第11話


 ケヴィンが目覚めた時、寝台にロウリィの姿はなく彼は一人だった。

 愛する人なしで一人で目覚めなければならない理由を思い出し、憂鬱な目覚めになってしまった。その理由は昨日の夜、このベッドの上で起こった事だ。


 愛を交えた後、まだ若いケヴィンは有り余る精力に命じられさらなる愛の交歓を求めた。それを焦らすロウリィはその幼い容姿からは想像できない女の顔を見せた。

 彼の上になりその熱い体を重ねてくる。顔を近づけ肉欲の交換条件のようにこう言った。

 「子供が欲しいの」

 「子供って、あの小さくてうるさくて、コボルトみたいな?」

 熱に浮かされたケヴィンは冗談を受け流して早く始めたかった。

 「小さくて、可愛くて、昔のあなたと私みたいな子供が欲しくない?」

 彼女の体が重くのしかかってきた。

 「あなたと私の子供を作りましょ。幸せになれるわ、きっと」

 ケヴィンもロウリィも同じ村に同じ年に産まれた。お互い18歳。ようやくこんな関係になれて3ヶ月。ケヴィンはこの快楽だけが続く関係だと思っていた。彼女の目がケヴィンの目を直視し離さない。彼は一瞬、彼女の緑黄色の瞳のその瞳孔に、深い深い闇を見たような気がした。

 返答に窮した。彼女の体重を重く感じ始めた。彼は彼女の欲求が何処から来ているのか疑問を感じてしまった。

 彼女の欲求は、彼の知るロウリィ・ライトの人生から来ているものなのだろうか?

 それとも彼と同じく転生者であるロウリィの内側にある転生前の人格が命令しているのではないか?

 ロウリィは彼に頬ずりし再び同じ言葉を耳元に囁いた。彼女の体の重さは彼の肺を潰し呼吸を困難にする。女の要求は彼の幸福の外にあるものだった。ケヴィンの知らない女が彼にのしかかって、彼の精子と人生を要求している。

 その夜、彼と彼女は人生設計の相違によって喧嘩をした。

 表面上はそういう風にして内面の恐怖を悟られないようにした。ケヴィンは彼女に、見知らぬ女に背を向けて同じ寝床で眠った。


 朝の冷えた空気の中、寝床の二人分の残熱も彼の心を温め直すことはできなかった。

 ケヴィンもロウリィもお互いが転生者であることを知っており、互いに真名も教えあった。ケヴィンは彼女の真名を思い出そうとしたが思い出せない。真面目に聞いていなかった。お互いに過去生の敗者復活戦をしているということもわかっていた、はずだった。

 ケヴィン・ウォルス。真名・畑中景は暗い小中高学生時代を送り、とうぜん彼女もおらず人生は悲惨であった。だから早死した彼は転生しケヴィンとして新しい世界で新しい人生を得た。

 幼馴染のロウリィとようやく結ばれ、これからが人生の花の時代が始まるはずだった。

 「子供が欲しいの」

 記憶の中で再生された少女の声は脳内で反響しすぎて年増声で聞こえた。若く利発で気が利く、あの少女の内側にいる何かがあの声を発した。

 彼も彼女もお互いの前世の話をしたはずだ。お互いに「だから今世では愛する人といい人生を送りたい」と話あったはずだ。ケヴィンは彼女が語った前世の話を思い出す。

 彼女がした前世の話は「不幸であった」という共感部分だけで、ディテールについてはほとんど喋らなかった。彼女の年齢すらあやふやだった。

 互いに「前世は関係ない」という事を確認しあってもいた。

 ベッドから出て服を着る。

 「前世を気にしてる俺がダメなのか?」

 前世と今世で共に18歳の若者であったケヴィンは、初めての人生の壁に悩んだ。

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