第3話

 荷物をまとめながらティアムが云った。

「そういえばこの村は都から離れてるせいでしょうか、静かで良い所ですね」

「都近くのオアシスは客引きやらで大変だったよな」

 危うく火箸を盗まれそうになったらしい。手紙を受け取った二人にサトコが答えた。

「ああ、ここはあんまり訪問者は来ないもの。でもそんなに静かでもないよ」

「ここ暫くは静かですが、彼等はいつも突然です」

「一気にやって来るもんね」

 砂漠の直中ただなかにあるゝ味村だが、遠い東の大国から来る兵士の巨大な隊列の、最初の通り道となるのだ。

「あまりに遠いので予測不可能なのが困りものです」

「そうそう」

 シヲタもサトコの様子も話題の割にお気楽なので、一抹の余計な不安でウェルダは尋ねた。

「村を兵隊が通って行くってことですよね、平気なんですか?」

「彼らが通った後は草一本見当たりません」

「でも取り敢えず逃げるのが精一杯で、荷物なんて云ってられないよね」

「仕方ありません、生きていることが大事ですし」

 ティアムは潔さと達観に感服したように云った。

「その通りですね。ですがそんなに突然やって来るんですか、?何か―――」

 うなりのような地響きの音がしたかと思うと、シヲタの家の戸が強い音を立て勢いよく開いた。 

 皆一斉に開いた戸の方を見ると、ひとりの村人らしき者が立っていた。

「来たぞ!!逃げろ!」


 途端シヲタとサトコの動きは速かった。

 一瞬の目配せの後にはサトコは脇目も振らず村人と駆け出して行った。

「こっちへ」

 シヲタはウェルダとティアムの先に立つと、サトコの出て行った表口とは反対の戸へ向かった。

 後はもうあっという間の出来事で、兵士達の大群が巻き上げる砂埃の中、シヲタに導かれるままに走り、気づけばウェルダとティアムは二人、だだっ広い砂漠の真ん中に立っていた。


 シヲタも村も、兵士の姿もどこにもなく、ただ遠く離れた場所に寺院らしき建物がぼんやりと見えていた。





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