第28話
女神パーシャルティーが教会の庭園の花を眺めている。その姿はまさに女神そのものであり、陽の光も地面の反射光も花の色合いも、彼女の美しさを引き立てようと全力を尽くしていた。
普段の彼女なら、主命の仕事が終わるまで時間を飛ばして結果だけを確認するのだが、今の彼女はこれまでと違った。待ち時間を実時間の中で過ごしていた。
先日の感情の発露以降、錆びついたエンジンにオイルがさされたように彼女の脳と肉体は活動を開始した。感情の波が朝も昼も夜も幾度も押し寄せるようになっていた。人の体でいることにようやく慣れてきたようである。
花の華麗さ儚さを楽しみ、陽の暖かさを感じ、風のやさしさを喜ぶ。
空腹を愉しみ、食事を待ち望み、満腹を満喫する。睡眠欲にまどろみ、昼寝をむさぼる。
今いることと次に起こること、明日なにをするかを期待する。
「単なる肉体の奴隷になり下がっただけだ」
彼女は不自由な人生の中のわずかな喜びを、大きな木の実の僅かに食べれる小さな果肉のように、大切に味わっていた。
「はやく主命が戻ってこないかな」
彼女は彼が戻ってくることを、今晩は何をして彼と過ごすかを考えていた。
それは人間が他者に感じる感情の一つであったが、肉体が発する情報に弄ばされる事を楽しんでいた彼女は、その感情の名前を思い出さなかった。
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