第18話
屋敷内の再捜索が開始され、まず2階の捜索が完了した。トイレの一名の死体を除いて異常なし。暗殺者の姿は見当たらなかった。
団長のいるチームが1階に行き、残りの2チームが部屋数の多い3階に回った。
3階には個室部屋が15部屋もある。一部屋一部屋を警戒して調べなければならない。
明かりが点けられ闇の部分が消えた廊下をロウリィを含む4人のチームが進む。
人数は多いが、軽戦士、僧兵、魔法使い、マッパーという変速メンバーである。廊下の狭さは武装した男性が2人並ぶのは難しいほど。長物の剣を振るうのも厳しい狭さだ。
前方を行く軽戦士は長めのナイフといった感じの短剣に弱点のみを覆った軽装の鎧、室内戦に適した戦士だ。その後ろに僧侶でありながら肉体を武器化した格闘の達人、僧兵が続く。彼もまたこのような状況では頼もしい。後方を警戒しながら魔法使いとマッパーのロウリィがついていく。肉体的スキルに欠け接近戦も不得意な2人だ。
しかし言うまでもなく魔法使いは団員の中でも最大の火力を誇り、マッパーもまた団員の中でももっとも重要なパーツといえる。
前方の肉体派2人はこの後方2人の護衛も任されている。
3階のクリアリングを開始してどれほど経つか、部屋に突入するごとに神経をすり減らす。人数はこちらが上だが、どれだけ数の差があろうと不意の一撃は確実に一人の命を奪うことができるのだ。一部屋調べるごとにすり減った神経がさらに削れていくのを感じる。
「よし、次行くぞ」
軽戦士が部屋のドア前で構える。その横に僧兵。廊下の狭さのせいでロウリィたちはドアの前に立てないので脇から見ているしかない。
先ほどまでと同じようにドアを勢い良く開けて、真っ暗な部屋にまず軽戦士が飛び込む。
飛び込んだ軽戦士がドアを通過する時、横から光る物が軽戦士の首すじを軽くなでた。
「アゴボっ」
喉から異音を出し、湿った泡の様な音が吐き出した後、軽戦士は暗い室内に飛び込んだ勢いのまま倒れ込んだ。部屋の暗闇にドアから入る光が四角を描く。その四角の額縁からはみ出す形で軽戦士が倒れて痙攣を始める。喉から漏れ続ける血液に肺から産まれた空気が混ざって泡を作っていた。
「キエァ!」
僧兵の雄叫びが廊下に響き、暗殺者がいると思われる闇の中に蹴りを放つ。しかし、その蹴り足は闇に掴まれた。
とっさに放った蹴りを受け止められ驚く僧兵。魔法使いはロウリィを後ろに下がらせる。
軽戦士の痙攣が止まった。
闇の中から僧兵の片足を抱えた男が姿を現した。
顔を黒いマスクが覆い、目だけがこちらを見ている。全身黒でスネと下腕だけを装甲が覆っている。細身ではあるが筋肉質。体の各所にベルトが巻かれ多数の暗器を備えているのは間違いない。
黒い影の男の光る目が抜け目なく3人から目を離さない。
片足を封じられ動けない僧兵が、拳を影の男に向かって放つ。腰の入らない拳を軽く払った影の男は、片足立ちの僧兵の軸足膝関節に強烈な足蹴りを食らわせ、ヒザを真逆に破壊する。
痛みに悲鳴を上げようとする、その痛覚神経のスピードよりも早く肘鉄が僧兵の顔面に入る。肘鉄を食らったまま僧兵の頭部は向かいの壁に激突し、廊下の壁面に僧兵の頭部の半分が埋まった。
顔面がスイカのように潰れた。潰れた顔面から鋼鉄のヒジを抜くときにも、男の目は残った2人からいっさい離れなかった。
魔法使いがその杖を敵に向ける。
「ロウリィ、みんなを呼んで来い!急げ!」
ロウリィが後ろに向かって走り出す。3階にはまだ3名の団員がいる。
魔法使いが詠唱を開始するより先に影の男が飛び込む。詠唱の完成しない魔法使いなどナイフも持たない子供程度の脅威でしかない。
手刀で杖を弾かれる、魔法使いの弱い手首はその反動で挫けた。飛んだ杖が壁に当たって跳ね返る前に、詠唱をしていた舌先から差し込まれたナイフが舌を両断し咽頭を貫き脳幹を破壊した。集まり始めていた魔力は霧散し破壊の魔法は誕生することなく消えた。魔法使いの喉の奥まで差し込まれたナイフをそのままにし、影の男は残った獲物を追った。
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