「平凡(ハズレ)カードの傭兵団」より ~異世界転生傭兵集団~
第9話
転生者の見る夢は前世と今世の記憶の混合物である。そして大体が記憶の強度にまさる前世の彩りに支配される。
もともと転生者とは前世においての後悔強き者がなるものなので、彼らの見る夢が居心地良きものとなる事は少ない。
後悔という悪夢を毎夜みる。それが転生者の常であり、それが彼らの今世での「幸福を求める力」の原動力となるのである。
他の通常者がただ漫然と生きているのに対し転生者は、産まれた時から後悔の記憶を持ち、常に餓えに追い立てられるように彼らが思い描く幸福を求める。
結果、より多くの成功者が転生者の中から生まれるのだが、それが幸福なことであるかどうかは、神ならぬ彼らに知ることはできない。
転生者、天野主命の見る夢もその後悔の地獄であった。
死と殺意。
殺しと殺害。
殺すと殺してやる。
四方が全て殺意と怒り。地面は死体で作られ、そこから産まれる物はすぐに殺され地面を作る死体となる。暗闇から降りしきる肉体は落下の悲鳴を上げながら地面に激突して死体へと変わる。
その死体の荒野に夢の主が立っていた。
天野主命の後悔と怒りがこの世界を次々と作り出し、次々と殺していった。
「ひっどい夢じゃのー」
その隣に女神パーシャルティーが事も無げに立っていた。
この世界の王たる主命は彼女の入国を許可していない。しかし夢の王など世界の神の敵ではなかった。怒りの化身であった主命は元の主命に戻るが、世界は悪夢のままだ。
「ま、たしかに潤いがないわな」
主命も自分の精神世界が腐っている事は認めることができた。しかしこれが今現在の彼の根源であるため否定はしない。
「こんなものを毎日復習してても、日常であれだけ普通の顔をして生きてるんだから大したものじゃな」
主命は普通の人間として生活できているが、殺人を犯し続ける連続殺人鬼の顔も持っている。
悲鳴を流しながら男が直ぐ側に落下しヒキ肉に変わる。
「お前の前世の記憶は具体的なディティールに欠けておるのう」
「俺はあんまり過去の事を覚えてない。どんな人間だったかも、どんな生活だったかも。このひたすらな殺意、怒りが前の人生を隠してしまってるみたいなんだ」
夢の中で自分の夢を冷静に分析する主命。女神の威光が彼に夢の中での自分を確立させているようだ。
「もう少し思い出せば、お前にも人間的な深みが出るはずなんじゃが」
「神様なんだから、俺の記憶とかいじれないの」
女神は冷ややかに主命の地獄を眺めながら
「お前の記憶は欠けている所が多すぎる。転生者の記憶はだいたい読めるのじゃが、お前は前世に置いてきたみたいじゃ」
記憶本体は置いてきて、その排出物だけを転生先に持ち込んでしまったのか。
「そろそろ起きろ。もう朝だ」
女神はそう言うと姿を消した。
女神がいた場所に陽が射す。死と殺意の世界の空に穴が空き、生命力に溢れた光が差し込んできた。
目覚めた主命は今まで見ていた夢を掴もうとするが、それは朝の靄のように消えていき、夢に女神が出てきたという微かな記憶としてのみ定着した。
野宿の一人寝。一人分の寝床に一人分の夜食の後。街道脇で野宿していたことを思い出す。地面の硬い寝床から起き上がると、大樹のそばに女神がいるのを見つけた。
樹々をすり抜けた優しい朝陽が彼女の周りに集まり眩しく輝く。その女神をひと目参拝しようと小鳥や小動物が集まり、口々に女神を賛美する声を上げていた。
主命もすぐに寝床から飛び出しその群れに加わりたいという衝動を感じたが、それをなんとか押さえ込み、その感情を破壊しようと日常的な言葉を使った。
「朝飯食うけど、食べる?」
「いらん一人で食え」
輝く女神は主命に一瞥もくれることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます