第13話
昼過ぎ、ようやく起き出した団員たちが大きなリビングルームに集まってきた。13人が集っても手狭に感じない広さ。それぞれがくつろぎ今までの苦労をねぎらう。
この新拠点は彼ら紅旅団の一つの達成点だった。地方領主の邸宅に匹敵する拠点。転生者達が掴んだ成功のステータスだ。
ケヴィンは昨日のロウリィとのことを相談できそうな相手を探して”破戒僧ヘンドウ”をその相手と決めた。彼はケヴィンに取っては「悪い年上の兄」といった存在であり、事あるごとに下世話なジョークをしてくる”破戒僧”だった。
彼に真剣な相談として話した結果、彼が最初に引っかかったのは意外なところであった。
「お前、避妊とかしてるの?一生懸命。ププププっ」
隣の連中に広めようとしたのをケヴィンは必死に止めた。確かに避妊具もないこの世界で、それを懸命にやっている自分は度を越した生真面目かもしれないと、ケヴィンは外部の目を通して初めて自覚した。
ヘンドウが説明するにはこの世界での着床率は前世の世界に比べて非常に低い。その事に関しての研究などはないが(パートナーのいる)転生者達は実感として知っていた。
ヘンドウは単なる「子供が欲しい、欲しくない」という問題だと捉えていて、ケヴィンの本当の問題が「前世の人格も含めて愛するのが難しい」という事にまで思いがいっていないようだ。
ケヴィンは仕方なく「相手の前世が気になるか」という質問をした。
「俺は気にしない。というか俺の前世も酷いもんだからお互い様のハズだ」
「そうじゃなくて、前世での歳の差だよ。その、今の見た目と中の年齢が違うだろ?」
「女の歳ね~。女は誤魔化すからな~」
そういう問題じゃないと思いつつ、これは前世と今世で年齢に違いがないケヴィンだけが感じる問題なのだと、ようやく気づいた。
「俺は前も今も18だった。ヘンドウは今20で前は何歳だったわけ?」
ヘンドウは酒をグビリと飲んで、ケヴィンの肩をバンと叩いて
「若いって素晴らしいな」
と、答えを言わなかった。
「ヒェっ」
誰かの息を呑む悲鳴が聞こえた。一瞬で歓談の声が止まる。そういった音に敏感な傭兵団の一同は一斉にその声の発声主、そしてその人物が固まって見ている方向を見た。
女性団員が見ているのはリビングの暖炉のうえの壁。未だ装飾がなされてない白壁の一面に…
13枚の小さな紙が等間隔に貼られていた。
一人の団員が近づいてその紙を確認する。団員全員が固まって見守っている。リビングに入ってきた時にあんなものが貼られてはいなかった。あれほど特徴的なものと無地の白壁を見間違えるわけはない。その異様さの正体を確認するまで誰も動けない。13枚の紙を1枚1枚確認した後、団長を呼ぶ。
団長がそばに来るまでにその男は13枚のうちの一枚を剥がし自分の胸元にしまった。
団長は男の言葉を聞いた後、紙を確認し皆に正体を告げた。
「写真だ。おそらく俺たち全員の前世の姿が写っている。そして前世の文字でその真名も…」
全員がわっと動き出す。自分の写真を確認し驚きとともに引き剥がす。全員の顔が青い。
それは転生者の絶対の秘密。前世での冴えない姿、冴えない名前、冴えない人生。それはいつも断片的に抽象化して同じ転生者に話している。共通の話題として、共感の話題として。しかしけっして本当のリアルは話さない。本当の自分なんて、過去に捨ててきたはずなのに。
悪夢の合格発表のような場になったリビングで、ひとりケヴィンだけが出遅れた。団長は写真を裏表に確認し場が落ち着くのを待っている。ヘンドウは苦い顔をしながらも懐かしい目で自分の前世の顔を見ている。ロウリィは、誰よりも早く飛び出し胸元に写真を押し付け誰にも見せないよう必死だった。
その必死な目とケヴィンの目が会ってしまう。何も言えないケヴィンは最後に残った自分の写真を、学校の廊下に張り出された様な過去の自分の顔写真を、皆と同じように剥がすしかなかった。
自分の嫌いな顔。もしかしたら世界で一番嫌いな、過去の自分を不幸にした犯人の顔写真。そこに前世の文字で自分の名前が書いてある。見たくない、読みたくないと裏返すと
「今夜、死する者」
殺害の予告。その文字は全員の写真の裏に書かれていた。
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