壺の桜桃、大石蕗
第6話
昼下がりの砂漠をサトコとコシヲは足早に歩いている。昼下がりといっても、もう一刻もすれば陽はどんどん傾いてくる。
期待したほど作物の
「コシヲ悪いわね」
「どうせついでだ、気にするな」
都に行く回数こそ少ないが、いつも肥料や農薬を調合する
「ねえ聞いた?絹が倍近く値が上がってるんだって」
「ああ俺も聞いた。こないだ東で水害があって、絹の里一つ流されたせいらしいな」
「さっそく商人が売り渋ってるわけね。ま、村じゃめったに出ないものだし」
「イチミが要るって云わないか」
イチミはつい先頃まで都で貴人の衣装を縫っていた。
「アカミソと同じでしばらくは都へ出ないって云ってたから大丈夫」
「ああ、もうそんなになるか、じゃしばらくはいるんだな、上着が薄くなってたんだあいつに頼もう」
「うん、それがいいわよ。暇そうにしてたから、生地ならいいのがあるよ今日のお礼に安くするけど、どう?」
返事がないのでコシヲの方を向くと、コシヲはサトコより三歩遅れて立っていた。
「どうしたの」
声を掛けるとコシヲは前を指差した。
「シヲタじゃない」
コシヲがびっくりした様に立ち尽くす横で、サトコも驚いて声を上げた。遠く見える砂丘に姿を現したシヲタは一息つくように立ち止まり、二人に気づいて手を振った。
「シヲタ!」
「どうしたんだシヲタっ」
砂を蹴り上げて駆け付けたサトコとコシヲに、シヲタはのんびりとほお笑んだ。
「ちょっと都まで行ってきます」
二人は一層驚いた。シヲタが村を離れるのをかなり長いこと見ていない。サトコが何か云おうとする前に、シヲタは心配しないでくださいと請け合った。
「朝までには戻ります」
そう云うと陽が落ちる前には都に入りたいからと止める間もなく行ってしまった。
村へ戻るとまたひと騒動だった。皆でシヲタの家へ行ってみると二人が云うように、朝には戻りますとだけ書かれた半紙が一枚置いてあった。
「シヲタのことだから何か理由があってのことだろう。朝には戻ると云うんだし」
「でもどうしたんだろ、この前シヲタが村から離れたのって、確か前に兵隊が来た時だったよね」
「寺院の住職が足を折った時でしょ?」
「とにかく」
色々云い合って終わらないサトコ達に向かい、アカミソはもう一度云った。
「云ったように朝には戻るんだ、わけなら後で必ず教えてくれるよ」
「シヲタだしね」
未醂もうなずいてからサトコとコシヲを見た。
「二人とも疲れただろ、お茶を入れるよ」
陽はおおかた傾いて、薄い月がぽかっと空に浮かんでおり、昼間の熱が嘘のように冷やりとした夜気に包まれている。
「宿はとったのかしら」
青白い空を見上げていると、コシヲがひとつくしゃみをした。
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