乱闘が始まった。
崩れる教会、吹き飛ぶ教会、破壊されつくす教会。
目覚めたばかりのキリコの上に巨大な壁が落ちてくる。とっさに動けない彼女の体を抱えて教会の外に逃げ出す主命。
空は神の怒りを示す雷雲に変わっていた。
分身し多重攻撃をしかける女神。
さらに誘導エンジェルを作り出し高密度の空中戦をしかける地球の神。
教会は痕跡もなくなり周囲の庭園も次々と被害をこうむり破壊される。周辺を囲っていた私兵たちも神の無慈悲な流れ弾で次々と死んでいく。木は割かれ地面はえぐれる。
「カルハスさま!」
主命に抱えられたキリコが主人の名を叫ぶ。彼女の声は神には届かない。
「お互いが”絶対である”創造神同士だ。この戦いは無益ではないかね?」
破壊の嵐の中心でもすました顔の地球の神が言う。
「人の世界を土足で踏みにじった奴の言うことか!お前を殺し!すべての転生者も殺す!」
「主命君もかね?」
わずかに止まった女神に地球の神の攻撃が当たる。城が崩壊するほどのエネルギーが当たっても彼女の顔には傷一つつかない。
彼女の目に修道女と共に嵐の中で耐えることしかできない主命の小さな姿が見えた。
「・・・・・・・!」
女神のさらなる猛攻は被害の範囲をさらに広げた。扱うエネルギー量が増えればその影響は拡大する。丘が削れ教会周辺の街の屋根がすべて吹き飛ぶ。地球の神もそれに答えて威力のレベルを上げる。山の突端がえぐれ、川が吹き消される。
破壊の嵐はまもなく神話級に上がる。それは周囲の人間の絶滅を意味する。主命はたまらず空に向かって叫ぶ。
「他所でやりやがれ!」
その声は轟音の中、パーシャルティーに届いた。
「
地面から沸き上がった大地の拳が地球の神を下から打ち上げた。彼の体は空高く飛ばされ見えなくなり、それを追って女神も空に駆け上った。
風は止み嵐は収まり、空中を舞っていたすべての物が地面に落ちた。
神たちは地上から消えた。
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