「異世界で組織を作ったら、悪の組織になっちゃいました」より ~~

第23話


 ファーサリード国の首都よりわずかに離れた所にその巨大な建物はあった。

 地面に立って見れば、それは最近流行りの装飾を廃した平面の白い壁がどこまでも続く四角形な建物に見える。しかし、上空から見ればこの建物は正確に六角形をしていることがわかる。

 白い六角形の巨大な建物。この建物の所有者たちは「ホワイトペンタゴン」と呼んでいた。

 ここには様々な「会社」や「組織」が間借りして入っている。

 一代で巨大な運輸網を築いた「レンブラン運送」

 一代で各国家間をつなぐ通信システムを立ち上げた「スキータス通信」

 一代で天候の長期予報を可能な組織を作り出した「ウェイス予報局」

 一代で世界全てのファッションを取り仕切るほど先進的なブランド「アーパス美局」

 そういった会社が大小合わせて数十社、軒を連ねている。

 当然全て「異世界転生者」達の会社である。その先進的知識を有効活用して作り上げ、膨大な利益を上げた世界一流ばかりが集まっている。

 さらに各国の政治中枢と繋がるパイプ役が集まるロビーや、政治中枢に裏から情報工作をしかけるスパイたちのロビーまで。この世界に食い込んだ異世界転生者達の利益を守るための巨大な砦が、このホワイトペンタゴンなのである。

 しかしこのペンタゴンが転生者たちの隠れ家であるということは世間に知られてはいない。異分子の集団だと知られればどういう目に会うか、彼らはよく知っていた。あくまでも優良企業が集結した寄り合い所帯であるという体裁を守っている。

 そのペンタゴンの地下中央に巨大な会議室があった。


 巨大な部屋の中央にはこの世界の立体地図が鎮座していた。これほど詳細で正確な地図はこの世界には存在しない。表の世界の測量技術は未発達であるが、彼らの持つ測量技術は遥かにレベルが高く、公開もされていない。この地図の価値がどれほどのものか、全ての国家が大金を出してでも手に入れたいものであることは間違いない。

 その立体地図の上を魔術で作られた文字が浮かんで様々な情報を表示している。この魔術文字の淡い光がよく見えるように、会議室自体はは薄暗くなっている。

 会議室の壁には段上に並ぶ机に20名ほどのオペレーターが並び、入ってきた世界の情報を音読した後、魔術文字にして地図上に飛ばした。

 次々に入ってくる世界の情報、この部屋だけで世界の動きが見えてくる。

 立体地図を囲むように円形に座席が並んでいる。この場所を支配するVIPが座る席だ。各会社の社長クラス。一人ひとりがこの世界に革命を起こし大きな利益を上げてきた「異世界転生者」の成功者達だ。多くが40代の男性。成功者特有の傲慢さを漂わせている。

 空中をオペレーターたちが放つ情報が行き交う。

 「カイズス国の王が発病。現在医局が病気を特定中ですが、現地医療では不治の病である可能性が高いとのこと、情報を隣国にリーク」

 「アルカナ地区の小型ダム建設の許可を取得。現地住民の排除を開始」

 「ターウェン大学の魔術教授が新式の魔術回路を開発。現地エージェントが交渉開始。王室魔術協会よりも先んじているとのこと」

 「出奔していたスハイヤ家令嬢を確保。現在身柄をタリヤkに移送中。スハイヤ男爵との交渉を開始します」

 「トルギ教授が金鉱脈を発見しました。規模は中。これにより教授の技術レベルが確定。地学部隊へ編入されます」

 

 飛び交う大小様々な情報。一つ一つが小さいかもしれないが、それを巨視的レベルで見て、結びつけることができれば世界を動かせる。

 この世界の喉元に食らいつき血を吸う化け物たちの巣。異世界転生者を知る者ならばここがそういう場と見えるだろう。


 中央に居並ぶVIP達。彼らは下りてくる情報を元に判断し決断を下していく。

 「カイズス国王の病気は良いチャンスだ。国王側が弱まれば、我々が入り込む隙が大きくなる」

 薄暗い会議室、発言した男の姿はシルエットでしか見えない。

 「病気を治してやって恩を売るという手もあるが、いささか年寄りすぎる。短い恩より長い混乱の方が利益が大きい」

 シルエット達は会議を続ける。少なからず女性もいるようだが、その性質に男女の差は見られない。

 「西区に転生者が目覚めたようだが、前世を聞いたら政治家だそうだ」

 それを聞いた一同が失笑する。

 「政治家など何の役にも立たん。小賢しい調整屋など現地人にも腐るほどおるわ」

 「目覚めた彼はずいぶんと過去の自分を自慢していたようですよ」

 「ハッまさしく使えん転生者の典型だな。一般部隊に編入して雑用でこき使ってやれ」

 「同じく西区でもう一人目覚めた。理学部の学生だそうだ」

 今度は一同色めき立つ。

 「うちによこせ!」

 「いや今度こそこちらが先だ!」

 理学部や理工系の人材は引く手数多だ。どんなレベルの人材あっても、前世で一通り学んだ人間には黄金の価値がある。

 人身売買のような値付け合戦のすえに、その目覚めたばかりの異世界転生者の運命は決まった。彼自身の手で未来を掴むという道は閉ざされた。


 情報が入る。赤い魔術文字だ。

 「紅旅団全滅。2日前。拠点にて全員殺害される」

 凶報に場の空気が凍る。

 「まさか…」

 「紅旅団はたしか13人の転生者で構成されていたはずだ」

 オペレーターが付随情報を映像で送る。所属団員の名簿や達成した仕事内容、新たに建築された新拠点の見取り図。詳細な情報を持っている。

 さらに続けて殺人現場の情報も送られてきた。

 「転生者13人を一晩で皆殺しか…」

 「どうやらこれで確定のようだな」

 会議室のメンバーの一人が情報を飛ばして付け加える。

 「料理人サスーン・ハルスン、自宅にて殺害される」

 「ドラゴンスレイヤー・キトラ・マターギー、自宅にて殺害される。自宅全焼」

 そして今回の、

 「紅旅団、拠点にて全団員殺害される」

 会議室のメンバー全員が重い空気を感じ、椅子に深く沈む。一番上手に座る男が場を仕切るように発言した。

 「諸君、どうやら確かなようだ。我々異世界転生者を殺して回っている組織があるようだ。これは我々に対する宣戦布告だ!」

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