第10話


 「今度の獲物は13人だ」

 女神パーシャルティーは死の宣告とともに立ち上がった。森の様々な動物たちが女神のために捧げた供物を払い飛ばしながら。


 朝陽の中に座していた彼女はまさに女神であり、周りに集まった小動物たちや昆虫たちは被食捕食の関係性もわすれて、みな一様に彼女に見惚れていた。彼らは自らの最上の物を差し出し崇拝の念を示そうとしていた。それはたいていが死骸や木の実であったが。

 しかし立ち上がった瞬間、心のこもった供物は女神の膝からゴミのように捨てられ、女神は死神に変わった。自らが作り出していた至福の空間を自ら破壊した。女神にとっては人間も愛らしい小動物も等しく無価値であるということを証明してみせた。

 ずかずかと歩いて小動物を蹴散らし、貧素な朝食を取っているみすぼらしい男を見下ろした。

 「13人、多いな」

 食事中の男、天野主命は荷物から包みを取り出し地面に広げた。

 様々な形のナイフたち。

 主命はまるで一本で一人を殺すかのように自分のナイフを一本ずつ確認する。ナイフの数は一人に一本使ってもまだ余った。

 主命はナイフに対するフェチズムはない。ただ道具として信頼し尊敬もしているだけだ。仕事にミスがないように手入れも欠かしていない。

 「転生者13人で”緋色旅団”という傭兵集団をやっている。モンスター専門の傭兵でダンジョン制圧に関しては世界でもトップレベルだ」

 「転生者がそんなに集まってるってのも不思議な話だな。そもそも転生者はその素性を隠したがるもんだろ」

 ナイフを確認しながら、少ない情報から戦い方を想像する主命。

 「もともとその13人は同じ村の出身だった。20年前から3年の間に産まれた子供が全て転生者だった」

 思わずナイフから目を離してしまう。

 「まじかよ。気持ち悪いな」

 「結果、その村で産まれた子供たちが傭兵集団を立ち上げて全員で名を上げた…なにが気持ち悪いんじゃ?」

 「気持ち悪いだろ、親の気にもなってみろよ、産まれた子たち全員が前世の記憶を持ってて、前世の願望で好き勝手にやるんだぜ」

 「旅団として名が知れ、収入はだいぶある。その村にも豪邸が建ったそうだ。めでたしめでたしというところじゃろ」

 「桃太郎ならそうかもしれないけどさぁ…」

 女神の顔が心底分からないという表情であった。

 「普通の人間としてはそれは気味が悪い部類に入るって話、侵略SFみたいで…」

 主命はファンタジー世界の神にSFを説いている事のバカバカしさを感じた。

 人間に価値を見いだせない神が、人間の感情に思いを馳せるという事はないだろう。感情自体に価値を見出していないのだから。

 「じゃあその13人を順番に殺せってことね」

 脇道にいくら進んでも意味はない。本筋の仕事の話に戻す。

 「いや、13人まとめて殺せ。奴らは今、この先にある半要塞の別荘に全員集まっておる。そこを襲え」

 残酷かつ無慈悲な女神の要求。

 それは被害者達にとって残酷であるだけでなく、加害者にとっても無慈悲であった。

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