第17話


 一人目を調理し終わった影の男は階段に足をかけたが、昇るのをやめ調理場の影に隠れた。

 二階から旅団の一人が降りてきた。

 「マイキス、やっぱり団長がこっちにいろって…!」

 女性団員は脳の内部までよく焼くことに忙しい料理人マイキスの死体を発見する。恐怖に囚われ一瞬声がでない。発声器官が動き出せば上の階にいる団員達に危機を伝えられる。彼女は大声を発するために息を吸い込む。

 その一呼吸が終わる前に背後の影が二刺しし、彼女の生命活動を停止させた。


 影の男は二階に昇る階段の陰に佇み、上の階層の人の動きを探る。

 単独で動く人を感じた。その男は一人で個室に入る。放尿の音が聞こえてきた。トイレのようだ。開けっ放しのトイレの扉をゆっくりと押し開き、無防備な後ろを取ろうとしたが、放尿の出し終わった彼もまた、暗いダンジョンで感覚だけを頼りに生き延びた戦士だった。わずかな気配を感じ後ろに振り向き、振り下ろされるナイフを寸前で受け止めた。大声を発しようとした口に装甲付きのヒジを打ち込まれ、折れた歯の破片と声を飲み込まざるをえなかった。

 大の男2人がトイレで絡み合う。死闘の最中に影の男は気づく。トイレが前世仕様、洋式トイレだった。しかし水洗トイレのような洗練された物ではなく、便器の形を洋式トイレの形にしただけの汲み取り式だった。この形の便器をこの世界で作るのにも誰かが苦労したのだろう。

 もがく男の膝が影の男の腹部に当たる。しかし密着状態では効果が薄い。金的を狙うがそれは避けらている。逆に腕をねじ上げられ上半身の自由を奪われる。

 優位に立った影の男は容赦なく男の顔を便器に叩きつける。男の血が便器の中に流れ込む。抵抗力を失った男の頭を思いっきり便器に打ち付けた。

 便器は打ち砕かれ、男の頭蓋骨も打ち砕かれた。男は洋式便器とともに命なき廃物となっていた。

 3人まで殺したが大きな音を立ててしまった。二階のリビングにいる団員たちがこちらに向かってくる気配を感じ、影の男は便座の死体をそのままにいったん隠れることを選んだ。


 「マイキス、ルリア、ホランド…」

 団員たちは2階の片隅に殺到し、すでに3人もの仲間が殺されているのを確認した。

 地下の食料庫に潜み、調理場でマイキスを刃物で暗殺し、下りてきたルリアも気づかれずに殺した。その後に便所で格闘の末にホランドを撲殺。状況を確認したテイラー団長はこの暗殺者はおそらく一人、殺害方法も通常の人間のものであることを確認した。

 それならばまだこちらが有利だ。

 残った10人を3分割し屋敷内の再捜索を命じた。

 ・戦士(団長)、軽戦士(ケヴィン)、魔法使い

 ・重戦士、格闘家、僧侶(ヘンドウ)

 ・軽戦士、僧兵、魔法使い、マッパー(ロウリィ)

 この3チームで自分たちの屋敷を魔物の潜むダンジョンと見立てて、暗殺者を探し出し討伐する戦いを開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る