「異世界宗教革命・転生宗教へいらっしゃい!」より ~異世界新興宗教教祖~
第27話
リカーシュ教の総本山、テラ教会は丘の上の広大な敷地に広がっている。教会を取り囲む庭園は楽園をイメージし作られている。その庭園には不可思議なデザインのオブジェが無数に並んでいる。
暖かい日差しの中、教会内の庭園に並ぶオブジェを天野主命が眺めていた。
この世界の人々にとってリカーシュ教は最近急速に信者を広げている新興宗教といった程度で、信仰対象もよくわからないもの、といったものである。この意味不明のオブジェがその印象を強めているのは確かである。
しかしよく見てみればそれはテレビカメラだったり、腕時計だったり、タブレットだったり、クルーザーだったり。この世界の人間には意味不明の抽象芸術にしか見えないが、転生者にはそれが過去世の物であることが分かる作りになっていた。
つまりこの庭園は転生者だけにわかる、転生者だけを選別して教会へ誘う仕掛けなのである。
隠れて暮らす隠れ転生者をペンタゴンへと、転生者の権力構造へと導く。そのためにこのリカーシュ教はあり、その選別施設としてこのテラ教会はある。
「テラ教会、教会なのに寺ってか」
つまらないことを言いながらオブジェを眺めて歩く主命。その動きは入信前の隠れ転生者の動きであった。
「ごきげんよう、なにか御用でしょうか?」
一人の修道女が話しかけてきた。この楽園にふさわしい美しい金髪の少女の修道者であった。
主命はいかにも隠れ転生者のように、オドオドと、しかし仲間を見つけた喜びを隠し味にした感じで返答をする。修道女は彼に教会内で司祭様に会われるとよいと勧めた。
「そうさせてもらいます」
新興宗教に引っかかった無知な若者を装い教会に進む主命。しかし彼がいかに擬態しようと身についた暗殺者としての警戒心が動きから漏れてしまう。その匂いを感知している修道女キリコ、彼女もまた無害な修道女を装う。お互い擬態した者どうし、美しい日の光に満ちた庭園を並んで歩いた。
教会内はその役目を十分に果たすくらいに荘厳であった。暗い室内にいくつもの天窓から効果的に日が差し込み、薄闇の床の上に神の足跡を印していた。入信者を畏怖させ、その畏怖した物との一体化を許可する。教会という役割を十二分に果たす建物であった。
薄暗い教会内は日と火の光で暖かい色調に染まり焚かれたお香は懐かしいにおいがした。
ここだけは前世の世界を感じさせる。それがこの新興宗教の本質の部分であった。
その教会の奥にカルハス司祭が立っていた。
「ヨウコソ、迷える子羊よ」
前世の記憶、というよりも前世のテレビで見た記憶、そういった感じのする司祭の姿と立ち振る舞い。この教会は隅々まで過去世と再会する場所なのだ。司祭は言葉を切り出した。
「1999」
数字。それだけを発した。続いて
「2001、2010、1985、1984」
4桁の数字。それをただ神妙に呟く。その言葉を聞いていた主命の口は、思わず返してしまう。
「1974、2017」
4桁の数字。2000を中心としたその数字は転生者にとってはまさに生命の数字である。この世界の人間にはまったく意味が通じないが、転生者にとっては生きてきた時代を意味する重要な数字なのだ。
二人の4桁の数字が響きあい、歯車が噛み合った。お互いを結ぶ転生者という血族の扉の鍵が開いたのだ。数字だけでお互いが転生者だと確認しあった。
「ようこそ、わが子よ」
カルハス神父は主命をハグした。
抱かれながら主命の目は獲物を見る狩人の目に変わる。
その二人を見る修道女キリコの目も、それと同じく獲物を見る狩人の目であり、そんな目に見つめられながらもカルハス司祭の目は慈愛に満ちた瞳のままだった。
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