第七章

第七章

こなごな島の港。杉三たちは、みわが魔法をかけた船のおかげで、数時間で到着することができた。

杉三「これが、こなごな島?」

てん「はい。そうです。」

杉三「どこが、こなごな島なんだ?」

確かに、こなごな島という名前にふさわしくなく、まわりは木もたくさんうえてあるし、目の前にはアッピア街道のような立派な道路が、しっかりと整備されている。

杉三「こなごな島というから、もっと廃墟みたいな島なのかと思った。」

てん「本来ならこの島の名前は特になかったそうですが、松野が侵入したときに、建造物を悉く破壊したために、そう呼ばれるようになったと聞きました。」

みわが、てんの顔を見る。

みわ「とにかく、どこかで休ませてもらいましょう。顔色悪いですよ、大都督。」

てん「そんなことありませんけど。」

みわ「いいえ、ダメですよ。どこかに茶店とかあればいいんですけど。どこにも、見当たりませんね。」

杉三「とにかく、この道路を行ってみよう!」

てん「進め!」

と、リャマの尻をたたいたので、荷車はまた動き始める。

しばらくいくと、所々に住宅が見えてくる。住宅の大きさは、橘族の住宅より少し大きい程度で、ピグミーではないが、比較的低身長な人がすんでいるということがわかる。住宅は、橘族と同様、竹でできている。

さらに荷車をすすめていくと、首都と思われる竹でできた大型の建物が連なる場所へでる。しかし、松野族にある、商店のようなものはほとんど見られない。いわば、集合住宅のようなものは多くあるが、他人を泊めるという趣旨の建物は、見当たらなかった。

杉三「どっかに、おやすみ処みたいなところはないのかな。旅籠みたいなさ。」

てん「いわば、鎖国状態のような島だから、外部から人が来ることはないでしょうし、宿泊施設はなかなかないんじゃないかと思います。」

杉三「じゃあ、僕らはどこで泊まったら?」

てん「とにかく、政治の中心地へ行きましょう。」

突然、二人の男性が、杉三たちの前に立ちふさがる。身長は五尺三寸ほどであるが、少しばかり骨っぽく、きつい顔つきをしている。

着ているものは、てんやみわと同様に、着物をきているが、全体的に光沢があり、てんたちの着ているものより高級品であることもわかる。

てん「すみません。」

男性「こら、こんなところに、勝手に荷車を走らせて!」

男性「通行許可をもらったか。」

杉三「許可を持ってないとだめなの?」

男性「その通り。ここは、サン族の道路だからな。」

杉三「じゃあ、外から来た人は一切ダメなんですか。僕たちは、とても大事なようがあってきたのだけどなあ。」

男性二人は、顔を見合わせる。

男性「何処からきた?」

杉三「はい、松の国から。」

男性「松の国から?どのような種族なんだ?」

杉三「僕お名前は、影山杉三で、こっちは、親友のてんとみわさんと、」

てん「わたくしたちは、橘族のものです。どうか、おねがいします。わたくしたちをお二人の統治者に引き渡してください。どうしても、援助がひつようなのです。さもないと、」

といいかけるが、また咳き込んでしまう。杉三がその背をたたいてやる。

男性「橘ということはわかる。しかし、」

男性二人は、ちょっと考え込んで、困った顔をする。

てん「ごめんなさい。見苦しいところを見せてしまって。もう一度申しますが、お願いできないでしょうか。」

男性「まあ、そういうことなら、そうしてみようぜ。」

男性「あんまり体力も無さそうだからなあ。」

杉三「おねがいします。」

みわ「おねがいします。」

二人もそろって頭を下げる。

男性「了解した。ついてこい。」

てん「ありがとうございます!」

男性たちのあとについて、てんはリャマをすすませる。

その集合住宅街を突っ切る広い道路をしばらくいくと、大きな円形の建物にたどり着く。それは、ドーナッツのように、中心に空き地がある。その中に、寺院のような形をしている、竹でできた建物が立っている。

杉三「これが、皆さんの政治の中心なんですか。すごい立派な建物だ。」

男性「荷車から降りて、ここに入れ。」

杉三「僕らをおろして、中にいれてください。僕たちは歩けないので。」

男性「歩けない?それなのに、よくきたな。」

杉三「はい、ぼくも、てんも足が不自由なのです。だからこうして荷車に乗ってきたわけですよ。二人とも立てないので、移動するには、こうしないとだめなんです。」

男性「仕方ないな、全く。」

男性たちは、杉三とてんを持ち上げて、地面におろす。杉三は男性の一人に車いすに乗せてもらって自ら移動し、てんは一緒に入れてあった、車付きの台の上にのせてもらって、みわに紐で引っ張ってもらいながら、そのたてものに、入っていく。

男性「どういうわけか、橘の奴らが、ここにやってきました。なんでも頼みごとがあるらしい。一応、害はないと思ったので連れてきたのですが、一体何を望んでいるのか、わかりません。重大なお願いらしいのですが。」

十数人の男女が輪を描いて座っていた。みな、白髪のある年寄りたちだった。みな高級な着物を身に着けていて、髪型も整っているが、生き生きとした表情とはいいがたい。

男性「こっちへ来い。そして、そのお願いというのを言ってみろ。この者たちは、サンの、統治を任されている役員たちだ。お願いがあるのなら、まずこれらの役員たちに言わなければいけないことになっている。」

てん「わかりました。」

と、その輪の中心部にいく三人。役員たちは、じっと彼らを見つめる。その目は批判のこもった目で、中には疑いの目を持った者もいる。

てん「今日、ここに参りましたのは、わたくしたち橘族をはじめ、多くの松が壊滅してしまう可能性が出たからです。わたくしたちは本来発展を望まない種族として栄えてきました。しかし、現在、松野はわたくしたちを襲撃するつもりです。わたくしたちは、松野の襲撃に備え、文字を取り入れ、簡単な製鉄も取り入れましたが、到底追いつくものではありません。あるものが、学校や紙の生産を行わせていましたが、それもうまく順応せず、逆効果になっている。そうではなく、皆さまに、正しい発展の仕方をご指導いただきたい。そして、逆効果になったのをとめられるように、指導いただきたいのです!」

役員「それは、橘族だけの問題でしょう。私たちがかかわることじゃない。」

役員「松野の襲撃は、二度と体験したくありません、私たちは、争い事は何より嫌いなのです。」

てん「だって、皆さんは、松野の襲撃に勝利したことがありますよね?」

役員「この、こなごな島の意味をご存知ですか?松野は、この島にあった、古代の遺跡や貴重な建物を、すべて破壊していきました。それに、松野の襲撃で、何十人もの子供たちの命が奪われ、悲しみに暮れた家族が何人いたでしょうか。そのようなことをもう一度体験したくはありませんね。」

役員「それに、私たちは、その松野に勝利して以来、一度も武力抗争をしたことはないんです。それは、私たちの誇り。それを、破るわけにはいきません。」

役員「私たちは、先ほどの方も言いましたが、多くの子供たちや若者たちを失いました。松野の爆撃で目の前で子供たちが焼け死んでいくところも目撃しました。それに、手塩をかけて育ててきた子供たちを、兵隊にすることで、子供たちが亡くなっていき、その悲しみにも直面しました。もう二度と、そんなことをしたくはありません。」

てん「でも、皆さんは、松野の襲撃を止めることに成功しているのだと聞きましたが、それを武器にして、松野と対等に向き合うことはできるのでは?」

役員「いえいえ、松野と戦うことはまず不可能です。松野は強大です。確かに私たちは負い払うことはできたのかもしれないけれど、そのせいで、私たちは、住民から信頼を失い、住民はもはや、私たちを侮るようになっています。それをまた繰り返すなんて、二度としたくありません。お断りします。」

てん「それでは、わたくしたちはどうしたらいいのです。わたくしたちではとても松野に歯向かうことはできません。それでは、わたくしたち橘は滅亡してしまう!」

役員「でも、私たちも、松野を倒してから、一度も戦争をしてこなかったということに誇りがあります。それを破るわけにはいきません。私たちは、傷ついているのです。」

役員「松野の襲撃以降、戦争は二度としないと私たちは誓いを立てたのです。それをどうして破ることができましょう?戦争をしない民族として、これからも誇りをもって生きていきたいと思うのです。」

杉三「それって、ただ、誰とも関わってこなかっただけじゃないか?」

みわ「杉ちゃん、」

杉三「いや、僕にはそう感じるな。だってここは、一つの島であるし。船を出さないようにすれば、誰も出ていかないし、誰も入ってこないだろうし。それだけの事じゃないの?」

役員「それこそ、私たちサン族の誇りですぞ。」

杉三「どこが?そうして誰とも会話しなかったことを誇りだというの?違うと思うけどね。」

役員「あなたは、私たちの伝統を壊すつもりですか?」

杉三「伝統って何さ!ただ閉じこもってただけじゃん!自分の平和のためには他人の事には一切手を出さないの?それってわがままだよ!何も意味ないと思うね!」

てん「どうかお願いです、わたくしたちの松の国が占領されてしまう前に、協力してください!」

役員「しかし、私たちは、」

てん「お願いします!」

と、手をついたその瞬間、激しい咳とともに赤い血が噴水のように噴き出して、てんはわからなくなった。

役員「なんだ、労咳か、この人は。」

杉三「そうじゃなくて、、、。」

と言い争っている声がしたが、全く聞こえなくなってしまった。


サン族の客用寝室。

うっすらと目を開けるてん。

杉三「気がついた?」

てん「ここは?」

杉三「サン族の客用寝室を貸してもらったの。僕が頼み込んで、一晩泊めてほしいとお願いした。旅籠は一軒もないからさ。よかったね。追い出されなくて。」

みわ「杉ちゃんが、ああして頼み込んでくれなかったら、かしてくれなかったかもしれませんね。もう、涙流して、この人を何とか生かしておきたいからっていって。いくら、サン族のひとたちが、だと言っても、聞かないで。あきれられているくらいでしたよ。」

杉三「だってそうしなければ、通じなかったんだよ。」

みわ「でも、杉ちゃんみたいに、納得する結果が出るまで、お願いをし続けるのも、大切なのかもしれませんね。」

てん「もう一度お願いに行きましょう。」

みわ「だめですよ、休んでいなくては。」

てん「でも、急なんですから。」

といって起き上がろうとするが、せき込んで布団にたおれこんでしまった。杉三がその額を触って、

杉三「すごい熱がある。」

確かにその通りだった。

みわ「私が代わりにいきますから。休んでください。」

杉三「僕も行く!僕らが代理で、必ず何かつかんで見せる!」

二人がそういうと、てんは、涙を流して申し訳なさそうな顔をした。

てん「お二人ともごめんなさい。口惜しい。」

杉三「何が?」

てん「わたくしは、とうとうここで。」

杉三「何バカなこといってるの!しっかりしてくれ!まだ、お願いもしてないじゃないの!」

みわ「杉ちゃん、怒るのはやめましょう。あんまり責めるとよくなりませんよ。」

杉三「わかった!何か食べたいもんでもある?」

てん「できることなら、もう一度松茸をたべたい。」

杉三「わかった!じゃあとってくるから、しばらく待っててくれ!」

みわ「ちょっと、杉ちゃん、ここは松なんか、」

しかし、杉三の耳には入らなかったらしく、どんどん車いすで出て行ってしまった。

道路。まわりは夕焼けが明々とてっている。

杉三「えーと、松茸、松茸、、、。」

と、道路脇に植えられている木の根を、観察するが、松茸は見つからない。松はほとんど生えていないのである。そのうち、日は沈んでしまい、真っ暗になってしまった。杉三は、それでも松茸を探し続ける。

杉三「真っ暗で見えなくなってきた。」

と、車いすから降りて手で這う姿勢になり、手の平で土を触ってマツタケを探す。

すると、会議場のなかから、一人のサン族の男性が近づいてきて、杉三の肩を叩く。

杉三「なんだ、いま大事なものを探しているから邪魔しないでくれ!」

男性「何を探している?」

杉三「松茸!」

男性「松茸をどうするんだ。」

杉三「てんにあげて食べさせる!」

男性「食べさせる?なぜマツタケを?」

杉三「てんが一番好きだったものがマツタケだからだ。ほかに理由なんてあるもんか。もしかしたら、これが、末期の水ではなくて、末期のマツタケになるかもしれないんだ!」

男性「それだったら、もっと良いものを出したほうがいいのでは?」

杉三「ほかに何があるんだよ。あんたらはどうせ、誰とも関わりあってこなかったんだし、僕らのことわかるはずもないだろ。てんが一番食べたがってるのはマツタケだ。それを探して何が悪いのさ。」

男性「君はなぜそんなに、熱心に探すのだね。」

杉三「当り前だ!てんは大事な友達だからな!ああ、もうわかんなくなってしまったじゃないか、マツタケ、マツタケ、」

なおもマツタケを探し続ける杉三。

男性は、しばらく考えて、杉三に声をかける。

男性「君、松茸よりもっといいものがある。こっちへ来てごらん。」

杉三「もっといいもの?」

男性「そうだ。私たちサン族は同じ状況であれば、それを使うんだ。来なさい。」

杉三「本当?」

男性「本当だ。」

杉三「わかった。じゃあ、僕を車いすに乗せてください。」

男性「わかったよ。」

と、杉三を車いすに乗せる。杉三は、男性のあとに続いて会議場のほうへ戻る。男性が道路をあるいていくと、すれ違って歩くものはみな敬礼するので、かなりの権力者であることがわかる。

男性は会議場近くのある小さな小屋のまえでとまり、入り口の戸を開ける。

中には赤や青の液体の入った瓶が、戸棚の上にきっちりと整理されて置かれている。男性は、そのなかから、火のように赤い液体が入った小さな瓶を杉三に渡す。

男性「鼈の生き血だ。これを君の主君に飲ませてやりなさい。これを飲めば労咳から、回復できるだろう。」

杉三「本当?」

男性「勿論。」

と、杉三に微笑みかける。

杉三「やったあ!どうもありがとう!これで、てんもみわさんも、喜ぶぞ!」

男性「一体君は、どうしてそんなに、純粋なのかね。まるで、その顔は、自分のことのようによろこんでいるじゃないか。そんな態度をとる人間なんて、全く見たことがない。」

杉三「うれしいからに決まってるじゃないか。僕は馬鹿だから、それしか言えない。」

男性「馬鹿だから?」

杉三「ほかに何があるんだよ。理由なんて。悲しいときは全身で悲しみ、うれしい時には手放しで喜ぶ。それで当たり前だ。」

男性「全く変わっているな、そんなかおして喜ぶものは、サン族の中では、ほとんど見たことはない。そんなに喜びを表現するなんて、ありえない話であるぞ。」

杉三「そうなんだね。でも僕は馬鹿だから、そうさせてもらう。じゃあ、これをてんに持っていくね。本当にありがとう!」

と、瓶を懐にいれて、勢いよく戻っていく。


サン族の客用寝室。

てんは、横になったままでもせき込む。みわが、血を吐きだしやすくするように、背中をたたいてやる。せき込むと、血がだらだらと流れてきて、てんはぎこちない手つきで、それを着物の袖で拭き取る。

てん「本当に、わたくしは、もう、」

みわ「大丈夫ですよ。横になって少しここで休ませてもらえば、よくなりますよ。」

てん「そんなこと、あり得るのでしょうか。なんだか、もう無理なような気がしてきました。」

みわ「あり得るって、あるからいさせてもらっているんじゃないですか!ないとわかればとっくに追い出されていますよ、大都督!」

てん「そうはいっても、もう、動けなくなりましたし。」

みわ「しっかりしてください!何とかして、松の国へ帰る使命があるじゃないですか。そんな弱音を言っちゃだめですよ。ここで休ませてもらったら、もう一度、皆さんにお願いをしなければなりません!」

杉三の声「みわさーん!」

と、急いで車いすを操作してくる音。

杉三「みわさん!てん!いいものをもらったぞ!これを飲めばよくなるんだって!いい人がくれたんだ!」

入り口のドアが乱暴に開いて、杉三がやってくる。息はあがり、汗が滝のように流れている。

杉三「一刻も早くと思って急いで帰ってきたよ!マツタケは見つからなかったけど、とてもいいものを代わりにもらってきた。これを飲んで!」

と、懐から先ほどもらった瓶をてんに突き出す。

てん「これは?」

杉三「すっぽんの生き血だってさ。これを飲むと、労咳に効くらしい。」

と、一生懸命瓶のふたを開ける。

みわ「起き上がれます?」

てん「支えてください。」

みわに背中を支えてもらって何とか座ったてんは、杉三から瓶を受け取ると、それに口をつけて、一気に中身を飲み干した。

みわ「お味は、、、?」

てん「まずい。」

と、苦笑い。

杉三「だめ、文句言っちゃ!せっかくもらったんだから、さいごの一滴まで飲んでよ。」

てん「はい、わかっております。」

と、みわの介添えで、再び横になる。

てん「でも、一体だれがこれをよこしたのですか?その人は、どんな人でしたか?」

杉三「あのね、すごく偉い人なんだなと思うの。その人が道路を歩いていると、周りの人たちはみんな敬礼していたから。でも、物腰が柔らかくて、悪い人とは思わなかったな。なんとなく、頭の固い人だなあとは思ったけど、でも、すごく権力はあるんじゃないかな。」

てん「つまり、ここの最高権力者、、、?」

みわ「じゃあ、杉ちゃんに声をかけてくれたのは?」

てん「も、もしかしたら、、、。おそらく、ビーバー様ではないかと。」

杉三「ビーバー様って誰なんだ?名前を聞く暇がなかったからなあ。」

てん「ええ、杉ちゃんがあったのは、ここのこなごな島の、統治者ですよ。ここのサン族を動かしている方ですよ。その人がどうして杉ちゃんに接触できたのだろう。」

杉三「よくわからないけど、マツタケを探しているときに偶然会ったの。」

てん「すぐ、ご挨拶に行かなくては。」

みわ「待ってください。せっかく特効薬のようなものをもらったんですから、少し休んだらどうですか。すぐ動いたら、全く意味がなくなってしまいますよ。」

杉三「そうやって、すぐ挨拶に行こうとするんだから、まだまだ大丈夫だ!きっと、よくなって、必ず帰れるよ!」

てん「え、、、?」

杉三「そうなったということは、劇的に効いたということになるんだな。」

てん「杉ちゃん。」

杉三「よかった!」

てん「ええ、ええ、、、。」

みわ「私も、安心しました。」

三人、苦笑する。てんの白い顔に、少し血の気がさしてくる。

みわ「じゃあ、明日に備えて休むことにしましょう。」

てん「はい。」

杉三「そうだね。」


翌朝。使いが、杉三たちの部屋にやってくる。

使い「お休みになられましたか?朝食を持ってきました。」

声「どうぞ、開いてますよ。」

使いがドアを開けると、もう布団はたたまれていて、てんも車のついた台に座っている。

使い「もう、食べられますか?」

杉三「はい、朝食抜きでは、大事なことはできないでしょうが。」

使い「わかりました。じゃあ、こちらをどうぞ。」

と、丸いちゃぶ台のようなテーブルとイスを用意してくれて、そこに、持ってきた運搬車から、朝食が乗ったトレーを三人の前に置く。

杉三「どうもありがとう!いただきます!」

と、用意してくれた白いご飯にかぶりつく。

杉三「ここでは、白いご飯が食べられるんですか。白いご飯なんて久しぶりに食べた。」

使い「いいえ、こういうものを出すのは、お客様だけですよ。」

杉三「あ、そういうことはつまり、」

みわ「どうしたの、杉ちゃん。」

杉三「うまく行ったんだね!」

みわ「うまくいった?」

杉三「だから、白いご飯を食べさせてくれるということは、お客さんとして認めてくれたということだから、僕らのお願いも聞いてくれるんじゃないの。」

てん「ありがとうございます!ビーバー様にお伝えください。お礼を言いたいので、食事が終了したら、お目にかかりたいと!」

使い「わかりました。伝えましょう。」

みわ「まだ、寝ていなくて大丈夫ですか?」

てん「ええ、もう大丈夫ですよ。もう、弱音を吐くことは致しませんから。よろしくお願いします!」

みわ「私からもお願いします!」

杉三「僕からも!」

使い「わかりました。大丈夫ですよ。ビーバー様は、杉三さんが必死でマツタケを探しているのに、感動してしまったとおっしゃっていました。ですから、そんなに頭を深々と下げなくても、お目にかかることはできると思います。」

てん「ありがとうございます!よろしくお願いします!」

使い「では、一時間したら、呼びにきますので。」

と、静かに去っていく。


朝食終了後、使いに連れられて杉三たちは、会議場の一番広い部屋に入る。昨日の老人たちが、また輪になって座っている。杉三たちは再びその輪の中心部に座らされる。輪を構成している老人たちの中で、杉三は昨日、鼈の生き血をくれた人物を見つける。

杉三「あ、昨日会った方だ!あの人だよ!僕、顔を覚えているもの!」

てんも、この人が誰だかわかったらしい。

てん「やはりビーバー様だったのですね!本当に感謝申し上げます。わたくしはおかげさまで、ここまで回復することができました。」

と、座礼をする。杉三とみわも続いて座礼する。

ビーバー「ああ、まだ回復したばかりなのですから、あまり大げさな反応はしなくても結構です。それより、松の国がどうなっているのかお聞かせ願いたい。」

てん「ええ、このままですと、松の国は永久に松野族の物になってしまうと思います。そうなりますと、松の国の大事な国民であります、松の木たちが、皆燃えカスになってしまうでしょう。また、わたくしたち橘族の中でも、勝手にわたくしの先代、つまりぬるはちがおかしなことを始めてしまっています。軍事的な教育を行ったり、勝手に三椏の木から紙を作ったりして。そうしたら、わたくしたち橘も、松野と同じような運命をたどることになるのです!」

ビーバー「松野と、友好関係を保とうということはできなかったのですかな。」

てん「たぶん、このままでは無理でしょう。そして、一番恐ろしいのは、わたくしたちが、松野の高度な文明に近づこうとしているところです。本来、わたくしたちは、松たちと共存していくために、文明を発展させないことを選択して生きてきました。それが崩れてしまったら、わたくしたちは一気に滅亡への道を行くことになるのです!文明が発展していって、自然を馬鹿にするようになった時がわたくしたちの一貫の終わり!だから、どうにかして止めていかなければいけません!でも、わたくしは、わたくしの力では、どうしてもできないことも知っています。だから、こちらへはせ参じた次第です!どうかお力を貸してください、お願いします!」

みわ「お願いします!」

杉三「きっと、皆さんもほかの人のためになんとかしたいという気持ちは持っていると思うんだ。だって、てんにいいものをくれたんだからさ!確かに、他の人と交流しなかったのは、もしかしたら、誇りになっていたのかもしれないね。でも、立派な国家というのは、他の人たちにも手を出してやることも、必要なんだと思うんだよね!だって、文明化しなかったって、簡単そうに見えるけど、意外に大変だよ!僕は、馬鹿だけどそのくらいはわかるから。だからこそ、協力しなきゃいけないんじゃないのかな。」

役員「しかし、我々の伝統は、、、。」

杉三「だから、そういう飾り物に凝り固まっているから、いつまでも前に進まないの!伝統とか称号とか、それほど役に立たないものはないよ!僕はそう思うな。それに固まってあるいはそれをめぐって、何百回も争い事が起きているのにさ、誰も気が付かないんだもの!そんなことはもうやめようって何十人もの偉い人がいっているけど、効果が出たことは一回もないよね。そうじゃなくて、そういう飾り物じゃなくて、今ここで何があるのかに気が付くことが善にも悪にもなるんだと思うよ。」

役員「この人は、立場を考えずにものを言うのですか。その年でそんな偉そうなことを言って、一体自分の立場というものがわからないのですかな?」

杉三「当り前だ!言わないで誰が言うんだよ!立場なんてね、役に立つもんじゃないよ。年齢も、障害も関係ないの、誰かが言わなきゃ。立場がどうのこうのなんて、そんなこと言わないでさ、内容を見てくれる人って、どこの世界もいないんだね!」

ビーバー「もうおよしなさい。彼のいっていることは間違いではありません。確かに、人生で一番大事な時はいつでも今であると、聞いたことがありました。彼は、それを訴えたいのだと思いますよ。そうですね、杉三さん。」

てん「では、、、。お願いできますか!」

ビーバー「私どもも協力しましょう。私たちも、松野のせいでひどい目に合ってきたことは確かです。それをこの橘の皆様方にも味わせるわけにはいきません。」

てん「ありがとうございます!ありがとうございます!」

改めて座礼するてん。

ビーバー「では、私どもは、部隊を集めてそちらに向かいますから、皆さんは先に松の国へ戻ってください。私どもは、部隊と一緒に、そちらに伺います。」

杉三「必ず約束は守ってくれますね。本当に!」

ビーバー「はい、必ず守ります。」

てん「ありがとうございます!本当に心から感謝いたします!」

ビーバー「しかし、てん殿、あなたはそのような部下を持てて、本当に幸せですな。その不思議な言動といい、暗い中でマツタケを取りに行こうという忠実さといい、素晴らしい部下を持てたと思います。」

杉三「僕はてんの部下じゃないぞ。友達だからな!」

役員たちは呆然としているが、てんは役員全員を見渡して、

てん「ありがとうございました!」

と、三度座礼する。

みわ「心からお礼します!」

続けて座礼する。

杉三「約束、守ってくださいね。」

彼だけが、唯一座礼をしなかった。それでも、ビーバーたちは拍手をしてくれた。











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