第五章

第五章

村の中心部のてんの屋敷。

杉三が、また七輪でマツタケを焼いている。その一方で、てんは、石板に向かって西方の森の木の管理について、計画を練っている。

と、少しせき込むてん。

杉三「てん、大丈夫か?最近よくせき込むな。」

てん「いえ、何でもありません。大したことありませんよ。」

杉三「それならいいんだけど。少し休んでマツタケを食べたら?」

てん「杉ちゃんは、不思議な方です。読み書きができなくて、ここで、学問を教えることができないから、ということで、わたくしが引き取ったのでございますが、もう、遠い昔からの友人のような気がします。」

といってまたせき込む。

杉三「大丈夫?」

てん「ええ。平気ですよ。」

杉三「じゃあ、マツタケを食べよう!」

てん「わかりました。」

と、口を着物の袖で拭い、杉三のほうへ移動する。かつて、室内では直に手で這って移動しなければならなかったてんであったが、現在は小さな車輪のついた、棒で動かす台に正座で乗っている。

声「大都督、お邪魔してもよろしいでしょうか。」

杉三「みわさんだ。」

てん「ええ、どうぞ、開いてますよ。」

みわ「ありがとございます。」

と、戸を開けて、軽く敬礼してから中に入る。

てん「どうしたんです?」

みわ「ええ、実は昨日、西方の森へ用事があって行ってきたのですが、、、。」

言いかけるが迷いがあるらしい。表情を見て、重大なことであることはわかる。

杉三「何かあったの?ひどいことでも。」

みわ「私は、、、先祖代々がそうだったとおり、魔術師として大都督に使えてまいりました。その魔術により、杉三さんたちをはじめとして、技術者をこちらへ連れてくることには成功いたしましたけれども、それがおかしな方向へ進もうとしているのを、目撃してしまいました。間違っても主力はあの方々、つまり杉三さんのご友人ではありません。それは補償いたします。ですが、先代、つまりぬるはち様が、彼らを利用して、間違った方向へ進ませているのです。」

てん「一体何を?」

みわ「先代は、決して大都督には伝えるなと私にも、くぎを刺して言いました。。しかし、私は、目の前で三椏の木々が切り倒されているのを目撃してしまうと、我慢できなくなってしまいました、、、。」

てん「待ってください。わたくしたちの金属では、竹を切ることはなんとかできますが、木を切り倒すということはまずできなかったのでは?」

みわ「それが、鉄の斧を使えば可能になるというのです。事実、すでに何百本の三椏や雁皮がそれによって切り倒されております。彼らはそれを小さく切り刻んで水で煮て、鉄の塊で叩きつぶし、紙というものを作っているのです!」

てん「なんということを!紙を作ることは、わたくしたちには不可能であり、また製造する必要もないとわたくしたちは学んできたはずです。それをなぜ製造しているなんて、言語道断です!」

みわ「はい、それもそうですけど、さらにひどいことに、学校というものを建設して、文字や製鉄などを伝授しているのです。子供を大量に集めて、ひとりの大人がそれを管理し、文字や製鉄を競争の原理で教えている。事実、それらを覚えられなかった子は、食事を抜かれるとか、厳しい罰が与えられることになっているらしいのです。」

杉三「よせ!学校は百害あって一利なしだ。僕たちの日本では、学校のせいで、自殺している子供がどれだけいると思ってるんだよ!そんなこと真似してどうするの。」

てん「わかりました。明日、その現場へ行ってみましょう。」

みわ「もっと早く伝えるべきだったのですが、申し訳ありません!伝えようか伝えないか、本当に迷っていたのです。だって、先代も先代ですから、伝えたら私も、」

てん「いいえ、ご自身を責める必要はございません。それより伝えてくれないで、知らないままでしたら、より無駄な伐採が進んで、より悪化するところでした。植物たちは意思があります。それをわたくしたちがむやみに奪い取ってはなりません。どうやってそれを止めるかを考えましょう。」

みわ「私は、責任を感じています。私が技術者を呼び出したばかりに、植物たちが、」

てん「でも、技術者を呼んで来いと命を出してしまったのは、わたくしなのですから、わたくしが責任を取らなければならないと存じます。」

杉三「植物たちばっかりじゃない。そうやって、へんな教育を受けていく子供たちが心配だ。だって、自然には敵うことがないから発展をあえてしなかったという歴史は、僕は素晴らしいものだと思うし、、、。それは日本ではできなかったことだから、それがなくなってしまうということは、ほんとうにもったいないというか、悲しいというか怒りさえ覚えるよ!だって、素晴らしかったものがなくなっちゃうんだもん!」

てん「まさしくその通りです。わたくしたちは、新しいものがあったとしても、必要最小限だけ使えればそれでよいのです。逆を言えば、わたくしたちが抱えている問題が解決できればそれでよい。あえて、そこから何かする必要はありません。より便利になっていけば、苦労を忘れます。苦労を忘れたら、おごり高ぶって、それがなくなると無責任な怒りしか感じなくなって、誰かのせいにする文化になる。ただでさえ災害の多い地域ですし、それによって苦労する生活に戻されたらどうなります!誰かのせいにしていたら、二度と立ち直れなくなるでしょう。わたくしたちの先祖が、文明を進化させなかった理由はそういうことなのです!」

杉三「何とかしてやめさせよう。明日、現場に行って、それを見てこよう!」

てん「ええ、言わなくてもそうしますよ。」

みわ「私も一緒に行ってよろしいでしょうか、大都督。」

てん「ええ、かまいません。」

杉三「説得には多ければ多いほどいい。僕も一緒に行くよ!」

再びせき込むてん。

みわ「大都督、お体が悪いのでは?」

てん「いえ、気にしないでください。それよりも、彼らをどう止めるか、それを考えるほうが先でしょう。」

みわ「そうですけど。」

てん「大丈夫です。」

心配そうに見る、みわと杉三。


翌日。

てんは、礼の荷車にリャマをつないだ荷車にのり、杉三はみわに車いすを操作してもらいながら、西の森へ向かう。

しばらく移動していくと、森の代わりに、竹でできた大きな建物が二つ見えてくる。手前の建物からは子供たちの声が聞こえ、後の建物からは火を燃やしているのか煙が出ている。

声「起立!礼!」

声「昨日の試験の答案を返す!」

声「はい!」

声「みんな成績が良くなかった!これでは、お父様やお母様に申し訳ないと思え!これでは、いざというときに何もできないぞ!これでは、襲撃してきたときに、何も戦えないじゃないか!」

声「へえ、またあいつ上位か。」

声「全く、腹が立つよな。教練の成績はいつも丙なのによ!」

声「文字は覚えられるのに、教練はできないのは意味ないんじゃないの?」

声「やっちまえ!」

声「おう!」

泣き叫ぶ声と、馬鹿にして笑っている声が聞こえてくる。

杉三「わああ、いじめだ!」

みわ「子供が?子供が子供同士をいじめるんですか?」

杉三「そうですよ。これは、教練の成績が悪いのに、学問の成績が良い子が、周りの子たちの恨みをかっていじめられているのです。こうなれば、日本では、これによって、子供が自殺することだってあり得るんです!」

みわ「死ぬ、ということですか!」

杉三「日本とおんなじことがこっちでもおこるようになったんだ!これを解決できたのは、日本では一回もないんだ!そんなことがこっちでもおこるようになったんだね!」

みわ「子供は、私たちの大事な後継者です。そ、それをそうしてつぶしてしまうとは、先代は何を考えているのですか。早く何とかして止めなければ!」

杉三「早く行こう!もう、乗り込んじゃっていいよ!これでは教育ってもんじゃない。大げさだけど、拷問のようなものだ!」

みわ「行きましょう!」

しかし、両手で顔を覆って泣いていたてんは、急にせき込み、手指をみるみる赤く染めて前に倒れてしまった。


村中心部のてんの屋敷。

布団で寝ているてん。杉三がその枕元にいる。

杉三「気が付いた?みわさんに頼んで、こっちまで戻してもらったんだ。僕らだけでは、とても運べないからさ。みわさんの移動させる魔法があってよかった。」

てん「ごめんなさい。申し訳なかったですね。」

杉三「そんなことはいいんだよ。しばらく休んでいないとだめだってさ。明日、僕はみわさんと二人でもう一回あそこへ行ってみるから。」

てん「わたくしも参ります。」

杉三「ダメ!寝てなくちゃ!しっかり寝て、また動けるようになったら行動すればいいの。」

てん「そうですね。情けなくて仕方ありません。」

杉三「自分を責めてはいけないよ。誰だって、仕方ないと思わなきゃいけないことだってあるよ。そういう時は、おとなしくしてればそれでいいの!」

てん「ごめんなさい。」

杉三「だからいいんだってば。てんは、気にしないで休んでれば。」

てん「そうですよね。確かにこの体では、ご迷惑をおかけしてしまうかもしれません。ごめんなさい。どうか、詳細に観察していただけますよう。」

杉三「わかったよ。まかしときい!」


翌日。みわと杉三はもう一度、西方に行ってみる。みわは、持っていた巾着袋から、風呂敷を二枚出す。

みわ「杉ちゃん、この風呂敷を首に巻いて。これには、魔法がかかっていて、これをかぶったら姿が肉眼では見えなくなるの。そのままの姿で入ったら危ないから。もしかしたら、簡単には入れないかもしれないし。」

杉三「わかった。」

と、みわから一枚の風呂敷を受け取って首に巻く。そうすると、確かに彼の姿は、まるでなくなっている。

みわ「姿は見えなくなるけど、声は残るから声を出さないでね。」

杉三「はい!」

みわ「じゃあ、押していくから、一緒に中に入りましょう。」

杉三「了解!」

二人、姿の見えないまま、紙工場にこっそり入っていく。

必死に作業をしている作業員たち。

それは、かつて楽しそうに農作業をしていた趣はなく、ただ黙々と続いている。ただ、木を煮る鍋や、紙をすく桶に向かい、口をへの字型にしたまま、何もしゃべらず、何も歌わずに働いている。その光景は、なぜか異様だった。今まで歌を歌ったり、笛を吹いたりして、楽しそうにやっている働き方とは違う。

その様子を、管理官と思われる竹刀を持った偉そうな人物が観察していて、少しでも従業員たちの手が狂うと、ただちにその頭を竹刀で叩くのである。

管理官「こら!しっかりせい!まじめに働け!」

従業員「は、は、はい、すみません。」

まるで軍隊の様だった。それ以上かもしれない。

管理官は複数いて、別の管理官が持っていたハンドベルのような鐘を鳴らす。

管理官「では、昼食休憩とする!30分したら戻ってくるように!」

従業員たちは作業する手をやめて、工場の外へ出て行った。杉三たちも姿を消したまま、外へでた。

工場の中庭に入って、持ちよりの弁当を食べ始める従業員。

従業員「なあ、お前のところどうなんだよ。」

従業員「最悪さ。いくら勉強しろといっても、いうことなんか聞かないさ。」

従業員「それじゃ、ダメじゃないか。」

従業員「机に向かってくれるなんて、希だよ。だけど、いつごろから俺たちは紙を作るようになったのだろうか。」

従業員「そうそう。お役人に管理されてな。」

従業員「でも、俺たちが働けば、子どもは俺たちを見て育つ。そして、学問をして、俺たちより偉くなって、恩を返してくれる。と、言うのがお役人の理論だけど、ちっともそんな風にならないよな。」

従業員「まあ、試験の成績さえとってらいいんじゃないの。」

従業員「それはある意味免罪符だぜ。」

従業員「ほんとだ。まあ、俺たちは、役人の付属品に過ぎないというわけか。」

従業員「正確に言えば、こどもの、な。」

と、別の従業員が出てきて、

従業員「何をいっているんだ、お前のうちの子はとても成績がいいじゃないか!そんなんで、なかなか机に向かわないなんてあり得ないぞ!」

従業員「まあ、僻むなよ。お前のところだって、きっとそのうち真面目に勉強するようになるさ。」

従業員「お前たちは、子どもが多いからそうやってのんびりしていられるが、俺の両親はとっくに死んでいるし、子どもも一人しかいない!そうなれば、俺のうちは、お前のいえのように、豊かにはなれないのか!それなのに、そうやってへらへらと働いているなんて、俺ははらがたってしかたないんだ!」

従業員「仕方ないことなんじゃないのか。誰だって、個性ってもんがあるからな。子供の数位、違って当たり前だぞ。」

従業員「個性だと?もう一度いってみろ!」

従業員「だから、僻むなよ。こどもの数なんて、俺たちが決めることは、できないじゃないか。」

従業員「黙れ!」

と、相手に飛びかかっていく。

管理官「こらあ!喧嘩してはいかん!昼食時間はとっくに終わっているぞ!罰として三人とも、百叩きにする!ここでは、個人的な感情を持ってはならないのだ!」

と、三人の従業員を一列に並ばせ、持っていた竹刀で、彼らの頭をぶったたく。そのうち、三人の頭から血が流れ始める。

管理官「始末はお前らでしろ!これ以上喧嘩をしたら、お前らの賃金はないと思え!」

従業員「わかりました!すみません!」

管理官「それがなくなったら、お前らはどうなっていくかわかっているだろうな!賃金を作れなければ、何が待っているのか!」

と、叩くのをやめて、工場に戻っていってしまった。


再び、作業に戻っていく従業員たち。

工場はシーンとなっており、紙をすく音や、金槌で楮を砕く音しかしていない。

しばらくして、何人かの従業員たちが、原料である楮を砕いて、小さな木片にしたものを、荷車にのせて大量に運んできた。そうして、またそれを巨大鍋にいれてにる。なんとも大変な作業である。かつては、楽しくおしゃべりしながら働いていたのに、今の工場は、それは全く許されず、楽しいどころか、苦痛でたまらない作業になっているようである。


杉三たちは、姿を消したまま、学校にいってみた。こっそり、窓の隙間から、教室のなかをのぞいてみた。

進路指導が行われているらしい。教師が、何か話していた。

教師「お前たちは、学校をでたら、何かやりたいものはあるか?」

子ども「お年寄りを助けたりする仕事をしたいです。」

教師「うん、今一番正しい生き方は、医療とか介護とか福祉だ。それであれば、需要もあり、安定した生活ができ、他人に必要とされるから、人望も得られる。これが、一番正しい生き方だな。そうすれば、周りから、尊敬も得られる。それこそ、幸せというものであり、親御さんも安心して逝くことができるだろう。将来年を取ってなにもできなくなっていく親御さんに感謝の気持ちを抱くことができて、平和な生活を送ることができるだろう。」

子ども「先生、鉄を作っていくのはどうですか?」

教師「うん、これから、鉄はますます必要になるだろうから、それも正しい生き方のひとつである。最新鋭の知識を得ることができるし、鉄をもって戦えば、敵に勝利して、尊敬を得ることもできるようになるだろうね。」

子ども「先生のように、子どもを育てる仕事は必要になりますか?」

教師「うん、それも必要になるね。鉄の知識、文字の知識、そういうものを教えていけば、より知識のある人間を作ることができる。そうすれば、子供や大人から尊敬される。それも、正しい生き方だな。」

子ども「では、着物や紙を作る仕事はどうですか?」

教師「うん、それがなければ我々は生きていけない。生きるために必要なものを作る仕事も、また正しい生き方だ。ひっきょうして、先日教えた正しい生き方を、いってごらんなさい。」

子ども「はい、金をつくり、その金を渡して親を養うのが一番正しい生き方です!」

教師「では、お前はどんな生き方が正しい生き方だとおもう?」

言われた子どもは一瞬躊躇する。

教師「いってみろ!」

子ども「ふ、笛をつくることかと。」

教師「ばかたれ!いま何の授業かと思ってるんだ!そんなものを作っても何になる?笛を吹いてもその曲を美しいと思うものは誰もいない。それに、のめり込みすぎて無一文になったら、お前は親殺しということになるな。そうか、親殺しをするつもりなら、その危機に直面する前に自殺してしまえ。そうするしか、お前は親に恩返しをする手段がないぞ!」

まわりにいた子どもたちがいっせいに笑いだす。

子ども「やれやれ、あんたんとこは、一生懸命紙を作っているお父さんがなくよ。」

子ども「そのうち、家を売り払って路上生活をするようになるんじゃないの?」

子ども「笛にのめり込みすぎて、生活できなくなったら、お父さんもお母さんも生きた心地がしないわよね。自殺が一番よ!」

教師「泣くもんじゃない!正しい生き方をしないからそうなるのを肝にめいじて、これからは、笛作りはやめて、正しい生き方に戻るようにしなさい!」

机に突っ伏し、なく子ども。

まわりの子供たちは、ゲラゲラと笑って、彼をからかう。

子供「自殺!自殺!自殺!自殺!」

机をたたいて大笑いする子供たち。

再び、あのハンドベルのような鐘が鳴る。授業の終わりの合図だ。

教師「では、今日の授業はここまでにしておくから、次の授業までに何が正しい生き方なのか、よく考えてくるように!」

子供「はい!」

休み時間。先ほどの、笛の発言をした少年の下に、強そうな子供たちが集まってくる。

子供「お前って馬鹿だよな。これから、路上生活になるんだな!」

子供「今のうちに、家が野分で吹き飛ばされないように、何とかしておくことだな。あ、ちょっと待って。この教室に路上生活者がいるなんてなんと汚いことなんだろう。」

子供「ほんとだな。その匂いで、教室が臭くなったら最悪だ!」

子供「わあ、汚い。それじゃ、勉強できなくなるわ。」

子供「うるさい邪魔ものよ!」

子供「よし、やっちまえ!」

少年「やめて!」

子供「うるさい!」

あっという間に子供たちは少年を取り囲み、体を殴ったりけったり。しまいには帯を鋏で切り取り、着ている着物を脱がせてしまう。誰も彼らを止めようとする者はいない。ただ眺めているものもいるし、無視して次の授業の予習をしているものもいる。そして、その教科書は完全に紙でできていて、すべて、手書きで作られていた。これこそ、親の過剰な期待を示しているのかもしれない。


あまりにもかわいそうで見ていられなくなった杉三とみわは、急いで学校から脱出し、松林の中で魔法の風呂敷を取る。

杉三「ひどい光景を見たな。日本ではよくあるが、まさかここで行われていたとは。」

みわ「彼はどうなってしまうのかしら。」

杉三「日本では、おそらく誰も助けてはくれないで、そのまま逝ってしまうのがほとんどなんですけどね。ここではまだ救いはあるんじゃないかなと思うんですが。」

みわ「そうですね、大人が支えようという精神はまだあると思いますから。私たちが一番大切にしなければならないのは、子供たち!」

杉三「その言葉があるのなら大丈夫だとは思います。」

みわ「でも、私たちも何か対策を立てなければいけませんね。だって、正しい生き方を指導する何て、まずありえない話ですもの。屋敷に戻って話し合いましょう。」

杉三「そうだね!」


同じころ。教職員の官舎にいる蘭たちは、教職員ように、特別に出された豪華なごちそうを目の前に座っているが、食べる気になれないでいる。

蘭「僕らは、へんなことを教えてしまったのだろうか。ここの人たちが、あまりにも文明化していないのに、腹を立てたなんて。」

水穂「逆に、子供にも、大人にも、かわいそうなことをしてしまったような気がする。確かに、なんでそんなことも知らないんだって、腹が立ったけど。」

蘭「もう。日本に帰ったほうがいいんじゃないかな。」

水穂「でも、放置していたら、学校も紙工場ももっと悪くなって、ここも住みにくい地域になるだろう。そうしたら、完全に僕らの責任だよ。」

蘭「あの時、何も知らないって言ったよね。あの人たち。」

水穂「そうだね。でも、文字もなければ、鉄もなければ、車輪の文化もなかったんだぞ。それをおこるほうが間違っていたんじゃないかな。なんで、何にも知らないんですかって、怒鳴ってしまったのか。僕らはなんてばかなことをしたのかな。」

蘭「口は災いのもとだとは、このことだ。」

水穂「あの時の顔を見たか?みんな凍り付くような顔だったじゃないか。」

蘭「そうだったな。なんで人間って感情でいってしまうのだろうか。」

ぬるはちが入ってくる。

懍「先代、子供、大人どちらにも、厳しい罰を加算するのはやめたほうが良いのではないでしょうか。」

ぬるはち「いいえ、このまま続けます。あなた方がああして激怒してくれたから、私たちは文明の遅れというものを思い知りました。ですから、これからもここに残って、授業を続けていただきますよ!」

懍「確かにそうですが、それは、この二人の個人的な感情であって、彼らを厳しく教育せよと命令を下したわけではありません。」

華岡「いや、俺はそれでいいと思いますよ。危機意識を持たせるためでしょ。それなら、たるんでいるところはしっかりさせたほうがいいと思うし。理想に走ってたら、何も始まらんし。」

蘭「でもさ、なんかやりすぎのような気がするんだよな。」

華岡「気にするな!俺たちはちゃんとやってるさ。それでこんなごちそうが食べられるようになったんだから!」

確かに、テーブルには、様々な果物が乗っていた。中にはドリアンとか、マンゴスチンのような、珍しいものもあった。

水穂「お前は結局それか。食べ物には本当に目がないな。でも、食べ物をもらうために仕事をするわけじゃないよ。」

と、言うより早く、華岡は果物をかぶりついている。

水穂と蘭は、顔を見合わせて、ため息をついた。

懍が何気なく窓の外を見ると、遠くのほうに、なんとなく白いものが映っていた。しかし、それが何なのかを確かめることは、懍の目ではできなかった。

水穂「僕たちは、こうして学校を建てたけど。それ、本当に正しいことだったのかな。」

蘭「なんだか、間違ったほうに行ってしまった気がするね。」

水穂「はじめはさ、教えるというより、感情的になってしまった。だって、彼らはなにも知らないよ。知らなくて当たり前だもの。そういう文化はなかったのであればね、なおさらだ。」

華岡「でもよ、そういうやつらを無理やり動かさなければならなかったんだ。そのためには少しばかり、怖いという雰囲気を出してもよくないか?」

蘭「お前の言う通りなのかもしれないな。」

華岡「そうだろ!」

さらに果物を食べ続ける華岡。


数日後、教室。昨日笛の発言をした、少年の席は空席になっている。教師が入ってくる。

教師「授業を始める。」

子供「先生、としやがまだ来てないんですけど。」

教師「かまわん。放っておけ。」

子供「わかりました。」

教師「では教科書を開いて、、、。」

教職員の官舎の前。

水穂が、官舎から教室に行こうとしてドアを開けると、あの少年が立っている。

水穂「としや君。」

少年の顔が弾きつる。

水穂「どうしたの?クラスで何かあった?」

少年「いや、、、。」

水穂「教室、行きたくないの?」

少年は、申し訳なさそうに頷く。

水穂「やっぱり、いじめがあったんだね。つらいんだね。教室に入るのが。」

少年「はい、、、。」

水穂「つらかったら逃げてもいいんだよ。兵隊ではないんだから、必ず教官の指示に従わなければいけないかということはないからね。」

少年「でも、親も、みんなも紙工場で働いているから申し訳ないです。」

水穂「でも、君が生き生きしていないほうが、もっと申し訳ないんじゃないかな。」

少年「どうしたらいいんですか?」

水穂「はっきりと、苦しいということ。必要があれば逃げてもかまわない。体や心が壊れたら、一番つらいのは、君と、君の家族だからね。」

少年「でも、先生は、他の人には一生懸命勉強しろと言っていたでしょう。」

水穂「ごめんね。僕らは、そうしなければいけないんだ。でも、中には、君のようにちょっとずれている生徒だっていると思うよ。そういう人も世の中では必要になるからね。だから、君は君のままでいい。もし苦しいなら逃げなさい。」

少年「そんなことない。先生は、紙工場で働けなければ、僕らは生きていけないって言ってた。」

水穂「ううん、紙工場で働くのが全部じゃないよ。」

少年「そうですか?」

水穂「そうだよ。君が目指している笛吹きは決して悪いことじゃないから。」

少年「本当に?」

水穂「本当だよ。いずれは、笛吹きの必要な行事も出てくると思う。例えば、宴会なんかで、笛を吹く人はいるでしょう。その人たちだって、いずれ年を取るわけだから、後継者はどうしても、ほしくなる。だから、その一人になればいいのだと考えればいいの。これからも頑張って笛を吹きなさい。」

と、立膝に座りなおし、少年の肩をたたいてやる。

少年「先生はやさしいね!どうもありがとう!」

水穂「だから、お父さんとお母さんに、今これだけ大変だと、ちゃんというんだよ。」

少年「うん、わかった!」

水穂「もし、学校へ行くのがどうしても嫌なら、来なくたっていいから!」

少年「ありがとうございます!」

と、自宅のほうに走っていった。





















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る